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瑞稀の血を手にした玲夜くんは挨拶もそこそこに、急ぎ足で研究所に帰って行った。
「ところで瑞稀、どうして俺の会社の傍にいたのだろうか?」
玄関にて玲夜くんをふたりで見送り、リビングに戻った矢先に訊ねる。俺が訊ねたことで瑞稀は足を止めて、しっかり顔をあげて口を開いた。
「今日はたまたまバイトがない日だったので、マサさんと一緒に夕飯を食べようと思ったんです。退勤時間にLINEしたんですけど既読にならないから、残業してると判断して――」
言いかけている細身の体をぎゅっと抱きしめ、胸の中に閉じ込めた。
「マサさん?」
「……俺が妬いてること、わかってる?」
「えっ?」
大きな瞳を何度か瞬きして、俺の顔を見上げる瑞稀の顔がかわいい。なにを言ってるんだろうと、意味がわかっていなところも、腹が立つくらいに焦れてしまう。
「玲夜くんの吸血鬼の唾液に反応して、頬を赤く染めていたよ」
「あ……」
そのときのことを思い出したのか、バツの悪そうな表情を浮かべる。
「瑞稀、ごめん。俺が不甲斐ないばかりに、何度も玲夜くんに血を吸わせてしまったね」
「マサさん謝らないで。俺だってもっと抵抗できたハズなのに、体が変に熱くなったせいでその……」
体の事情を言いにくかったのか、瑞稀が顔を俯かせる。
「俺とは違う吸血鬼の唾液は、刺激的だったのだろうか?」
「刺激的とかそんなんじゃなく! マサさん以外の人に感じさせられて、自分の体がすごく嫌だった」
「嫌と言いつつも、大事な部分を淫らなカタチにしていたっけ」
「つっ!」
耳元で事実を突きつけてから、その部分をジーパン越しに握りしめた。
「マサさんっ、やだ!」
瑞稀は両手を使って、俺の手を外しにかかる。
「恋人の俺に触れられるのが嫌? それともまだ玲夜くんの唾液の影響が残ってビンカンになっているから、触れられたくないとか?」
「あ、明るい場所でこんなことをされるのが、恥ずかしくてダメなんですっ」
俯いて隠していてもわかる、瑞稀の顔や耳の赤み。そして体の事情が直に伝わるせいで、もっと虐めたくなってしまう。
「恥ずかしいと言ってるクセに、すぐに大きくなったね」
「それは――」
「瑞稀、顔をあげてくれ。キスがしたい」
「…………」
「最後まで君を守れなかった情けない俺となんて、キスしたくないよな」
瑞稀に触れていた両腕を力なく外したら、その腕に縋りつかれた。
「マサさん、そんなことを言わないで」
「俺は事実を言ってるだけだよ」
瑞稀を守りたかったのに、玲夜くんに翻弄されて、簡単に瑞稀を奪われてしまった。しかも何度もパンチを繰り出したのに、一度も当たらなかっただけじゃなく、ビルの壁に叩きつけられて、無様に打ちのめされたあのときの俺は、瑞稀に見られたくないくらいに格好悪かった。
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