「――うっ、うわああああぁあああっ!!!?」
突然の恐怖と共に、私は身体を跳ね起こした。
大量の汗をかいており、動悸も激しい。喉がとても乾いている。
……また、新しい朝がやってきた。
この目覚めを越えてしまえば、次に見る悪夢は24時間後だ。
一体あと何回、この悪夢を見ることになるのだろう。
もしも死ぬまでだとしたら、それこそ……いや、私は死なないのか。
痛む頭を振りながら毛布を除けると、私の横には何か臭うものが置いてあった。
「……ん? これは――」
それは昨日、草むらで採集したのと同じもの……10本ほどのニゾラ草だった。
何でこんなところに……?
そう思った瞬間、すぐ横でリリーがぷるぷると揺れているのを見つけた。
「……もしかして、リリーが採ってきたの?」
私はリリーを両手で持って、抱え上げながら話し掛けた。
昨日一緒に採りに行ったから、これを持ち帰れば私が喜ぶとでも思ったのかな……?
そんなふうに考えてしまうと、使う使わないは置いておいて、何だかとても嬉しくなってしまう。
「んーっ、ありがとね♪
でも外は危険だから、あんまり一人で出歩いちゃダメだぞーっ」
子供に言い聞かせるように言ってから、そういえば言葉なんて理解できないだろうことに気が付いた。
ずっと話し掛け続けていたら、そのうち理解するようになるのかな?
……いや、きっと無理なんだろうな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゴトゴトゴト……。
今日も今日とて馬車に揺られ、私たちは辺境都市クレントスを目指していた。
このまま順調にいけば、残りはあと15日といったところだろうか。
「このまま、今日も何事もなく進められれば良いですね」
「そうだねー。でも、そんなことを言ってると――」
……変なフラグが立っちゃうよ?
今は平穏に進みたいから、できるだけ誰とも会いたくないよ?
「――む。アイナ様、向こうから馬車がやってきます」
「早速ですか」
「え?」
「いやいや、何でも。
今回はスルーしておこうか。自然に振る舞っておいて~」
「分かりました。自然に、自然に……」
ルークはそう口ずさみながら、自然でいることを意識した。
でも自然を意識した時点で、もう自然じゃないんだよね……。
……余計なことを言っちゃったかな。
「――すいませーん!!」
馬車がある程度近付くと、遠くからそんな声が聞こえてきた。
こっそり前方を見ると、向かってくる馬車の御者が大声を出しているようだった。
「……アイナ様、どうしますか?」
「むぅ……。
スルーして面倒なことになってもアレだし、ちゃちゃっと応対しておこうか」
「分かりました」
ルークがそう返事をすると、馬車のスピードは徐々に落ちていった。
「どうかしましたか?」
馬車が止まったあと、まず最初にルークの声が聞こえてきた。
「怪我人がいるんです!
薬草かポーションはありませんか!?」
怪我人……!
私たちは追われている身だけど、人助けをしてはいけないということも無い。
さすがにこういうときは、助け合わないとね。
……しかし、今や初級ポーションの1つでも、私たちにとっては貴重なものだ。
これから何があるか分からないのだから、気安くは使いにくい。
それなら――
「エミリアさん、ヒールをお願いしても良いですか?」
「はい! アイナさんはここでこっそりしていてくださいね」
「了解です。それじゃ病人を装ってますね。おやすみなさーい」
「はーい、またあとで起こしますね」
そう言うと、エミリアさんは馬車を降りていった。
ルークも御者台を降りて、向こうの馬車まで様子を見に行ったようだ。
何事もなく終われば良いんだけど――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ぎゃっ!?」
しばらくすると、馬車の外から悲鳴が上がった。
「うおっ!?」
「ひぃっ!?」
「お、お助け……」
そんな言葉が響いたあと、周囲には静寂が訪れた。
むむ……? 一体何が……?
そう思いながら馬車の外を見てみると、ルークとエミリアさんの近くで、4人の男が地面に倒れていた。
男たちの外傷は無いようだが、見事に気絶させられている。
「……どしたの?」
「アイナ様、野盗でした」
私の質問に、ルークはあっさりと答えた。
野盗ごときならルークの敵にはなるはずも無いんだけど――
「それで、怪我人はいたの?」
「いえ、いませんでした。
みなさん元気でしたので、先ほどお眠り頂いたところです」
そう言うとルークは、野盗たちを一か所にまとめて、縄で縛り始めた。
「……エミリアさんは大丈夫でしたか?」
「ばっちりですよー。
最近いろいろな目に遭ってきたので、これくらいは何ていうことも無いです♪」
……ああ、そんな目に遭わせてきてしまって申し訳ありません……。
いつの間にか、こんなに逞しくなってしまって……。
しばらくすると野盗たちは縄で縛られて、近くの樹の下に綺麗に並べられた。
「このまま放置で大丈夫? 死んじゃわない?」
「はい、近くにナイフを残しておくので大丈夫かと。
あとは馬車の馬を逃がしてしまえば、アジトに戻るのも遅れるでしょう」
……ふむ。襲ってきたのは向こうだから、それも自業自得か。
そんなことを思っていると、ルークはさっさと野盗たちの馬を逃がしてしまった。
「……仕事、早いねぇ……」
「私たちも時間がありませんからね。
ところでアイナ様、馬車の中にはいろいろと荷物があるようですが、いかがしますか?」
「え?」
話を聞けば、馬車の中には盗品と思われるものがたくさん積まれていたらしい。
恐らく野盗たちは、これからアジトに戻るところだったのだろう。
そんなときに私たちを見つけて、欲を出して接触してしまったのが運の尽き……と言ったところか。
「盗品をもらうのって、法律的にはどうなの?」
「本来であれば、街に届けなければいけないのですが……。
しかし私たちは、街には入れませんし……」
「それなら放っておく?
……でも、私たちも状況が状況だからなぁ……」
役に立つものがあれば、正直拝借したい。
エミリアさんも黙認しているし、何ともアウトローな集団になりつつあるような。
……とりあえず盗られて困っている人もいるだろうから、ここは一旦私たちが預かっておこう。
このままだと野盗たちに売られちゃうし、それならまだ、そっちの方が良いよね。
もちろん平和な日が訪れたら、然るべき対応はさせて頂くつもりだ。
ひとまずは、私のアイテムボックスに収納……ということで。
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