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イスケンデル食堂のおばさんが、客の背中と背中の間を通り抜けたとき、中年男性のワイシャツの背中にかすった。男性は振り返り、おばさんの太った背中を睨みつけているのが俺の席から見えた。おばさんは俺のテーブルまで来ると苦しそうな吐息をし、身体を折り曲げて、薄いビニール製のテーブルクロスの上にヨーグルトをコンと置いた。定食についているデザートだ。どうぞの一言もない。たるんだ二の腕の肉が揺れる。彼女は前掛けのポケットからハンカチを出すと、額に浮かんだ汗を拭いて隣の席の食器を片づけにはいった。こんな店によく客が来るものだ。あの人はお客への感謝の気持ちという、商売の基本からして分かってない。もし店がバス停から今より数メートルでも遠かったならば、とっくにつぶれているだろう。俺もこんなとこ二度と来るまいと思ったことは何度かあるけれど、他の店は高いし、ここほどのボリュームもない。高校生にはやむを得ない選択だ。ベルトを一つ緩めてから、背もたれにあずけていた体を立て直す。肘が隣の人にぶつかった。すいませんと口走ると、相手はじろりこちらを一瞥しただけだった。ヨーグルトの上に、ガーリックチップの砕いたのが載っている。そんなことで客を惹きつけようとするこの店の小細工、魂胆にはあきれてしまう。一口すると、酸味がやや強かった。いつも思うのだが、この店の味は日によってばらつきがある。こんな気まぐれ商売をしていては、やっぱり先は見えている。