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「馨……」

「はい?」

「京都で玲に会った」

ホッとした。

元カノに会ったと告白されたのに、それが嬉しいだなんて、何とも奇妙。

「会いたくて会ったわけじゃないぞ? 接待先が|宇宙技術研究所《うぎけん》とも取引がったらしくて、偶然顔を合わせたら一緒に飯を食うことになったんだ」

「二人きり……じゃなく?」

「そんなわけないだろ」


じゃあ、あの写真は、二人きりに『見える』ように撮られた?


「玲は社長と一緒だったんだ。断れないだろ。一緒に飯を食って、飲み直そうって言われて社長の部屋に行った。けど、三十分くらいで俺は自分の部屋に戻ったよ」

「そ……う」

背後から雄大さんの腕が伸びてきて、私の手から食器を奪う。彼の手が私の手に添えられ、お湯で泡を流す。

「浮気してないことを証明する」

耳元で囁く声がいつもより低く、艶っぽくて、鼓膜を小さく震わせる。

「どうやって?」

「こうやって」

グイッと腰を抱き寄せられ、腰の辺りに硬いモノが押し付けられた。

「十日もしてないからな。想像しただけでこんなんだ」

耳たぶに生温かいぬるりとした感触。腰を抱く腕が緩まり、ゆっくりと身体の線をなぞって、胸に辿り着く。

「まだ、シャワー浴びて——」

服の上から先端をつままれ、思わず言葉を呑み込む。

「どうせ汗かくんだから、後でいいだろ」

「餃子……食べたし……」

「美味かったよ」

「そうじゃなくてっ——」

大きな掌に揉みしだかれて、身体が熱を帯びる。腰で少しずつ大きく硬くなるモノが、早く早くと急き立てる。

「悪いんだけど……」

雄大さんが私の身体を百八十度回転させ、抱きかかえた。ダイニングテーブルの上に座らされたと思ったら、あっと言う間にパンツとショーツが脚から抜け落ちた。

「一回イカせて」

「ひゃ————!」

少し、痛かった。

十日ぶりだったし、胸を触られただけじゃそこまで濡れない。

挿れる時、雄大さんも少し顔を歪めた。彼にしても、あまり具合が良くなかったらしい。

「きつ——」

それでも奥まで押し入って、それから服をめくり上げた。同時に、ブラジャーを引き下げる。

胸の先端を舌で弄られながら、繋がっている部分を指で撫でられると、徐々に痛みが和らいでいった。

「馨……」

耳元で許しを請うような、少し高めの甘えた声で名前を呼ばれると、興奮した。

お互いに、挿入っているだけの状態がツライ。

「馨」

「ゆ……だいさ……」

「動いていいか?」

「ん……」

キッチンには似つかわしくない、肌がぶつかる乾いた音と、粘膜が擦れる水音、浅く早い息づかいと私の声が響く。

「あっ……。ああ……っ」

「あーーー……。最高……」

全ての音が少しずつ速度を上げ、音量を上げ、激しさを増す。

腕で膝裏を押し上げられたままキスをされると、より奥まで彼で満たされた。

息もつけぬほど荒々しい口づけと、激しく乱れのない律動に、身体が汗ばむ。それは、雄大さんも同じ。

指先に力を込めなければ、雄大さんの首にしがみつく腕が滑り落ちてしまいそう。

私の腰を抱く彼の手にも力がこもる。

「ふ……。ん……」

絶え間ない抽送と同時に胸の先端を指で弾かれると、一気に絶頂に達した。

「あ——……!!」

いつもは私の身体が落ち着くまで待ってくれるのに、今日は待ってくれない。

それどころか、より一層動きを激しく加速させる。

いつも、繋がっていてもどこか冷静で、私を気遣ってくれる雄大さんが、今夜は余裕なさ気に私を揺さぶる。

それほど私を求めてくれているのなら嬉しいけれど、それだけではない気がした。

「ゆう……だ……」

雄大さんを見上げて、不安に襲われた。彼の瞳に、私は写っているのか。

「雄大さん……」

刺激を与えられ続け、何度もイカされて、身体が痺れていく。

感じすぎると声も出せなくなり、代わりに唇を噛んで快感に悶えていた。

「やっ——! 待って……」

声を振り絞っても、雄大さんには届かない。

「雄大さん!」

怖くなった。

壊れたおもちゃのように動き続ける雄大さんが、快感に悦んでいるようにはとても見えなかった。

「雄大さん!!」

思わず雄大さんの肩に歯を立てた。思いっきり。

「いっ——!」

痛みのせいか、そもそも限界だったのか、雄大さんは表情を歪め、達した。急にどさっと倒れ込まれ、今度はその重みで息苦しくなる。

浅く早い呼吸が耳に吹きかけられて、その度にくすぐったくなった。

私の奥深くで脈打つ彼が、落ち着きを取り戻す。

「ごめん……」

デジャヴかと思った。

前にもこうして謝られたことがあった。

ご両親に結婚を反対され、春日野さんに会いにホテルに行った日。

あの日と、同じ。今日は、出張先で春日野さんと会ったと聞いた。

元カノと会った後にこんな風に抱かれたら、彼女を想っているのではと勘違いしてもおかしくない。

けれど、そうじゃないことはわかっていた。

「おっきな子供みたい……」

私は雄大さんの大きな背中を抱き締めた。

かつて好きだった女が変わっていく様を見るのがつらいのだろう。

未練や嫉妬、独占欲で自分に付き纏い、親を使って手に入れようと策を巡らす元カノに、嫌悪、哀れみ、同情、後悔といった複雑な感情を抱き、苦しんでいる。のだと思う。

「馨には……敵わないな……」

私の腕の中で、ポツリと言った。

共犯者〜報酬はお前〜

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