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注意
日本語❌❌
女体化あり
史実には関係ありません
政治的意図はありません
以上が大丈夫な方はどうぞ!
冷えた手に、白い息を吹きかける。
雪に埋もれるブーツを抜こうと、立ち止まる度に足踏みをした。日が出ているにしては、凍える空気が世界に充満している。そんな 昼間の白さに照らされた街には、欠けた光のような雪がしんしんと舞っていた。
「仕方ねぇな…どっか、__あそこ入るか」
目に入ったのは、光の無いイルミネーションで飾られたレンガ造のモダンな外壁に、垂れ下がる常陽樹と真っ赤な庇テント、そしてドアのすぐ右手側に掲げられた『カフェ・アモル』の看板だった。ロシアは粟立つ肌に手を添える。彼は迷いなく、『カフェ・アモル』に向かって歩き始めた。
入店すると、扉に掛けられていたベルがすぐにロシアの存在を店に知らせ、慌ただしく働いている店員の1人がいらっしゃいませと声をかけてくる。どうやら随分と人気店のようで、人数を伝えつつ中の様子を伺うと、パッと見空席は一つか二つと言ったところだ。しかし、何よりもロシアを憂鬱にさせたのは、到底片手では数えられない数のカップルで店内が溢れ返っていた事である。心なしか、彼の額には皺ができていた。
ご案内しますと店員が誘導を始めるのに、今更引き返せないかと小さくため息を吐く。拭えない場違い感に居心地の悪さを覚えながらも、じんわりと熱が広がり始めた手を握りしめてロシアは店員の後に従った。
「ごゆっくりどうぞ」
案内されたのは、左手側に大きな窓がある奥の2人用テーブルだった。小洒落た観葉植物がすぐ隣で葉を広げており、騒がしさの割には雰囲気が随分と良い。まあ、見渡す限り何処もかしこもカップルである事実が変わる訳ではないが。既に諦めが付いていたロシアは目線を横にズラし、スタンドに立てたかけられた2つのメニュー表を見る。どうやら2つとも、この店1番のおすすめメニューがデカデカと載せられているようだ。
「…っはぁぁあ。..,ぁー、すんません。注文いっすか」
溜まった鬱憤を晴らすように大きなため息を吐いてから、ちょうど手の空いてそうな店員にコーヒーを一つ頼んだ。
それから5分、下手したら10分は経っただろう。一向にコーヒーが来る気配は無い。多種多様なリア充に囲われる時間が増えるのに比例して、貧乏ゆすりの振動数も、机を人差し指の動きも増していく。禍々しいオーラが出ていたのかそれとも地鳴りでも起こしていたのかはたまた両方か。ロシアには自然に視線が集まっていた。勿論、ネガティブな意味で。そんな、誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出していたロシアに、1人の命知らずな女が声を掛ける。
「お連れ様が来てやったぞ」
ロシアはその声の主に心当たりはなかった。何となく聞き覚えはある。しかし、覚えるのは身に覚えのない苛立ちだ。憂鬱に俯いた顔を少し持ち上げ、顔を確認しようとする。
__そこには、運命があった。
圧倒的なダイナマイトボディ。細身ですらっとした腰が、黒地の服の下でチラリと覗いている。それを、『折れそうだ』と例えるには不躾な程引き締った肉体美だった。そして、忘れてはならない存在が隠れることなく視界の端で揺れている。それは、 大きさにかまけ、重力のままに無様に垂れる乳とはまさに一線を画す究極の美だ。自信に満ち溢れた背筋と黒のトップスが合間って張りのある見事なたわわが強調される。Iミリたりとも動いていないのにわざとか疑わざるを得ないぐらい大きく揺れる姿には、今にもこの手で包み止めてやりたいと欲望が溢れて止まない。
生温かい赤が静かにロシアの鼻から滴った。それは一定の速度で唇をなぞり、重力に従うままにテーブルに滲む。
これが恋。恋なのか。初めて味わう、嵐のような騒がしさを持つ感情。こい。心の中で呟いて、咀嚼するように何度も繰り返す。体が軽くなって、ふわふわと空を漂ってしまいそうで。感情を言葉にするたびに舌先が痺れるような甘さが広がって。脈の巡りが、心臓の鼓動が、決して間違いではないと示すように増していた。
____ぃ、…シア
「ロシア!」
ロシアは肩を大きく跳ねさせ、見開いた目を例の女へ向ける。
__前に、口が勝手に言葉を漏らす。
「俺と、付き合ってくれないか」
彼がその行為を後悔するのは、2人の視線が重なり合ったコンマ8秒の ことだった。
「__あ、あめり…か…?」
_____________________________
コツ、コツ、と規則的な音が、静寂とは言えない店内で嫌に響いている。ロシアは気まずさからか、口を開けては閉じてを繰り返していた。コツ、コツン。白い指先が動きを止め、それにロシアは唇をギュッと噛んで肩をすくめる。
「分かった、付き合ってやるよ」
その言葉は、ロシアには予想だにもしていなかったものだった。『付き合ってやる』確かに今目の前にいるのは一目瞭然の女性である。が、その実、ロシアのよく知る男。アメリカである。近づけば喧嘩、離れても喧嘩。まるでチワワの戯れのようだと某英国氏は証言している。それぐらい不仲だと言われているのだ、この2人は。本人たちもそれを認めているし、お互いをそうだとしか思っていなかった、__はずだ。
「…っバ!おまえ、正気か?!」
「んだよ、先に告ったのはテメェだろうが」
ロシアはぐうの音も出せず、閉口してしまう。
「俺だって野郎にゃ興味ねぇよ。特に、お前みたいな脳みそちんぽ野郎なんて論外だ」
「……だったら、なんで」
「ん」
アメリカが突き出したのはこの店のメニュー表だった。それを見たロシアは言葉を詰まらせる。『カップル限定パフェ』こいつはロシアを憂鬱にさせた最もな原因だった。
「付き合うっつっても、今日限りだけどな」
「お前…俺がいなかったらどうするつもりだったんだよ」
「俺様の美貌だぞ?男なんてホイホイ釣れるだろ」
じゃあなんで1人で店に、と聞いたところ。曰く、1人でこの店に入っていくロシアを見かけたからだそうだ。
「お前が彼女と待ち合わせなんて無いだろうからな」
「喧嘩なら買ってやる。表出ろ」
「短絡的なサルはモテねぇぞ? 」
「どうやら自分の体が女なのを忘れたようだな」
「はっ!今や女の社会的地位は上がり続けているんだ。俺が叫べばお前なんて一発だ」
「叫ぶ前に叩きのめしてやる」
2人の間にバチバチと閃光が奔る。一触即発と言った所だ。
「お客様、ご注文の品に間違いはございませんか?」
その空気を断ち切ったのは、待ち望んだ品の到着だった。木製の盆からパフェ、コーヒーの順で、アメリカ、ロシアの前に並べられる。デカい器のてっぺんに聳える艶めくいちご。コーンフレークにジャムにヨーグルトと、何層も重ねられたパフェらしい具がデタラメに入れられている器にアメリカは目の色を変える。先程まで喧嘩をしていた粗暴な奴には到底見えない。
アメリカとは、不思議な男だった。200は優に超えているのに今だに子供っぽさは抜けきらないし、そのくせ、異様に急というものを感じさせない。どんな時も常に余裕な笑みを浮かべていて、時には薄気味悪さだって感じさせる。現に今だって、自分が女体化したにも関わらず焦りも憤りも、恥だって無さげだ。
「……イカレタやつ」
ロシアがそう呟いて、ハッと目を見開く。雄大な空を思わせる瞳が、真っ直ぐとロシアを射止めていた。
アメリカに対する底知れぬ畏怖を思い出していたからだろうか、眼孔に映るロシアには一滴の汗が伝う。
「んだよ……そんなにこのパフェが食いたかったのか」
「……あ”?」
「お前ってほんと言葉足らずだよなー。ほら」
どうやらアメリカにはロシアが羨ましがっているように見えたようだ。金属製のスプーンがパフェを一掬いして、ロシアの口元まで差し出される。知識の乏しいロシアでもわかるが、これは「あーん」というやつだ。
「は、いや…ちが__」
「なんだ、食わねぇのか?」
「____っ!」
コテン、と小首を傾げるアメリカはあどけなさを纏っており、女性らしい高めの猫撫で声がロシアを惑わす。顔面はそれこそ普段のアメリカと大差はなかった。長い睫毛にほんのり赤みのある唇。ちょっと女っぽい印象もあるが、大して何も変わらない。
しかしロシアは『可愛らしい』という印象を抱いた。この機会を逃すのが、惜しいとさえ思った。 大きくため息を吐いて、頭をガシガシと乱雑に掻きむしる。戸惑いを持ちつつも、一思いに差し出されたパフェに齧り付いた。
「何、そんな食いたかったのか」
ケラケラと笑うアメリカをロシアはじっとり睨みつけるのであった。
その出来事から1時間ほど経過した。2人はそのまま解散。という訳でも無く、仲良く繁華街を散策していた。
「なぁロシア、タピりたい!」
「ふざけんな…どうせそれも俺持ちだろうが!ったく、…あのクソ高いパフェだって… 」
「ベリーベリーヨーグルトと〜、ストロベリーミルクお願いしまぁす」
ロシアは呪詛のようにブツブツと文句を言うが、アメリカはお構いなしに注文をしていたのであった。
「ふっ、ざけんなよお前ぇえ!!」
「んな怒んなって。美味いんだから」
「そう言う問題じゃねぇんだわ…っクソ」
ロシアは嘆かわしいほどに萎んだ財布を開いて、苦汁を舐めるように財布を締めた。ケロンとした顔でタピオカを啜るアメリカを憎らしげに睨む。いつものように文句を言って喧嘩でも始めようとしていた。しかし、ロシアは結局、吐き捨てるようにしてそれをやめた。
既に手渡されていたベリーヨーグルトの、冷たいものがじわじわと手のひらから身体に染みてくる。寒いのに冷たいものを選ぶなよ、と。ロシアは心の内で文句を言うのだ。
「それで?お前は何をお求めだ」
ロシアの問いかけを聞いたアメリカは、駆け出したかと思えば踊るように身を翻して彼の行く手を阻み、両腕を大きく掲げた。あまりに突飛なその行動は、いとも容易くロシアの足取りを止めよう。
オーバーサイズな服の中で肩が泳ぐ様に漸くアメリカが女になったのだと実感が湧いてくる。アメリカの背が自分よりも低い事は日常的であったのに、面と向かい合った瞬間から喉に小さな異物がつっかえたような違和感を感じるようになった。手に握られたプラスチック容器が、ペコリと音を立てて凹む。目の前の男は、男ではない。ただ、性別が変わっただけなのに。意識した瞬間やってくる空虚さが心に生まれた、気がしている。
それと同時に、今まで抱いていた感情と変わりないのに、違った感情が芽吹き始めたとも。
__いや、でも、そんな訳が、ない。
そんなロシアの心情とは裏腹に、アメリカはいつも通りに振る舞う。ニヤッと揶揄いめいた顔をして。
「なぁに。デートと言えば買い物だろ?」
なんてことを宣う。
「ふざけてんのか」
「どこのロシアくんだったかな。出会い頭に告白してきたのは」
「………だまれ」
「声ちっさ!」
「うるせぇ黙れっ!服屋行くぞ」
「…え、は。何急に__ぉいっ、引っ張んなアホ!」
ロシアは考えて、考えて、考えるだけ無駄だ、素直にゴリ押そう。と結論付けたようだ。いい加減何時間も彼女ヅラするアメリカの細い腕を力強く掴み込んで、大股で目先の服屋へ駆け込む。そんなロシアの顔が微かに紅潮していたのを、アメリカは見ていた。
「はぁ…っ はぁ…っ、は゛え”ぇよ……脳筋…ッ」
「すいません。コイツに服を一式見繕ってください」
「お前って、マジ意味わかんね…」
アメリカにもロシアの葛藤は見て取れていた。理由は分からないが、少なくとも己を見てのことであったのは確かだ。だから揶揄ってやったのに。数瞬のうちにロシアは覚悟を決めたみたいな顔しやがって。
「やっぱバカだろ、お前」
「へーへー、そうだな」
店員に連れられる直前まで毒づくアメリカに、ロシアは肩を竦めていなした。
「なげーなぁ」
かれこれ10分は経っただろうが一向に戻って来る気配がない。スマホを手に通知やらを確認してみるが特にやることもなく、仕方なく周囲の店を見渡す。巨大な天井に覆われたこの場所は、様々な人種の人間が楽しそうに笑い合っていた。珍しいものをお揃いで買っていたり、一つのホッカイロを分け合ったり。手袋をプレゼントしていたりもする。
「あの店…」
ここから遠い遠い所から、5時を知らせる音楽が小さく耳をうった。
「おいロシア、俺を置いて行くとはいい度胸だな」
「少し買い物に行ってただけだろ。めんどくせぇ彼女かよ お前は。で?服は気に入ったのか」
「あ?…まあ、」
「買う。寄越せ」
「はぁっ?いや、まず買うとは__」
「デートと言えば買い物なんだろ?」
散々人に物を強請っておいて今更かと、ロシアは戸惑うアメリカの手から服を奪い、会計まで直行する。それでもアメリカはキャンキャンと騒ぎ続けるので、ロシアはアメリカの残していたタピオカを口に突っ込むことで無事に服を購入し終えた。
「…」
「…」
いつもなら、アメリカがロシアの行動を揶揄ってロシアがそれに食らい付いてアメリカがキレる。それがテンプレートだった。
けれど今は、お互いに顔を合わせずにただ歩きづけている。繁華街はとうに抜けていて、ポツポツと灯りの灯った街灯が暗がりの道を頼りなく照らしていた。時々坂が現れて、しまいには、コンクリートは砂利に、砂利は土に変わってしまった。
「…なぁ、どこまで行くつもりだよ」
アメリカが問いかける。
「あと少しだ。待ってろ」
この問答も3回目くらいだ。いい加減に痺れを切らしたアメリカが怒声を上げる。
「あと少しあと少しって、いつまでお前に付き合えば__」
「着いた」
そこは、小さな公園だった。隣には山があって、それでいて人の手がつけられていることが分かる程度に綺麗に保たれた場所。
街が、よく見える場所だった。望遠鏡が一台置いてあって、そこからはきっと、活気溢れる人々の営みが覗けるのだろう。星にも、手が届きそうだ。
「キレェ…」
すっかり空は青みがかった黒に覆われているのに、先程までいた街は月のように夜でも輝き続けていた。チラチラとビルの屋上で赤いランプが光り、小さな車が動き続けている。
「なぁアメリカ。恋人ごっこは今日まで、だったか」
「…あ?あぁ、そう…だけど」
それを聞いたロシアは、ウエストポーチからものを取り出して、アメリカの手に無理やり渡した。案外力が強く入ってしまい、アメリカは後ろに少しよろけてしまい、咄嗟に目を瞑る。目を開けた時にはアメリカの手にはマフラーがあった。真っ赤なマフラーは寒い今には丁度良さげで、持っているだけでほんのりと芯が温まる。しかし、アメリカにはその意味が分からなかった。から、ロシアを見上げて言葉を詰まらせる。
らしくない。顔を真っ赤にさせているロシアがいた。苦し紛れに口元を手で隠しているが、そんなもの意味ないぐらいに真っ赤だ。
「は、っはぁ? い、意味わかんねぇ」
つられてアメリカも照れてしまう。
「好きだ、好きだよクソリカ!」
叫ぶように、怒りをぶつけるようにロシアは言った。
「だッ…誰がクソリカだ…っ」
「クソだろクソッッ!あ゛ぁ”クソっ…お前が急に女なんかになりやがるから…意識しちまうだろうが…」
「な、んだよそれ…っ。俺が?女になっただけで?好きとか?頭、冷やせよ」
「ちげぇ、ちげぇよ」
ロシアの声は、震えていた。声だけではない。身体も、戦慄いて。その手で、弱々しくアメリカの胸ぐらを掴んで、顔を寄せる。
「お前の我儘な癖に妙に抱え込む癖とか自分のこと顧みないで突っ込んでくとことか、俺の前だけガキっぽくてその癖寂しげに見つめてくるとことか俺が触れるだけですぐ照れるところとか、それを隠そうと頑張って取り繕うとことか」
一息で語るたびに思い出される事実は、今日になるまでずっと気がつかないふりをしていたことだった。アメリカに抱く感情も、全部全部憎らしさとか、ライバルに対する敬意とか好意みたいな、そんなものだと思っていた。それなのに、アメリカが女として現れて、数時間しか経ってないのに、恋を知ってしまったから、今までの感情が恋だと気づいてしまったんだ。
「お前が女とか男とか関係なくな、俺はお前が__」
「黙れッ、だまれぇッッ!!」
ロシアが今一度想いを伝えようとすると、アメリカの細い手が口を塞ぐ。
__駄目だったか。全部は思い違いか。ロシアがそう考えて、しかしすぐに考えを改めた。
トマトみたいに真っ赤に染まって、プルプルと震えるアメリカがそこにはいたから。
口を固くつぐんでしまったアメリカは、キャパオーバーで、湯気まで出ている。慌ててフードを被ったりもしたが、もう遅い。
ロシアは、口を塞ぐアメリカの腕を優しく掴んで優しく退ける。
「お前に泣かされるなんて、…最悪だ。俺の気持ち、分かったてたのかよぉ…ぅっ、うぁっ」
「あ、アメリカっ!いやっ、悪い、ごめん」
「どうせ…ぇ、っう…俺が男に戻ったら捨てるんだろ…?」
「馬鹿か、捨てねぇよ」
「嘘だ。うそだぁっ」
優しい拳がぽすっとロシアの胸に放たれて、ロシアは応えるように、アメリカをそっと抱いた。アメリカも、最初は迷子のように手で宙を掻くが、ロシアの温もりを感じると、腕を背に回す。長くて、短い静寂が真冬の夜空の下、温かく2人を包んだまま刻々と過ぎてゆく。
2人が漸く離れると、彼らは星々の見守る中、近いのキスを交わしたのだった。
to be continued