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お股ポテト
29
はるにし
72
僕は、フワフワと眠りの中にいた。
「あーぁ、眠ってしまった。可愛いのだから仕方ない」
シュメリが僕の頬をツンツン押した。
目を開けたいのに開けられない。
だって、眠いんだ。
「シュメリは何だってそんなにリンネが好きなんだ。お前からしたら、リンネなんかガキだろ」
バルトが何か聞いてる。
僕、ガキじゃないよ。
もう大人だよ。
「確かに、普段のリンネは幼いね。けれど時々、大人でも思い付かないような真理を聞かせてくれる時があるよ」
「リンネが?」
「私は、リンネの言葉に救われた。リンネがいなければ今頃、騎士団長を辞めていたかもしれない」
「そんなにか」
「そうだよ。だからこそ、手放したくない」
握った手から、何かが流れ込んで来た。
これはシュメリの魂の記憶だ。
自然と、そう思った。
最初の出会いは、森の奥深く。
崖から落ちた時。
あの時は怖くて、僕は逃げたけど。
「必ずまた会いに来る。だからその時は、私の話を聞いてほしい」
そういったシュメリが気になって。
森に気配と匂いを感じた時、僕はシュメリを探したんだ。
「良かった、また会えた」
安心した顔のシュメリが印象的だった。
それからは、シュメリが森に来るたび、会いに行った。
シュメリは空間魔法に色々入れて、お茶の準備をしてきてくれて。
森の中なのに、高価な絨毯を敷いてお茶をした。
「うわぁ、フワフワだね」
触ったこともないようなフカフカの絨毯に心が躍った。
「リンネが気に入ってくれて、良かった」
僕はシュメリを、僕のお気に入りの場所に連れて行った。
木々が開けた、空が良く見える小高い丘、そこに広がる草原だ。
「ここはね、雲が良く見えるんだよ」
「リンネは雲を眺めるのが好きなのかい?」
「大好き。フワフワで美味しそうだし、ゆっくり流れたり早く流れたりして楽しいから」
「なるほど。フワフワの焼き菓子は?」
「大好き! シュメリがくれるお菓子、全部好き」
「ふふ、良かった」
絨毯に寝転がって、二人で流れる雲と、青い空を眺めた。
「雲は良いね。気ままに流れていられる」
「そうだね。乗ってみたいな」
「それは楽しそうだ」
シュメリが笑った。
「あの雲に乗って、どこまでもいけたら、きっと楽しいのだろうね」
そういったシュメリの横顔が、淋しそうに見えた。
だから僕は言ったんだ。
「それはダメ! どこまでも行っちゃったら、もうシュメリに会えない」
「その時は、一緒に来てくれるかい?」
僕は返事を考えた。
シュメリとどこまでも行くのは楽しそうだけど。
「僕はここで、シュメリと一緒にいたい」
「ここで?」
「ここには、僕の大切なものがいっぱいあるから。シュメリと一緒に、大切なものを大切にしたいよ」
僕はシュメリに微笑んだ。
シュメリの目が、少しだけ見開いた。
「それは随分と傲慢だ。リンネは何もかも失わずにいたいんだね」
「うん」
「もし、選ばなければならなくなったら?」
「選ぶ?」
「大切なものと私、どちらかを選ばなければならない時がきたら、どうする?」
僕は考えた。
全部ぜーんぶ大切なのに、捨てなきゃいけないとしたら。
「じゃぁ、僕は、シュメリを選ぶ」
「え?」
シュメリが驚いた顔をして身を起こした。
「シュメリを選んだ後に、大切なもの全部、拾いに行く!」
シュメリが、ぱちくりと目を瞬かせた。
次の瞬間、笑い出した。
「え? 何? 僕、変なこと言った?」
「いいや、変ではないよ。妥協しないね、リンネは」
「だって、大切だもん。諦めたくないよ」
簡単に手放せるなら、大切なんて思わないんだ。
だから、手放さなくていい方法を考える。
「そうか、諦めないか。大切な心だね」
シュメリが僕の頬に手を伸ばした。
「ならば、私も諦めない。素直な気持ちに従おう」
シュメリの顔が近付いて、僕の頬にキスをした。
「君が好きだよ、リンネ。君の言葉に何度救われたか知れない。会うたびに君は、私の心を満たしてくれる」
「えっと……僕も好きだよ?」
きっと、この時のシュメリと僕の好きは意味が違っていて。
シュメリは、それに気が付いていたと思う。
(どうしよう、ドキドキする)
だけど、僕がシュメリを意識したのは、この時だったんだ。
あの日から、僕はシュメリに恋してた。
『こんな風に、手放せなくなるほど愛するなんて、最初は思わなかった』
『今は、リンネがいないと息ができない。それくらい、リンネが好きだ』
シュメリの気持ちが流れ込んでくる。
僕のこと好きって、全身で叫んでる。
僕だけを求めるシュメリがいる。
(バルトが言う覚悟、シュメリはもう持ってるんだ)
だからこそ、バルトは今のままじゃダメって言うんだ。
僕なりの覚悟が、まだ固まっていないから。
(好きだよ、シュメリ。待っていて)
僕の気持ち、ちゃんとするから。
シュメリの隣に立てるような大人になるから。
『リンネ、どこへもいかないで』
前世の僕が死んで、魂が完全にリンネになった時、僕は総てを忘れた。
あの時、シュメリは一度、僕を失ったんだ。
魂がリセットされた僕は、何も覚えていなくて。
森の中を彷徨って、お腹が空いて、動けなくて。
どこに帰ればいいのかもわからなかった。
森で出会った銀髪の騎士に拾われて、お屋敷に連れ帰られた。
その瞬間を目撃した黒髪の男が、屋敷まで追ってきた。
あの二人が、シュメリとバルトだった。
(今なら、総てが繋がる)
魂が、馴染んでいく。
リンネになっていく。
(どうして、こんな……あぁ、そうか。僕が精魂師だから)
魂に触れて、記憶を感じ取れる。
魂を活かす。
それが僕の能力なんだ。
(シュメリとバルトの魂が、元気でありますように)
そう願って、握った手から魔力を流し込んだ。
二人の手が、ビクリと震えた。
「これは……リンネ?」
「急に、何か入ってきた?」
シュメリとバルトが声を上げた。
「魔力が、溢れてくる」
「今なら風魔法も土魔法も、楽に使えそうだ」
良かった、二人とも喜んでくれた。
「これが、リンネの力か」
シュメリが息を飲んだ気配がした。
僕は二人の手を握ったまま、またウトウトと眠りに沈んだ。
コメント
1件
第43話、読み終わりました……! シュメリの「君の言葉に救われた」って台詞、すごく響きましたね。森での出会いや雲を眺めるシーン、リンネの「シュメリを選んでから全部拾いに行く」という子どもらしくてそれでいて真っ直ぐな答え方、この一話で二人の関係の基盤がとても優しく描かれていたと思います。 それに、精魂師としての能力が徐々に明らかになって、シュメリとバルトがリンネをどうしてそんなに大切に思っているのか、その理由がじんわり伝わってくる構成だったのが印象的でした。伏線の回収の仕方が自然で、読んでいて気持ち良かったです。 まだまだ物語は続きそうですし、リンネが「大人になる」という覚悟をどう形にしていくのか、とても楽しみにしています。