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お股ポテト
29
はるにし
72
約束の一週間が経った。
僕はシュメリに連れられて、クロノアに会いに来た。
本当はバルトも一緒だったんだけど、キノとカノに連れて行かれちゃった。
「バルト、大丈夫かな」
「魔力がかなり上がっていたからね。仕方がない」
「そうなの?」
「リンネのお陰だよ」
シュメリに、鼻の頭をちょんと押された。
「僕?」
「あれだけの術をうたた寝しながら施すのだから。私もクロノアのところに来ざるを得ないよ」
シュメリが息を吐く。
よくわからなくて、首を傾げた。
シュメリがクロノアの部屋をノックした。
「クロノア、私だ。今日は扉で喰わないでくれよ」
扉がひとりでに開いた。
黒い闇が誘うように流れ出てくる。
僕はシュメリの手を握った。
「大丈夫だ。行こう」
シュメリの表情が、前回来た時より柔らかい。
僕は頷いて、シュメリと一緒に闇を潜った。
ぶわりと闇が通り過ぎる。
普通の部屋が広がっていた。
僕は部屋の中をキョロキョロした。
この前、置いてあった大きな天秤がない。
「あの天秤は、今日は必要ないからね。片付けたよ」
後ろから声がして振り返る。
クロノアが立っていた。
(また、僕の考えてること……どうしてわかったんだろう)
「リンネは思っていることが顔に出る。私じゃなくても、わかるよ」
クロノアの冷たい指で、頬を舐めるように撫でられた。
「気安く触れないでもらおうか」
シュメリがクロノアの手を丁寧に払った。
「過保護なことだ」
払われた手を撫でながら、クロノアが笑う。
「それにしても……」
クロノアが僕を覗き込んだ。
近すぎて、僕は固まった。
「随分と開花が進んだ。五分咲き、といったところかな」
「そんなにか?」
シュメリが驚いている。
「何か、あったのかい?」
クロノアが、シュメリを見上げた。
「実は……」
シュメリが庭で起きたことや、三人でお昼寝していた時のことを話した。
「なるほど、精魂師か」
クロノアがクックと笑った。
「シュメリ、今でもリンネを魔術師団に入れる気はないかい?」
シュメリが唇を噛んで黙り込んだ。
「何者かわかれば、私は無理にリンネをいじり倒そうとは思わない」
「けれど、魂に関わる能力となれば、クロノアが上官になるだろう」
「そうだね。鍛え上げて、使える術者には育てるよ。何せ精魂師はこのアスランズ王国にリンネ一人きりだ」
クロノアの視線が僕に向いた。
「僕しか、いないの?」
「あぁ、そうだよ。リンネは大変に希少な魔術師だ。それは理解できているようだね、騎士団長殿」
クロノアがシュメリを横目に眺める。
シュメリの握る手に力が入った。
「……リンネが魔術師団に入れば、国としては有益だ」
「その通りだね」
「力の使い方を知るのは、リンネのためでもある」
「全くその通りだ」
クロノアを言葉を受けて、シュメリが深く息を吐いた。
「答えは出ていると思うが」
「そうだ、出ている。これは私の我儘だ。クロノアにリンネを預けたくない」
シュメリが苦渋の表情で、言葉を絞り出した。
「はっきり言うのだね」
クロノアが可笑しそうに笑った。
「しかし、クロノア以上にリンネを鍛えられる人物がないのも理解している。だから悩ましい」
シュメリが頭を抱えている。
「シュメリが頭を抱える姿は、面白いね」
クロノアが笑い続けている。
「私は真剣だよ」
シュメリがクロノアをねめつけた。
「ならば真剣に、リンネを私に預けるといい。許嫁になってからね」
「それは……」
「シュメリの許嫁になれば、魔術師団はシュメリの許可なしにリンネに何もできない。それくらいの保険があれば、安心できるだろう」
「そう、なんだが」
シュメリが言い淀んだ。
許嫁の件は、僕の気持ちが固まらないとダメだから。
「シュメリ」
僕はシュメリの手を引いた。
「僕、魔術師団に入りたい」
「リンネ……」
「魔術師団に入って、自分の魔力を使えるようになりたい」
魔術が使えたら、シュメリに並んでも恥ずかしくない僕になれるかもしれない。
立派な大人になれるかもしれないから。
そうしたら、僕の気持ち、もっと固まるかもしれない。
「お願い。魔術師団に入らせて」
僕は懸命にお願いした。
「決意はリンネのほうが硬いようだね」
クロノアが嬉しそうに口角を上げた。
「リンネ……私は……リンネを、危険に晒したくない」
シュメリとは思えないくらい、小さな声だった。
「随分と我儘だ」
「わかっている!」
クロノアの指摘に、シュメリが叫んだ。
「魂に関わる術者は国の宝だ。魔術師団に入団すべきなのも理解している。それでも!」
シュメリが、僕の肩を抱いた。
「もう、リンネを失うのは、嫌なんだ」
シュメリの声が間近で流れ込んでくる。
ドクリと、心臓が跳ねた。
(僕は一度、全部を忘れているから)
シュメリにとって、僕の記憶が消えた出来事は、とても重かったんだ。
僕が考えているより、ずっと痛かったんだ。
そうわかったから、何も言えなかった。
「魔術師団に入れば、戦闘にも駆り出される。どんな危険に遭うか、わからない。リンネには、危険などとは無縁でいて欲しいんだよ」
シュメリは僕に、今のままでいて欲しいんだ。
今のまま、シュメリとバルトに守られたままで。
その気持ちは、理解できるし嬉しい。
だけど。
「僕は、それじゃ嫌だ」
シュメリの腕を解いて、その瞳を見詰めた。
「僕もシュメリの、皆の役に立ちたい」
「リンネ……」
シュメリの瞳が揺れる。
それでも目を離さなかった。
「いつの間に、そんなに強くなったんだい」
「僕はずっと変わらないよ。リンネのままだよ」
記憶がなかった時だって、僕は僕だった。
記憶を取り戻したなら、今でないとできないことをしたい。
シュメリが目を見開いた。
「そうだね。リンネは、いつだってリンネだった」
納得したように、頷いた。
「わかった。魔術師団で、魔術の使い方を学ぼう」
「うん!」
シュメリがクロノアに向き合った。
「やれやれ、手のかかる騎士団長様だ」
「余計なお世話だよ。リンネに余計なことを吹き込むなよ」
「さぁ、どうだろうね」
クロノアがクックと笑った。
「明日から、私のところにおいで。今日は帰って、シュメリを甘やかしてやるといい」
クロノアが僕の頭を撫でた。
相変わらず冷たい手だったけど、優しい手つきだった。
「うん! 僕がシュメリをいっぱい、いい子いい子してあげる!」
「リンネ、それはちょっと違うよ」
シュメリが照れたように眉を下げた。
その顔はさっきまでより強張っていなくて、少しだけ安心した。
コメント
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第44話、読み終えたよ〜!🌸✨ リンネが自分の意志で「魔術師団に入りたい」って言ったの、めっちゃグッときた😭💕 シュメリが「リンネを失うのが嫌だ」って本音を漏らすシーンも切なくて…でも最後にリンネが「いい子いい子してあげる」って言って照れるシュメリめっちゃ尊い!!! クロノアの冷たくて優しい感じも好き。ふたりの絆が深まってるの感じられて、心がほっこりしたよ〜⋆♡ 次回も楽しみにしてるね!📖✨