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『一時間が経ちました。今回のカップルは斉藤 翔くんと大林 凛さんです。片桐慎吾くんと佐伯小春さんは、教室にお集まりください』 呼び出しの言葉が変わったことにより、もう四人しか生き残っていないという現実を、残酷に突き付けてくる。
俺の周りにいてくれた友達や大切な人との関係は、もうないのだという虚しさと共に。
惨劇が繰り返された教室に入れば、一人席に座っている小春が居る。俺と目が合った途端にサッとスマホを隠し、こちらに顔を向けることなく窓からの景色を眺めていた。
一席分開けて横に座り、ただ時が来るのを待つ。この命が尽きる運命を、抗うこともなく。
遠くより聞き慣れた足音が聞こえて顔を上げると、そこには翔と凛の姿。
表情を強張らせた翔と、どこか力が抜けたような表情を見せる凛。
『許されない秘密がある』
『私は、死ぬ運命』
おそらく、あの言葉に嘘偽りはないのだろう。
付き合っている彼氏も、小学校からの親友すらも隠してきた秘密。
しかしそれを明かされることはない。
小春はそれを、知らないと言っているのだから。
「わっ」
その声と共に、凛の体がふらつく。
翔が、教室に入ろうとした凛を押し退けて、先に入室してきた。
翔は気遣いが出来る性格で、さりげなくドアを抑えていてくれたり、エレベーターのボタンも押して待っていてくれる。
特に凛には優しくて、こんな乱暴なことをするのは、俺が知る限り初めてだった。
目を伏せる凛に、こちらを見据える翔。
いや、違う。翔の視線先は、真向かえに居る小春だ。
途端に小さな体をガタガタと震わせ、瞳孔を開かせた目をこちらに向けてくる。しかし、すぐに視線を逸らされ、手を握り締めて俯いてしまった。
「大丈夫か?」
自分の立場も弁えず、気付けば小春の元に行き、声をかけていた。
今更善人ぶっても、剥き出しにされた醜い本性を覆い隠すことなど出来ない。分かっていたが、どうしても抑えられなかった。
「……慎吾、私ね。こ、殺される……かも、しれない……の」
俺の耳元で、吐息と共に溢れた声はあまりにも小さくて、震えていた。
殺されるかもしれない? デスゲームにか?
そんなの、最初から分かって……。
『それでは、第五回目のゲームを行いましょう。片桐くん、席に戻ってください』
「いや、まだ話をしている最中で……!」
『従わないなら、ルール違反としての罰を受けてもらいます。あなたが死のうと生きようと、こちらとしては面白い展開なのでね』
不気味な笑い声と共に俺の指輪より、甲高い警告音が鳴り響き、死の指輪が赤く点滅を繰り返す。
これは黄色の警告とは違い、爆破間近の危険を知らせる音。
ヤバいと分かっているのに腰が抜けてしまったように体に力が入らず、立ち上がることが出来ない。
このままでは、小春を巻き込んで。
分かっているのに、死ぬ覚悟を持ったつもりだったのに、体はまだそれを受け入れてくれていないようだ。
突如、強い力で手を引かれた俺は、無理矢理立たされて椅子に座らされる。
目の前に居たのは翔で、目が血走り、大きく肩を揺らして息を切らせていた。
「ありが……」
「条件は揃った! だから早く始めてくれ! 最後のゲームを!」
俺に一度も目を合わせず、視線を向けたのはスマホの先に居る人間。
早くゲームを始めろ? それはつまり、小春と俺が死ぬ運命を確定させろという意味なのか?
小春の方に目を向けると、口元を両手で抑えて、はぁはぁと息を切らせている。
もう俺達に手段はない。助かる道は。
『えー。今回の暴露は、二つありました』
淡々と告げられる内容に、俺の体はビクンと揺れた。
……は? 密告があったということか? しかも二つも?
この状況で密告するのは、選ばれたカップル以外。つまり、小春と俺だけ。
俺がしていないってことは、まさか。
「……そっか。小春には、気付かれていたか……」
力無く笑う凛は、負けを認めたように遠い目を向けてくる。
翔は、密告が行われたというのに顔色一つ変えなかった。
「ち、違う。私、何も言ってないよ。本当に何も知らないの。本当だよ」
首を横に振り、否定の言葉を繰り返す。それは普段からの小春の話し方で、これが偽りの言葉だと思うと背筋に冷たいものが通り過ぎた。
『つまらない展開ですね? もっと女同士、掴み合いの喧嘩とか期待していたのに。大林凛さん、こんなんだからあなたの人生はつまらないものだったのではないですか?』
「あんたに何が分かるの! 大切なものを壊したくないと思って、何が悪いの! 人の気持ちも知らないくせに、勝手なことばっか言って……!」
むぐっとした声が漏れ、凛の口が閉ざされた。それをしたのは翔、「黙って」と言い、強制的に口を塞いだ。
『まあ、良いでしょう。これからが見せ場ですからね? では、暴露をします。大林 凛が好意を抱いているのは、片桐慎吾だった』
「は?」
「え?」
俺の口から漏れた間抜けな声と同時に、小春の力が抜けた声が届いた。
凛は目を閉じて俯いているのに、翔だけは顔色一つ変えず窓から見える景色をただ眺めていた。