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#怪異
耐え内
233
#怪異
阿炎快空
123
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
先ほどの赤い巨漢と同じく、そいつの耳はピンと尖っていた。 しかしその皮膚は青く、体型もひょろりとしている。
切れ込みをいれたような鼻に、細長い手足。
顔には汚らしい襤褸布を巻き、目を覆い隠していた。
「んっ?んん?んんんーっ?」
いやらしくニヤニヤと笑いながら、両手を耳に添えている。
——音を聞いているのだ。
嫌な汗が、僕の背中を流れ落ちた。
僕の直感が〝絶対に近づいてはならない〟と告げていた。
僕と由宇が動けずにいる中、蒼梧はそっと、足元に落ちていたスプレー缶を拾いあげた。
何をするのかと思っていると——蒼梧は突然、缶を持った腕を大きく後ろへ引き、そのままサイドスローで遠くへと放り投げた。
缶は、怪物から離れた位置のロッカーにあたり、ガン、と大きな音を立てる。
瞬間——怪物は、弾かれたように走り出した。
獣のように両手を地面についた、四つ脚での俊敏な動き。
ロッカーを避けながら、音のした地点へ迷いなく向かっていく。
あっという間に目的地へたどり着いた怪物は、
「ん?んんんん?」
首を捻りながら、犬の様に、周囲の臭いをクンクンと嗅ぎ始めた。
イルカや蝙蝠は、音の反響によって、視覚に頼らずとも周囲の状況を把握できるらしい。
この怪物にも、それと似た能力があるのかもしれなかった。
怪物の動きを一通り観察した後、蒼梧はすっと僕を指差した。
意図を測りかねていると、今度はその指を、扉に書かれた文字へと向ける。
『鍵を探せ』
なるほど、そういうことか。
僕が鍵を探す間、先ほどの様に音を立て、怪物を攪乱する気なのだ。
僕は覚悟を決め、そろりそろりと、静かに動き出した。
怪物はというと、今は——あくまで僕らから見てだが——部屋の左奥の方をうろうろしている。
やはり、なるべくなら接近したくない。
自然と反時計回りのような動きになる。
一方の蒼梧は、慎重に、しかし迷うことなく、ゆっくりと怪物に近づいていく。
無茶はするなよ——僕は心の中で、蒼梧にそう呼びかけた。
僕らが今こうして生きていられるのは、これがあくまで〝ゲーム〟だからだ。
仮にあの怪物が目隠しを取るようなことがあれば、おそらく蒼梧ですら——
いや、考えるのはよそう。
今は鍵探しに集中しなければ。
僕はすぐそばにあった、引っ搔き傷だらけのロッカーに近づき、扉に恐る恐る手を伸ばした。
正直、自信はない。
怪物の邪悪な気配が大きすぎて、感覚が麻痺してしまっている。
大丈夫だ。
このロッカーからは、嫌な気配はしない。
自分に言い聞かせながら、細心の注意を払って扉を開く。
しかし——
ガコッ。
——どれだけ気をつけても、微かな音はなってしまうものだ。
怪物が、ピタリと動きを止めた。
まずい。
焦りつつも、扉の隙間から、素早く中を確認する。
底の部分に、何か小さなものが転がっていた。
——それは、鳥の雛だった。
ところどころ、僅かに黒い毛が生えている。
ピクリともしないところを見ると、きっと死骸だろう。
くそっ——外れだ。
心の中で毒づく僕の方に、
「んー?んんんー?」
とにやつきながら、怪物がゆっくりとこちらを向く。
思わず恐怖で凍りつく僕だったが、怪物が動き出す寸前、ガン、と更に大きな音が響いた。
蒼梧が投げた瓦礫が、怪物のすぐ後ろのロッカーに当たったのだ。
怪物と蒼梧との距離は、およそ十メートル程だ。
「……ん?」
怪物は背後を振り向くと、慌てることなく、ロッカーの凹んだ箇所を指でゆっくりなぞった。
そして、すぐ傍に転がっていた瓦礫を拾い上げる。
「んんんー……」
頬を指で掻きながら、数秒間なにかを考えた後——
「イヒッ」
邪悪に笑いながら、瓦礫が飛んできた先——蒼梧の方へと顔を向けた。
軌道を読んだのだ。
蒼梧が思わず半身を引く。
と——蒼梧の足が、足元に転がるビニール袋を踏んだ。
カサリ、という微かな音。
次の瞬間——
「ヒャハアッ!」
目にも止まらぬ速さ、というのはこういうことをいうのだろう。
あっ、と思った時には既に、怪物は瓦礫を投擲し終えていた。
まるでレーザーの様に射出された瓦礫が、蒼梧の顔をかすめ、壁に当たって粉々に砕ける。
直撃は避けたものの、蒼梧の頬にはうっすらと切り傷が出来ていた。
「……」
蒼梧が傷口を軽く触り、流れる血を確かめる。
その後で、バットを両手で握りなおし、剣道の竹刀を持つように構えた。
「イヒッ、イヒヒッ」
対する怪物も、蒼梧に向かって歩き出す。
両手を耳に添え、「どんな小さな動きも聞き逃さないぞ」と言わんばかりだ。
両者の距離が、徐々に近づいていく。
六メートル——五メートル——四メートル——……
コメント
1件
うわ、めっちゃ緊迫した展開だな……! 音を頼りにする怪物って設定、めっちゃ怖い。蒼梧の冷静な判断力と、自分に鍵探しを任せて囮になる決断がすごく熱い。瓦礫を投げ返してきたときは「あっ!」って声出たわ。敵の知能の高さが逆に不気味で、次が気になって仕方ない。続きめっちゃ楽しみにしてる🔥