「それ、私の……」
「ああ、おまえが忘れてったから、持っていってやろうかと思ってな…」
互いに気まずさを感じながら、そんなどうでもいいような会話をする。
「ノート……」
「あっ、ああ…」
思い出したようにノートが手渡される。
さっさと行けばいいのに、2人してなんだかそこから動けなくて、いつまでも押し黙ったままで向かい合っていた。
「……さっきは、その…悪かったな…」
沈黙を破って、流星先生が口にする。
「いいです…もう…」
ついさっきあんな会話を聞いてしまったこともあって、何をしゃべったらいいのかがよくわからなかった。
「……俺は、ただ……おまえのことが……」
決まり悪そうに言うその顔を、上目にじっと見つめると、
「好き……とかなんですか?」
挑発するようにも尋ねてみた。
「えっ……」と、言葉をつまらせた先生へ、
「好き……じゃないんですか?」
もう一度、同じようにも問いかけた。
「あ…ああ……」
ぎこちなく答える白衣の先生に、ひと足を踏み出して距離を詰める。
「なら……もっと、やさしくしてください……」
「やさしく……?」
向こうも私に近づいてきて、一気に間が狭まる。
「……こんな風に……?」
今まで思っていた強気な俺様とはかけ離れた、たどたどしいような手ぶりで、背中が抱えられた。
「そう…こんな風に……」
と、自分からも彼に腕をまわして、鋭さの中にもいたわりが浮かぶ瞳を、改めて見上げた。
「……さっきの続きを、してもいいか……」
かすかに顔を赤らめて口にする彼に、くすりと笑いがこぼれる。
「……やさしく、してくれるなら……」
「やさしく……できるかどうかは、わかんねぇけど…」
言葉が切られ、抱える腕にグッと力がこもると、
「でも…できるだけ、やさしくしてやるから…」
上から降りてきた口づけは、
熱っぽく荒く、
だけど思いやるように甘くて、
放課後の誰もいない校内で、私は彼との秘密の体験に、痛いほど魅かれていってしまうのを感じていた──。
-END-
次は、天馬「天使な美少年と、小悪魔KISS」