秘密基地で過ごす日々は、季節とともに流れていった。
花純は最初の頃に比べれば、見違えるほど柔らかな表情を見せるようになった。まだ引っ込み思案なところはあるけれど、七人に囲まれている時だけは安心したように笑う。その笑顔は、幼い彼らの心に不思議な灯をともしていった。
ある夕暮れ。
学校の帰り道、田んぼのあぜ道を歩いていた時のこと。
風に揺れる菜の花の向こうで、花純がふっと微笑んだ。
その横顔を見た裕太は、胸がぎゅっと締めつけられるような感覚にとらわれた。
裕太:「……なんだこれ」
言葉にはできなかった。ただ、目を逸らせなくなった。
一方で藤ヶ谷は、秘密基地で花純が歌う時の声に、心臓が跳ねるのを感じていた。
太輔:「きれいだな」
つい口にすると、宏光が
宏光:「何が?」
と笑ったが、太輔は本気だった。
千賀はというと、花純がマジックに驚いて
花純:「すごい!」
と目を輝かせた瞬間、顔が真っ赤になった。
健永:「やばい……」
自分でも説明できない感情に、しばらくドキドキが止まらなかった。
宮田は宮田で、花純が笑うと
俊哉:「よかった!」
と胸の奥が温かくなるのを感じていた。自分のギャグで彼女が笑ってくれることが何よりのご褒美だった。
二階堂は強がって
高嗣:「おれは別に!」
とふざけていたが、内心では花純が自分の話をじっと聞いてくれることに、妙な心地よさを覚えていた。
渉は誰よりも冷静に見えて、実は一番気づいていた。
――みんな、花純のことが好きなんだ。
それはまだ「恋」という言葉をはっきり理解していない年頃の感情だったけれど、間違いなく心の奥に芽生え始めていた。
その夜の秘密基地。
俊哉:「なぁ、カスミちゃんが笑うと、なんか胸がドキドキしない?」
と宮田が口にした。
高嗣:「お前もか!」
と二階堂が叫び、みんなが一斉に顔を真っ赤にする。
宏光:「違う、ただの友達でしょ!」
と宏光が慌てるが、その声もどこかぎこちない。
花純はきょとんと彼らを見つめ、首をかしげた。
花純:「……なに?」
その一言で、また全員がドキリとする。
小さな秘密基地の中に、まだ幼い「恋心」が広がり始めていた。
それはまだ本人たちすら認めきれない曖昧な感情だったが、確かに彼らの胸を熱くしていた。
――この笑顔を、誰にも渡したくない。
七人の心に芽生えた想いは、やがて彼らの未来を大きく揺さぶっていくことになる。