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今週から1ヶ月、先輩はアメリカ出張。
正直ホッとしている。会社でしばらく顔を合わさなくていいから。
金沢の一件以来、僕は先輩と業務上必要な時以外の関わりを絶った。
このまま別れちゃおうかな。どうせ先輩は遊びで僕を相手にしてるだけだし。
でも、何だか胸の辺りがモヤモヤする。先輩に本気で想われたかったからなのかな?
好き。だからなのかな……?
◆
先輩が出張に行って1週間目。ハッピー。
付き合い始めてから、週末はいつも先輩と過ごした。
精魂尽きるまで抱かれて週末はいつもぐったり。
先輩を見てモヤモヤすることもないし、元気有り余る週末なんて久々だ。素晴らしい!
「自由な週末って最高ですね!」
「お、復活したねぇ~藤原君」
おひとり様週末を満喫中の僕はバー【Holiday】でお酒を楽しんでいた。
「先輩とはあれから仲直りしたの?」
「いいえ、冷戦状態です」
「えっ?その割には元気だね」
「先輩はアメリカ出張に行っててしばらくいないんです」
「……いないのが嬉しい?」
「そうですね」
僕はグラスに入ったラム酒を一口飲んだ。
そう、いなくて嬉しい。先輩の事を考えて一喜一憂する必要がない。
おまけに痛い事もしなくていい。良い事尽くし。
「……谷口さん、僕に恋愛は向いてないみたいです。恋愛経験値なんて無くていい」
「藤原君……そんな事言わないで、もう少しだけ恋愛頑張ってみようよ」
恋愛は辛い事ばかりじゃないよ。と谷口さんは僕を宥めた。
「僕、異動願出そうと思ってて」
「――は?ちょっとちょっと!別れるの!?そんなに先輩が嫌いになった?」
谷口さんは僕の発言に何故か酷く狼狽えている。
「先輩と同じ空間にいると胸が苦しくてつらい。先輩は遊び相手としてしか僕を見てないのに、優しくされると勘違いしちゃうんです」
もしかして僕の事、本気で好きなのかな?って。
僕だけがいつも先輩の事ばかり考えて、頭の中がグルグル。
――もう疲れた。
「……そっか。疲れちゃったか」
谷口さんは空になったグラスに新しいお酒を注いでくれた。
「藤原君がまた恋愛をしたくなるまで、ゆっくり休むといいよ」
そう言うと谷口さんは少し寂しそうに笑った。
◆
先輩が出張に行って2週間目、まぁ、割と楽しい。ハッピー継続中。
就職で上京してから中々会う機会が取れなかった地元の友人達と、久しぶりに遊んだ。
「祐希の住んでるとこ、都会なんだろ?良いよなぁ~遊び放題じゃん!」
「それな!ところで……藤原、彼女出来た?」
友人の一人に指摘されドキッとした。
「へ?何で?」
「なんていうか、雰囲気ちょっと変わったというか……大人っぽくなった」
「そう、かなぁ?」
「確かに。なんだよ祐希、抜け駆けか!」
俺達にも都会の可愛い子紹介しろ!と友人達に小突かれた。
友達とじゃれ合う感じ、懐かしい。
飲んで食べてはしゃいで、楽しい週末を過ごした。
◆
先輩が出張に行って3週間目、会社でトラブル発生。
「服部!データに不備がないかしっかりチェックしろっていつも言ってるだろ!!」
朝から部長の怒号がオフィスに響き渡った。
服部さんが先方に送ったデータが間違いだらけだったらしく、先方からクレームが入った。しかも2週間以内に全データの再提出を要求され、期日に間に合わなければうちとの契約を打ち切ると言ってきているらしい。
服部さん……ミス多いもんね。正直、いつかやると思ってた。
「ふぇーんっ、ごめんなさいですぅーっ」
服部さんは泣きながら謝った。
が、しかし、部長は「お前ふざけてるのか!!」とさらに彼女を叱りつけた。
服部さんの独特な口調が癇に障ったみたい。
こんな時に限ってうちの部署のツートップ、長谷先輩と松本さんが出張で不在。大ピンチ。
彼らだったら怒り狂う部長を宥めて、服部さんのフォローも完璧にこなせるんだろうけど、今ここにいるメンバーにそんな器用さは多分無い。
僕らはメソメソ泣きながらデータを修正する服部さんを手伝うのが精一杯。
各々の業務の合間に、みんな必死でデータ修正に励んだ。
毎日残業。眠い、疲れた。つらい。
きっと先輩だったら服部さんだけじゃなくて、みんなの事も優しい言葉をかけてフォローしたんだろうな。
今ここに先輩がいてくれたらな……
先週まではいなくて嬉しいって思ってたのに。
……寂しい。ちょっとだけ。