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翌朝。
教室に入った瞬間、空気がぴんと張りつめる。
わざとらしく笑う声、ひそひそとした視線。
机の上には、誰かが置いていった落書きが残っていた。
「地味なくせに調子乗ってる」
「気に入らない」
ただそれだけ。
理由なんてない。ただ気に入らないから。
喉がひりつくように痛くなる。
けれど何も言えず、○○は黙って文字を消す。
「……またか」
低い声が背後から聞こえた。
振り返ると、幼馴染の蓮が立っていた。
机に広がった消し跡を見て、ぐっと奥歯を噛む。
「お前、いつまで我慢するんだよ」
「……平気だから」
「平気に見えるか」
鋭い眼差しが突き刺さる。
その視線に耐えきれず、○○は俯いた。
蓮はしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐き、囁くように言った。
「……俺がいるから。何かあったら絶対呼べよ」
その一言に、心の奥でほんの少し救われた気がした。
でも同時に胸が痛む。
蓮がどんな想いを抱えているのか、なんとなく分かってしまうから。
放課後、○○はいつものように校門を出た。
駐車場には、黒い車が静かに待っている。
助手席の窓がゆっくり下りると、亮が笑顔で声をかけた。
「今日、気分転換にどこか行くか?」
普段は怖くて学校が楽しくない日々。
でもこの言葉だけで、胸の奥が少し軽くなる。
「……うん、どこ行くの?」
少し照れながら答えると、亮はハンドルを握りながら目を細めた。
「海に行こう。潮風に当たれば、少しは気分も晴れるだろ」
車内は穏やかな音楽と、淡い夕日の光に包まれる。
助手席の○○は、心地よい揺れと亮の温もりに、知らず知らず顔が緩んでいた。
「学校で嫌なことあっただろ?」
低く優しい声。○○は俯き、肩をすくめる。
「……うん、ちょっとだけ」
「ふーん。俺の前でしか泣くなよ」
「……泣かないもん」
「嘘つくな」
くすっと笑い合いながら、車は海岸沿いの道を走る。
潮の香りが混ざる風が窓から入ってきて、どこか懐かしい気持ちになる。
海に着くと、2人は砂浜に降りた。
潮風に髪をなびかせながら、笑い声を上げる○○。
亮はその笑顔をじっと見つめ、満足そうに微笑んだ。
「……やっぱり、ここはいいな」
「うん。来てよかった」
夕日が海に反射して、2人の影を長く伸ばす。
手をつなぐことはなくても、自然と肩が触れ合う距離感。
誰にも邪魔されない、特別な時間――。
しかし、その穏やかな時間は長く続かなかった。
少し離れた駐車場の陰から、クラスの女子の一人が目を見開いてこちらを見ていたのだ。
「……なにあれ、亮くんだよね?なんで○○と…? 」
心の奥に小さな嫉妬と怒りが芽生える。
その目は、翌日学校でのさらなる理不尽な攻撃へと変わる――。
第2話
〜完〜