そこが葵さん独特の魅力なのかもしれない。
それから再び病院にやって来た。
時刻は20時半をまわり、面会時間は終了していた。
でも、受付には数人の職員が残っていて茉奈ちゃんの集中治療室に行くのは難しそうだった。
「どうしますか?」
こういう事に全く慣れていなかった僕は、葵さんに意見を求めた。
「とりあえず、何食わぬ顔で茉奈ちゃんがいる集中治療室まで行きましょう。もし誰かに鉢合わせててしまっても、忘れ物を取りに来たとか言ってごまかせば大丈夫です。高校生を疑う人なんて誰もいませんよ」
「あぁ、なるほど…」
淡々と語っていた葵さんは、いつもの葵さんではなかった。
幾度も困難や窮地にぶち当たり、その度に乗り越えて大きくなってきた頼もしい顔をしていた。
それから僕らは、正面玄関から普通に入り、まだ仕事をしている受付の職員の目の前を通り過ぎた。でも、誰からも何も言われる事はなく通り抜ける事が出来た。
不思議だった。
例え制服を着た高校生だとしても声をかけられる事もなく、そのまま素通りはないだろう…‥。
「あの人、目が合ったんですけどスルーしましたよね?」
「見えてなかったんだと思いますよ」
「どういう事ですか?」
「実は言ってませんでしたけど、私をサポートしてくれている能力者がいるみたいなんです。今みたいに、私たちの姿が見えないようにしてくれたり、色んな形で私の手助けをしてくれるんです」
「味方って事ですか?」
「そうとは言い切れません。時には私がする事を邪魔したりする事だってあります。多分…気まぐれな能力者なんですよ」
「でも今回は助けてくれた…」
「そうみたいですね」
葵さんは、それ以上その能力者の事をあまり話したがらなかった。
それから階段を上がり集中治療室の前まで来ると、葵さんは迷う事なくドアを開け中に入って行った。
度胸が据わっていると言うか場馴れしていると言うか、とにかく感心させられた。
【来てくれたんですね】
茉奈ちゃんの声が頭の中に響いた。
「茉奈ちゃん、おまっ‥」
「あっ‥葵さん、頭の中で…‥」
「あっ!?」
葵さんは恥ずかしそうに、手で口元を押さえていた。
【茉奈ちゃん、病気が治る薬を持って来たから、もう大丈夫だよ】
【ありがとう、お兄ちゃん…】
【茉奈ちゃん…良かったね…‥】
葵さんは、感極まって泣き出してしまった。
【葵お姉ちゃん…まだ泣くのは早いって】
【ごっ‥ごめんね…‥そうだよね】
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