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「料理もお菓子作りも、本当に何でも出来るんですね、先生って」
「私の料理は、ただ時間を効率よく使いたいという、計算ずくなだけですから」
言う間にも手が動いていて、自分は喋っているとつい手が止まってしまうのにと思う。
「だって、そういう効率のいい時間の使い方が、できない人の方が多いんじゃ……」
現に私が……なんて感じていたら、オーブンのタイマーが切れた音がして、スポンジが焼き上がったことを知らせた。
熱々を取り出して冷ましていると、
「生クリームは、これぐらいでいいですか?」
彼が泡立て器をボールから軽く掬い上げて見せた。
──その瞬間、クリームが僅かに飛んで、彼の髪に付いた。
「あっ、生クリームが……」
いつもは完璧な彼の小さなミスがかわいらしくも感じられて、ふっと笑みがこぼれる。
「動かないで……今、取ってあげる」
髪に手を伸ばして、付いたクリームを拭き取った。
「ありがとう…」
彼のそんな愛らしいような一面が見れたことが微笑ましくて、なんだかくすぐったいような気持ちにさせられる。
「どうしたんです? はにかんだような顔つきをして」
「なんでも……」
と、とっさに俯けて隠そうとした顔を、
「なんでも……?」
と、彼に覗き込まれた。
覗き込まれて、「近いから…」とそむけた顔の前に、
「これぐらいの柔らかさでいいですか?」
生クリームの付いた指先が差し出された。
「舐めてみてくれますか?」
そう促されて、舐めるなんてとためらっていると、
「ほら…ちゃんと舐めて…」
唇に今にも付きそうなくらい近くに指が伸ばされた。
それ以上は抗えなくて、唇に挟むようにして、彼の指をそっと咥えると、
「甘い……」
ほのかな甘さと柔らかな口当たりがふわりと広がった。