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そんな大人らしくない店長の態度も今は気にならなかった。


さっきの店長の言葉が、耳にこびりついて離れなかったから。


それは頭の中を何度も行き来し、徐々にからだ全体に染み渡っていく。


「どういう…意味ですか。」


もう麺が残っていないどんぶりを意味もなく掻き回しながら聞いてみる。


そこには、僅かな期待にも似た感情が含まれていた。


「ん?いや、ほら。出会い系…とかってさ、色々事件とかあるだろう?そ、それにさ…もし相手の人に妊娠…とかさせられて、責任逃れされたら藤塚さんの人生が台無しになると思って、心配で仕方なかったんだよ…いやぁ、そうならないうちによかった…俺がこれ以上口出しするものではなかったからね…」


はは、と苦笑いを浮かべつつもまだ周りを気にしてるのか、「出会い系」とか「妊娠」とかの単語を小声で言う。


驚いた。店長が、そこまで考えてくれてたなんて。ただ綺麗事を言っているだけじゃなかった。


援交という行為を心配していたんじゃなくて、私の身を心から案じてくれていたんだって。


心臓の鼓動が高鳴る。何だろう。大人らしくない態度に言葉。頼りなさそうな店長が、今この瞬間だけは、大人の威厳を感じる。


(お父さん…てこんな感じなのかな。)


遥か昔、遠い記憶から優しかった頃の父親の姿を引っ張り出して店長と重ねようとする…が思い出せない。


(忘れちゃった。まあ、いっか。)


「心配していただき…ありがとう…ございます。」


素っ気なく答えた自分がもどかしい。今まで色んな男を落としてきたのに、肝心なところでは役に立たないなんて。


それでも店長は気にしていなかった。


「そんな、当然じゃないか。大切な社員だからね。けど、何で急に止めれたんだい?」


「それは…」


「あ、ごめん…無神経だったね…」


言葉を一瞬つまらせた私に、店長は慌て謝ってくる。


そうじゃないのに。


私は、息を思いっきり吸い込み…意を決した。


「店長のおか…」


「わっ!!やばいやばい、もうこんな時間だ!!出なきゃ…」


「えっ…」


開いた口をそのままに、時計を見ると休憩が終わる5分前だった。


一気に焦りが駆け巡ってくる。


「ここは俺が払っておくから、藤塚さんはもう戻って!!早くっ…」


「でも…」


「大丈夫だから。」


「…分かりました。」


軽く会釈をすると、急ぎ足で支度をする。


「あれ?そう言えば、さっき何て言ったんだい?」


「っ……何でもありません。では、また…」


最後の最後で、呑気な問いかけをされたが、私は急ぐフリをして誤魔化した。


ほんのりと熱くなった額と、高鳴りの名残を残している胸に手を当てながら、職場に向かった。


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