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謹慎期間が終わってからの学校は地獄だった。どうやっても疑いは晴れないし、そもそも友人以外と話すことがないため、物理的に疑いを晴らすことが不可能なのだ。

「どうして、俺の疑いを晴らさないままにしたんだ」

「それは、まだ犯人が分かってないからだよ。決してわざとではないから、あまり僕を睨まないで欲しいんだけど」

「俺が犯人じゃないと、確信しているのか?」

「そうじゃないとここまでしないさ。というか、自分で言っていたじゃないか。『俺を無条件に信じるだけの覚悟があってもいいんじゃないのか』ってね」

「意外だよ、お前が本当にそうしてくれるとは」

「あくまで僕たちは親戚同士だ。まあ、それを知っているのはごく一部だけども、悪評が立つのは僕からしてもいいものではないからね」

「でも、結局何も変わってないじゃないか」

俺の状況は変わっていない。俺は『犯人』というレッテルを貼られた、どうしようもない人間なのだ。さすがに真犯人が分からない以上、友人も動けないという、悲しい悲しい結果に陥っている。

「僕ができるのは怪文書を解読することぐらいだよ。君が床にばら撒いた怪文書は全て同じ内容だった。その枚数は五十枚、邪魔な証拠を処分したかったんだろうけど、さすがに雑にやりすぎているね」

「心当たりがあるのか」

「いや、ないけども。これは間違いなく誰でも良かったというように見せかけた犯行だね。確実に君を恨んでいる、もしくは妬んでいる誰かの犯行だ。君こそ心当たりはないかい?」

「そんなのあるわけないだろ」

いや、ないわけでもないのだが、生徒会長ではない。絶対にだ。

「そうか。君が考えていることはおおよそ分かるのだけれど、意地でも認めたくないみたいだね」

「何のことを言っているのか分からないな。逆に俺が誰かに恨まれたり、妬まれたりするような人間に見えるのかよ」

「さあ、どうだろうね。人は些細な事でも負の感情を抱くものだ、完全にないとは言い切れないだろう?」

結局、どこの誰だか、この学校の人間かも分からないということだ。周囲の目が余計に怖く感じる。


「俺はある意味謹慎処分のほうが楽だったよ」

「そんなこと言わないでくれ。僕の苦労が無駄になるじゃないか」

「具体的に何をしたのか教えてくれないか?」

「簡単なことだよ。さっきは『苦労』と言ったけれど、僕の家族は『優しい』から、この件を話しただけさ。少し大袈裟に話し過ぎた可能性は否めないが」

友人の家庭は、普通より少し裕福、ぐらいの金持ちだ。親が権力を持っているとか、そんなことは特に聞いたことがない。両親は共働きでどちらも会社員らしいし、一体何があってそこまで動けるのかは、まさに未知の世界だ。

「つまり、お前の親が先生に直談判したということか?」

「そんなことしたって先生は動かないだろう。僕はいつだってお願いするだけだ、詳しい内容までは知らないよ。君は僕を、何かの黒幕か何かと勘違いしていないかい?」

「勘違いというかその通りだろ。まあ、詳しくは聞かないけどさ」

「君の想像力には負けるよ。羨ましいとさえ思うね」

「そりゃどうも」

こいつにとっては、もはや助けるとかそういう次元ではなく、周りに相談したら事が勝手に解決していた、ぐらいの感覚なのだろう。自覚があるのかないのか、俺には確かめようがない。


翌日、俺は普通に廊下を歩いていた。

「痛、なんだよもう」

後頭部に何かがぶつかった。いや、ぶつけられたのか。後ろを向くと知らない二人組がいた。

「あーあ、当たっちまったよ」

「わざとだろ。まあ、犯罪者に人権なんかねえか」

ああ、この学校も腐ったもんだ。怪文書貼りの犯人と言われている奴に平気で紙くずを投げつけるなんて、よほど痛い目を見たいようだな。

「何してんだてめえ」

「うわ、キレてやがる。やっぱり犯罪者は短気なんだな」

「うるせえ、なんか文句あるのか」

「いやー、怖い怖い」

俺は拳を握りしめ、そいつの顔面に向けて腕を伸ばす。

「貝塚拓斗! 君はそんな低俗ではないはずだよ」

「ゆ、友人……?」

拳を寸止めし、後ろを振り返った。

「君にしては愚策なんじゃないかい。安い挑発に乗るなんて、僕がここにいなかったらどうなっていただろうね」

「うるせえ、こいつらが先に……」

「本当の罪を背負いたいのであれば、好きにすればいい。しかし、その時は僕の友達でも親戚でもなくなるけどね」

俺はどうかしていた。今もまだ怒りが収まらない。最近短気になっていたのかもしれない。でも、こんな、こんな仕打ちってないだろ。

「うわ、面倒くさ」

「何あいつ、行こうぜ」

喧嘩を売ってきた奴らは行ってしまった。反省など微塵も感じられなかった。

「なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ!」

「すまない、君に我慢を強いているのは分かっているんだ。でも、暴力がダメなのは、君が一番わかっていることじゃないのか」

暴力は解決策にはならない、暴力が新たな暴力を生む、理解していたから今まで俺が他人に暴力を振るうことはなかった。友人もそれを信じてくれていたんだろう。

「分かった、俺が間違ってたよ。ごめん」

「さすがに卒業までこのままにしておくわけにはいかないね。僕はいつでも力になるつもりだ、もちろん、君の家族もね」

「ああ、俺もくよくよしてられないな。できる限り俺自身で動いてみるよ」

俺はもう少し、あがいてみることにした。


噂は学校全体に、貝塚拓斗の知らないところまで及んでいた。

「なあ、あの噂聞いたか?」

「三年生の怪文書だろ、やべえよな」

一年生の教室前の廊下、噂はいたるところで囁かれていた。

「犯人って捕まったのか?」

「貝塚っていう人らしいよ、先生が話してるのを聞いたんだ」

「貝塚? それって……」

「あいつの兄らしい」

この会話に耳をすませていた者が姿を現す。

「僕の兄さんが、なんだって?」

「い、いや、なんでもない」

「そう? ならいいんだけど」

学級委員長である弟は、貝塚家の実の息子、拓斗の義理の弟だ。両親からその『優しさ』を受け継ぎ、拓斗とは本当の兄弟のように過ごしてきた。

「お前は噂とか興味ないのか?」

「僕は、そうだね。自分の目で見ない限りは信じてないかな」

もちろん、兄の噂などとっくの昔に耳に入っている。しかし、弟は拓斗が助けを求めない限り動くつもりはなかった。

「さすが委員長」

「その言い方はよしてよ。僕にとって真実だけが正義だから、曖昧なものは実害が出ない限り僕の範疇に入らないだけ」

「委員長がそこまで言うなら、確かめてみてくれよ。俺たちは気になってるからさ」

「それは君たちがその犯人と思われる人に直接聞いてみたら? 目星がついているなら自分で確かめることぐらいできるでしょ」

そんなことできるはずがなかった。一年生が三年生に喧嘩を売っているようなものだ。しかも、委員長の兄に。

「い、いや、やっぱりそこまででもないかな。俺たちも委員長を見習うよ」

「それはいい心がけだね」

こうして噂が広まるのを防いではいるが、当然、一年生全員が委員長の言うことを聞くわけではない。やがて本当に、拓斗に事実確認をしに行く一年生が現れてもおかしくない。弟は少し警戒しながらも、あくまで自分は無関係だと、笑顔を貫き通す。

「委員長にはかなわないなー、あはは……」

「僕のほうこそ、君たちにはかなわないよ。本当に、羨ましい」

「それはどういう……」

「気にしないでいいよ。ないものねだりだから」

兄は弟の憧れだ。だからこそ、兄を守らなければと、弟は深く思った。

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