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図書館を出ると、基地の廊下は少しだけ騒がしかった。
足音。
無線の声。
どこかで金属が触れ合う乾いた音。
「無理しないでください」
エーミールは歩幅を落とす。
「医務室までは、ゆっくり行きましょう」
その時だった。
「お、エーミールやん」
軽い調子の声が前から飛んでくる。
先頭に立っていたのは、背筋の伸びた男――コネシマだった。
後ろには、同じ制服の兵士たち。
「移動中ですか?」
「ええ。こちらは、少し案内を」
エーミールが簡潔に答える。
コネシマの視線が、ロボロに向いた。
一瞬、鋭い観察の色が宿るが、すぐに和らぐ。
「……怪我してるんやな」
言い方は柔らかい。
「前線は無理そうや。
あの国で_____」
評価でも、詮索でもない。
「ゆっくり治し。
無理して出てくる場所ちゃうし」
それだけ言って、部隊を率いて去っていった。
ロボロは、小さく頭を下げた。
少し進むと、今度は壁際で何かを調整している人物がいた。
「……あ、エミさん」
振り向いたのは、ショッピだった。
片手に端末、もう片方で無線を押さえている。
「通信テスト中?」
「はい。……あれ?」
ロボロを見る。
「新しい人ですか」
「そうですね。今は、療養中です」
「了解です」
深く踏み込まない。
「医務室近くは電波が弱いんで、
もし変な音がしたら教えてください」
それだけ言って、再び作業に戻る。
ロボロは、少し意外に思った。
――誰も、理由を聞かない。
角を曲がったところで、
今度は無線越しに大きな声が響いた。
「それ、逆やって言うたやろ!」
振り向くと、通路の先にシャオロンがいる。
部下に指示を飛ばしながら、こちらに気づいた。
「あ、エーミール。」
そして、ロボロを見る。
「……大丈夫か?」
短いが、率直な一言。
「はい」
「そっか」
それ以上は言わない。
「じゃあな。
ここは慣れるまで、静かな方がええ」
そう言って、再び指揮に戻った。
人の流れが落ち着いたところで、
エーミールが小さく息を吐く。
「今のが、前線の指揮官たちです」
「……皆さん」
ロボロは言葉を探す。
「距離の取り方が、同じですね」
エーミールは、わずかに頷いた。
「踏み込みすぎない。
でも、無関心でもない」
それが、この国のやり方だった。
医務室の扉が見えてくる。
「今日は、ここまでです」
エーミールは立ち止まる。
「人に会って、疲れましたか」
ロボロは、少し考えてから答えた。
「……いえ。
思っていたより、静かでした」
「それなら、よかった」
エーミールは、穏やかに言った。
ロボロはベッドに戻りながら、思う。
この国には、
いろいろな立場の人間がいる。
だが――
少なくとも、誰も自分を“物”として見ていなかった。