テラーノベル
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目が覚めた時、最初に感じたのは鉄の匂いだった。
湿った空気。
錆びた床。
遠くで水滴が落ちる音が、静かな廃墟に響いている。
身体を起こそうとした瞬間、後頭部に鈍い痛みが走った。
「……っ」
記憶が途切れている。
確か、夜道を歩いていた。
その時、背後に誰かの気配を感じ――。
そこで記憶は終わっていた。
周囲を見渡すと、自分以外にも大勢の人間が倒れている。
学生服の少女。スーツ姿の男。泣きじゃくる子供。
ざっと見ても三十人ほどはいる。
その時だった。
突然、校内放送のようなノイズが響く。
『――皆様、お目覚めでしょうか』
全員が顔を上げた。
『この場所には、“人喰い幽霊”が存在します』
ざわめきが広がる。
『生き延びたければ、赤い扉まで辿り着いてください。ただし――赤い扉は一つではありません。ハズレも存在します』
ブツッ、と放送が切れる。
次の瞬間。
誰かが叫んだ。
「ふざけんな!!」
その声を合図にしたように、全員が一斉に走り出した。
自分も反射的に駆け出す。
廃墟は学校のようだった。
崩れた廊下。
天井の穴。
床が抜け落ちた教室。
そして、至る所に水が溜まっている。
横から悲鳴が聞こえた。
振り返る。
細い通路を渡っていた男の腕を、“何か”が床下から掴んでいた。
黒い手。
いや、人の手ではない。
泥のように溶けた巨大な腕が、男を穴の中へ引きずり込む。
「いやあああああ!!!」
絶叫が、突然途切れた。
全員の足が止まる。
だが次の瞬間、また誰かが走り出した。
止まれば死ぬ。
そう本能で理解した。
自分は別の道へ逃げ込む。
そこは膝まで水に浸かった廊下だった。
誰も進もうとしない。
水面の下に、何がいるかわからないからだ。
それでも、自分はゆっくり足を踏み入れた。
冷たい。
異様に冷たい。
後ろを見ると、さっきまで怯えていた男が、自分の後について来ていた。
一歩。
また一歩。
その時。
足元を、“何か”が横切った。
自分は咄嗟に止まる。
「止ま――」
言い終わる前に、後ろの男が悲鳴を上げた。
水の中から伸びた無数の腕。
男の身体は一瞬で沈み、赤黒い水だけが広がっていく。
自分は恐怖を振り切るように岸へ飛び乗った。
だが、安心する暇はなかった。
段差の上に、血まみれの人影が立っていた。
「大丈夫ですか――」
声をかけた瞬間、その人影が飛びかかってきた。
裂けた口。
濁った目。
人間じゃない。
必死に振り払い、自分はまた走った。
廊下にも。
教室にも。
階段にも。
妖怪のような化け物が潜んでいた。
息が切れる。
肺が焼ける。
それでも走る。
そして――。
ついに見つけた。
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