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王の間にて。


女王ニーナは、先日の御前試合のことでライオネ領主へ褒美をやった。


絨毯に置かれた宝箱には鏡と宝剣が入っている。


「ありがたき幸せ!」


自らの株が上がったと歓喜した様子のライオネ領主。


はあ……


一方、玉座のニーナは口元を扇で隠しながらため息をついた。


(両者の実力の差も知らず、あのような試合を催すべきではありませんでしたわね……)


17歳の年にき父スレン三世から王位を継承し、まだ二年あまり。


まだまだ父のようにはいかない。


そう心細く思いながらも、次は女騎士ナディアを呼ぶ。


「ナディア・エルゾーナ、参上いたしました」


「ご苦労様ですわ。して、ダダリの新領主の具合はいかがでしょう?」


「アルトの、ですか?」


「ええ。その……ずいぶんと一方的な試合でしたでしょう? どこか痛めていなければよいのですけれど……」


そう言って彼岸花ののような長いまつ毛を伏せるニーナ女王。


「ならば心配におよびません。あれはわざと負けていたのです」


「わざと?」


ニーナは思わず少女らしくキョトンと首をかしげる。


「わざと負けるだなんて……どうしてそんなことを?」


「わかりません。でもヤツは闘技場で相手があらわれると戦う意志をなくした様子でした。その証拠に、一撃も攻撃を放たなかったのですから」


確かにそうだった。


もしかして相手が女性だったのを見て試合を放棄したのだろうか?


そう考えると、女王の膨大な執務の中にあっても、彼を記憶にとどめておいてよい気がした。


「ナディア。ダダリの新領主……アルト様についてなにかわかったら随時知らせなさい」


「はッ、かしこまりました」


女騎士ナディアはそう答えると退出していった。




◇ ◆ ◇




「こら! 荷物持ち!」


俺が大きなリュックを背負ってとぼとぼ歩いていると、スレン軍の兵が怒鳴りつけてきた。


「ぼさぼさすんな! 戦場はもうすぐそこだぞ!」


そう。


ステラとの御前試合で大敗を演じた俺は、戦争の司令官から「到底戦力にはならないだろう」という評価を受け、荷物持ちとして参加させられることになっていた。


一応は領地を預かる辺境爵なのだが、俺が女の子にボコボコにされた試合を見たからか、ヒラの兵士たちからも雑用扱いされる始末。


腹は減ったし、道のりは長い。


やれやれ、やってらんねーぜ。


「やっほー! アルトっち~!」


そんな時。


進軍の列をさかのぼって駆けてくるヤツが見えた。


栗色のポニーテールにスカート型のアーマー


先日試合をしたステラである。


「あれー? アルトっち。なんでこんなところで荷物持ちなんてやっているの? ちょーウケるんだけどw」


「お前のおかげでな。こういうことになった」


「えー、アタシのおかげ? ヤバぁ、照れんだけどぉー」


そう言って頬を赤らめるステラ。


皮肉を言っても通じないタイプか。


幸せなヤツだな。


「ところでアルトっち。お腹減ってない?」


「減ってるに決まってる。ずっと歩きどおしなんだぜ」


「だと思ったんだよー。ほら、アタシの作ったお弁当」


「え?」


ステラが手渡してくれたバスケットにはサンドイッチが入っていた。


「こ、これ。食っていいの?」


「ウケるーw いいに決まってんじゃん。はい、あーん」


ステラはサンドイッチを手に取り、俺の口へ突っ込んだ。


うっ……


「ウマー! 生きてきた中で一番うまい!」


「ヤバぁ、大げさすぎだしww じゃあいっぱい食べてね!」


俺はバスケットを受けとり、「サンキューな」と礼を言う。


「それからコレ。あとで読んで……」


すると、ステラは一枚の羊皮紙を手渡してくる。


折り畳まれて、中に中にか書いてあるようだ。


「なんだこれ?」


「ダメー! あとで読んでって言ってるじゃーん」


「お、おう。そうか」


「じゃ、またね。アルトっち」


ステラは短いスカートをひらりと舞わせると走って戻っていった。


「なんだアイツ?」


俺はそんなふうにつぶやきながら羊皮紙を開く。


すると……


≪好きです。この戦争が終わったらデートしてください≫


そう書いてあった。





古代竜の古戦場にて。


スレン王国とバサム共和国との戦争が始まった。


ワー! ワー! ワー!


戦争は、人の死ぬ運動会のようなものである。


関ケ原のような平地に両国が陣取り、兵が突撃しては引いてを繰り返す。


「おい、荷物持ち! 危険だからキサマはさがっていろ!」


ただし、俺はそんなふうに言われて戦争に参加させてもらえない。


やれやれ。


じゃあここでTOL(テリトリー・オヴ・レジェンド)における戦争のあつかいを思い出してみようか。


それにはオンラインモードの理解が不可欠だった――


TOLはプレイヤーが領主として領地を経営するゲームなのだが、オンラインモードに加入すると『王国』というグループに編入されて戦争を行うことができる。


王国に編入された領主(プレイヤー)たちの行う戦争は大きく分けて2種類。


1、領地VS領地の戦争

2、王国VS王国の戦争


1は、『Aプレイヤーの領地』と『Bプレイヤーの領地』で戦うというもの。


この場合、同じ王国に所属するプレイヤーも敵同士である。


対して2は、王国対王国の戦い。(※共和国はNPC戦で登場する)


つまり同じ王国に所属するプレイヤーたちは協力関係にある。


ただし、完全なる味方かと言えばそうでもなく“功績ptの獲得競争”という面もあった。


戦争でより活躍した領地は、その功績ptにより『発言力』を得る。


発言力の高い領地は、戦争で獲得した益の配分をより多く貰えたり、王国が次にどこと戦うかなどの方針決定において、発言力が高くなるのだ。


――だから。


本当は俺も兵を引き連れ、功績を獲得し、王国でのダダリの地位を上げたいところだった。


というか、魔境を攻略したり、訓練所を建てたりしたのも、ほとんどそのためだったのだけど……


こんなに早く戦争が起こってしまったので、まだ率いて来られるほど領民の育成ができていなかったのである。


今回は義理立てのためだけにひとりで参加したけど、次は見てろよ……


「まずい、撤退だー!」


「引けー! 引けー!」


そんなふうに考えていると、いつの間にか劣勢に立たされたスレン王国は撤退を余儀なくされていたのだった。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~

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