ここは日本の東の東のそれまた東にある誰も知らない世界。幻想郷、幻想のを、幻想を愛するものしか立ち入ることの許されない理想郷。
――博麗神社、境内。
「あぁ、もうっ! 何よ!」
一人の少女が悪態をつき、乱暴に箒を地面に突き立てていた。
巫女である。まだ十代の半ばといったところだろう、幼さの残る顔つきの少女だ。少女は苛立ちに任せて、がりがりと頭を掻き毟る。
「こんなときに……よりにもよって、なんでこんな日に、なんでこのタイミングで!」
癇癪を起こしたように、少女は叫ぶ。
「異変を起こした奴も空気読んでよ、空気!」
少女はひとしきり叫んだあと、がっくりと肩を落として溜息を吐く。
「異変解決も楽じゃないわ……はて…今回はどうやったもんかな」
少女は憂鬱そうに、もう一度溜息を吐いた。
――博麗神社、境内裏手、鳥居の手前辺り。
「ん……あら、珍しい……」
少女が呟いた。視線の先には、ひとりの女性の姿がある。
ショートパンツに白いブラウスを着ていてどこか着られている感がある。肩までの黒髪と、背中には鴉のような羽が生えている。
「霊夢さん!こんにちは!!」
少女は丁寧にお辞儀をして、少女に挨拶をした。だがその笑顔には何故か威圧感が漂っている。
「……あー…また何か面倒事?」
女性は苦笑しつつ、少女に返事をする。
少女は女性の言葉を聞くと、にっこりと笑顔を浮かべる。そして女性にこう言った。
「当たり前でしょう?」
少女の言葉に、女性はやはり苦笑する。少女はそんな女性に笑顔のままこう続ける。
「異変ですよ、異変。しかも結構大きいんですよ? ほら、霊夢さんは元々貧乏だから分からないと思うんですけど最近、農作物の出来が悪いとかはありませんでした?」
少女の言葉を聞きながら、女性は困ったような顔をして頬に手を当てる。
「ああ、そういえばお米とか栗とかさつまいもとかの値段が上がってるわね。静葉と穣子じゃない?あいつらの仕業よ」「いや、静葉さんと穣子さんは秋や自分の能力を好いているし異変を起こすような人じゃないです」「そうね…じゃあ、幻想郷に私達が知らない土地に私達が知らない妖怪が住み着いたのかしら」「さぁ?でも出来が悪い理由は農家達が次々と居なくなったんですよ。人間も、家畜も」「あら……」女性は少し驚いたような顔をして、少女に言う。
「じゃあ、異変は妖怪だけによるもので人間は関わっていないのね」「そうなります」「ですから、霊夢さんに任せます。では、私は記事を書かなきゃいけないのでこの辺で」
少女はそう言って、箒に跨がり飛び去ろうとする。
「あーちょっと待ちなさい」
女性が、少女を引き止めようと声をかける。少女が振り向き、怪訝そうな顔で言った。
「……なんですか?」
女性は、少し言いづらそうに間をあけてからこう言った。「賽銭、」「あげません」
少女は、霊夢のその言葉を最後まで聞かずにきっぱりと断じ妖怪山へと去って行った。
「ああ……酷い」
霊夢はがっくりと肩を落とし、少女を見送ったあと神社へと帰って行った。
「はぁ…午後は魔理沙の家に行こうかしら。」