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KOKUGA
182
#探偵
橘靖竜
5,795
にここ
90
「仕方なく、そっちに行かなければならないようですね」
「くるの? 秘密基地」
「弟がとても興味を持っているみたいなので、ぼくが一緒に行ってあげようかと思います」
「いきたい、ひみつきち」
勇信が澄んだ目で言った。
「わかった。行ってみようか。じゃあ、ふたりとも、せーのでこっちに渡っておいで」
「勇信……」
「うん?」
「1、2、3で跳ぶからな」
いち、に、さん。
ふたりは一気に岩を渡った。
堀口はふたりが渡りきったことを確認すると、何も言わずに先に丘を登っていく。
兄弟もそのあとに続いた。
タバコを吸っていた運転手が、どこかへ走っていく兄弟の姿を見つけた。
驚いた表情でタバコをもみ消すと、すぐに車へ乗り込んだ。
パパッ!
車がクラクションを鳴らした。
堀口と兄弟は川沿いの道を下り、閉鎖された工場の中に隠れた。
「まさか、ここが秘密基地じゃないですよね。これならがっかりです」
「ちょっと静かにしてて」
黒い外車が、重いエンジン音を響かせながら3人の前を通り過ぎた。
「もしかして、秘密基地って怖いところじゃないですよね? 怖いところなら、ぼくたちは車を呼びます」
廃墟のような工場の雰囲気におののいたのか、勇太の声は不安そうだった。
「もちろんここじゃないさ」
堀口は、車が遠ざかるのを確認してから言った。
「ああ、ひとつ言っておきますけど、もしぼくたちを誘拐するつもりなら、やめたほうがいいですよ。ぼくたち、普通の子どもじゃないので。誘拐みたいなことをしたら、あとで死ぬほど後悔することになりますからね。あの運転手のおじさん、柔道3段です。絶対に勝てる相手じゃありませんよ」
「誘拐なんてするわけないだろ? ぼくだって、まだ誘拐される側の人間なんだからさ。車と君たちを引き離すために、ここに入っただけだから心配しなくていい」
「わかりました。一度だけ信じてあげます」
「いこう! ひみつきち!」
勇信が腕を高々と掲げた。
「あのさ、勇信。秘密基地が何なのか知ってるの?」
「お母さんがヒミツって言いながら、何回かチョコレートをくれたよ。ヒミツはいいことだよ!」
「なるほど」
「さあ、そろそろ行ってみよう。こっちだ。ついてきて」
「あ、でもちょっと待ってください」
勇太が堀口を止めた。
「どうしたの?」
「これがあってはいけないんです。勇信、ポケットの中から機械を取り出して」
「あ、うん」
勇太は自分のポケットと弟のポケットを探り、2つの小さな機械を手に取った。
「知らないと思いますけど、これGPSです。ぼくたちがいつどこにいるのか、大人たちはみんな知ってるんです」
勇太は周囲をしばらく見回した。
そして、建物と壁の間にある土を掘り、GPSを埋めた。
「頭がいいな。それとも、よくこうやって遊んでたりするのかな?」
「頭がいいんです。この程度もできないなら、好き勝手に遊べませんからね、吾妻グループは」
「あづまグループも、なかなか大変なんだね」
堀口と兄弟は、黒い車を警戒しながら田舎道を歩いていった。
強い日差しが降り注ぎ、3人の体はすぐに汗だくになった。
途中で水を買って分け合い、また先へ進む。
景色は、次第に自然の中へと入っていった。
よく茂った林が、3人を取り囲む。
「あっ、かんらんしゃ!」
木々を越えた先に、観覧車のてっぺんが見えた。
そこは、15年前に営業を終えた遊園地だった。
止まったままの回転ブランコ。
錆びついたジェットコースター。
チケット売り場だった木の小屋は古びていて、強い風が吹けば飛んでいきそうだった。
アトラクションも建物もペンキが落ち、遊園地全体が秋の落ち葉のような色をしていた。
「これがあなたの言う秘密基地なら、ぼくたちはもう帰ります」
「かえります」
勇信が兄のうしろに隠れた。
「そうだよ。ぼくたち、ゆうえんち持ってるからいつでも行けるんだよ。お客さんがだれもいない時間にも行けるんだからね」
堀口は何も言わず、アトラクションの横を通って遊園地の奥へ歩いていった。
「ねえ、なんで何も言わないんですか」
「ついていこうよ」
結局、兄弟は堀口のあとを追い、遊園地の中へ足を踏み入れた。
それほど広くない遊園地の中心には、メリーゴーランドがあった。
堀口は注意深く周りを見回す。
誰もいないことを確認すると、錆びた鉄柵を越えてメリーゴーランドの中に入った。
「気をつけて入ってくるんだ」
兄弟がついていくと、堀口はペンキの剥がれ落ちたカボチャ馬車の前で立ち止まった。
かつては華やかな装飾を施されていたはずの円柱も、今では古い木柱のように変わっている。
「さあ、これから秘密基地に案内するよ。楽しみにしててくれ」
足もとには、汚れたシートが敷かれていた。
堀口はもう一度周囲を警戒し、シートをめくり上げた。
その下から、マンホールのふたのような木板が現れた。
木板には、ところどころ穴が開いている。
堀口はそこに指を突っ込み、全力で板を持ち上げた。
板の下には、内部へと降りられる鉄のはしごがかかっていた。
マンホールの内部と同じような構造だった。
「これ! 本当に秘密基地じゃないですか!」
勇太が興奮のあまり叫んだ。
「シッ、静かに。誰かが来たら秘密がバレちゃうじゃないか」
「ああ……わかりました」
時間は午後2時を回っていた。
強い日差しを浴びた遊園地は、太陽熱で溶けてしまいそうだった。
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