テラーノベル
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堀口が秘密基地を発見したのは、偶然の結果だった。
閉園して久しく、すでに廃墟と化した遊園地。
夜には幽霊が出ると言われ、地元住民がここを訪れることはほとんどなかった。
しかし堀口は、この場所が好きだった。
誰にも邪魔されず、心ゆくまで読書を楽しめる、自分だけの読書室だったからだ。
そんなある日。
メリーゴーランドの中で横になっていると、天井に奇妙なボタンがぶら下がっているのに気づいた。
すべてが古びたメリーゴーランドの中で、そのボタンだけが妙に新しかった。
「なんだあれ……」
堀口は飛び起き、隣にあるカボチャ馬車のてっぺんへ登った。
そしてぐっと手を伸ばし、ボタンを押してみた。
ウィィィン――。
まるで地鳴りでもするように、地面の下からモーター音が響いた。
メリーゴーランド全体が、小さく震えはじめる。
とっくに役目を終えたはずの馬たちが、ゆっくりと動きだした。
派手な光も、音楽もなかった。
馬たちはただ静かに半周し、それから止まった。
堀口がカボチャ馬車から降りると、馬の脚の下に丸い木板が現れていた。
床が丸く開き、そこに木の板がぴたりとはめ込まれている。
まるで、メリーゴーランドという弾倉にはまった一発の銃弾のようだった。
天井の奇妙なボタンを押すことで、その弾丸が姿を現したのだ。
堀口は直感した。
これは、意図的に隠された蓋だと。
そうして堀口は内部へ入り、秘密基地を手に入れた。
「でも、なんで君たちに秘密基地を教えるのかわかるかい?」
「ぼくたちが特別だから?」
勇太は、当たり前のことのように言った。
「まあ、それもある。でも実は、夢のためなんだ」
堀口はその言葉を残し、鉄のはしごに足をかけた。
先に降りていく堀口に続いて、勇太もはしごに手をかける。
そのまま地下へ降りていくと、最後の数段が抜けていた。
「えっ」
勇太はそのまま落下し、床の上を転がった。
しかし恥ずかしかったのか、すぐに起き上がった。
「勇信、気をつけろ。最後ははしごがない」
勇太は弟の腰をつかみ、下へ降ろしてやった。
KOKUGA
182
#探偵
橘靖竜
5,795
にここ
90
内部は、夏だとは思えないほどじめじめしていて涼しかった。
コンクリート特有のにおいと、錆びた鉄のにおいが鼻を刺す。
「なにここ……」
勇太は、転んで汚れた尻をはたきながら言った。
「くらいよ。ぼく、ちょっとこわい」
勇信は辺りを見回し、月のように丸い入口を見上げた。
「ちょっとそのままじっとしてて」
堀口はポケットから携帯用のLEDライトを取り出し、暗闇の中を歩いていった。
光が当たった先に、電気ヒューズボックスがある。
ボックスを開け、スイッチを上げる。
すると地下空間に、小さな明かりが灯った。
地下はかなり広かった。
まるで教会のようなおごそかな広さに、兄弟は一瞬言葉を失った。
しかしよく見ると、壁は濁った灰色をしていた。
いたるところから水が滴り落ち、床の一部は濡れている。
「もしかして、ここって防空壕?」
「なんでそんな難しい言葉を知ってんの?」
「甘く見ないでください。ぼく、頭いいんです」
「それはわかってるさ。でもここは防空壕じゃなくて、ぼくの秘密基地さ」
「そんなのいりませんから」
「……まあ、ついてきなよ。そうすればわかるはず」
堀口のあとについていくと、そこには一張りのテントが置かれていた。
「うわっ! テント!」
勇信の興奮した声が、地下空間に大きく響いた。
「勇信。あんまり大きい声を出しちゃダメだ」
「このテントは家から持ってきたんだ。たまにここに来て昼寝をしたり、本を読んだりしてるよ」
「ぼくも本がすきだよ」
勇信がテントを開けて、中を覗いた。
中には電池式のランタンと数冊の本があった。
寒さをしのぐための毛布や枕もある。
「たまにここで本を読んでるなんて、友だちがいないんですか?」
「読書するのに友だちっている?」
「いりませんね」
「はいるね」
勇信がテントの中に入り、ランタンのスイッチを入れて本を読みはじめた。
最初のページを開き、10秒ほど集中する。
そしてすぐに本を閉じた。
「ちょっとむずかしいから、来年になったらよむね」
「ああ、そうすればいいさ」
「勇信、ちょっとぼくにも見せて」
勇太もテントの中に入り、本を手に取った。
堀口と勇信はしばらく待っていた。
しかし勇太は、現実を忘れたように本を読んでいる。
「小学生なのに、そんなの読めるんだね。やっぱりあづまグループは他とは違うや」
「ぼくもおにいちゃんも本が好きだよ。さいしょはイヤだったけど、読まなかったら大人に怒られるから。でも今はたのしいよ」
「君たちなりの苦労があるんだな」
「ぼくたちは特別だから、他の人よりも何でも必死にやらないといけないんです。お父さんにいつもそう言われていますので」
勇太は本から目を離さずに言った。
「そんなことより、秘密基地ってもう終わりですか?」
「いや、このテントは基地の入口にすぎない。本当の秘密はもっと奥にある」
テントの中にいた勇太が、飛び上がるように出てきた。
「わらの家がテントに変わっただけだから、ちょっとがっかりしてたんです。でもまだ他にも何かあるなら、それなりに悪くありませんね」
「さあ、進もう。ここが防空壕じゃないことを証明してあげるよ」
堀口はそう言って、薄暗い奥へ歩いていく。
兄弟は黙ってあとについていった。
しばらく進むと、目の前に小さな扉が見えた。
固く閉ざされた、オレンジ色の重い鉄扉だった。
鉄扉の横には、テンキー式のドアロックがある。
「門……。この中に本当の秘密があるんですね!」
勇太は興奮を抑えられず、大声をあげた。
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