テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
柘榴とAI

127
191
#探偵
橘靖竜
5,431
#闇バイト
るしゅ
753
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
堀口が秘密基地を発見したのは、偶然の結果だった。
閉園して久しく、すでに廃墟と化した遊園地。
夜には幽霊が出ると言われ、地元住民がここを訪れることはほとんどなかった。
しかし堀口は、この場所が好きだった。
誰にも邪魔されず、心ゆくまで読書を楽しめる、自分だけの読書室だったからだ。
そんなある日。
メリーゴーランドの中で横になっていると、天井に奇妙なボタンがぶら下がっているのに気づいた。
すべてが古びたメリーゴーランドの中で、そのボタンだけが妙に新しかった。
「なんだあれ……」
堀口は飛び起き、隣にあるカボチャ馬車のてっぺんへ登った。
そしてぐっと手を伸ばし、ボタンを押してみた。
ウィィィン――。
まるで地鳴りでもするように、地面の下からモーター音が響いた。
メリーゴーランド全体が、小さく震えはじめる。
とっくに役目を終えたはずの馬たちが、ゆっくりと動きだした。
派手な光も、音楽もなかった。
馬たちはただ静かに半周し、それから止まった。
堀口がカボチャ馬車から降りると、馬の脚の下に丸い木板が現れていた。
床が丸く開き、そこに木の板がぴたりとはめ込まれている。
まるで、メリーゴーランドという弾倉にはまった一発の銃弾のようだった。
天井の奇妙なボタンを押すことで、その弾丸が姿を現したのだ。
堀口は直感した。
これは、意図的に隠された蓋だと。
そうして堀口は内部へ入り、秘密基地を手に入れた。
「でも、なんで君たちに秘密基地を教えるのかわかるかい?」
「ぼくたちが特別だから?」
勇太は、当たり前のことのように言った。
「まあ、それもある。でも実は、夢のためなんだ」
堀口はその言葉を残し、鉄のはしごに足をかけた。
先に降りていく堀口に続いて、勇太もはしごに手をかける。
そのまま地下へ降りていくと、最後の数段が抜けていた。
「えっ」
勇太はそのまま落下し、床の上を転がった。
しかし恥ずかしかったのか、すぐに起き上がった。
「勇信、気をつけろ。最後ははしごがない」
勇太は弟の腰をつかみ、下へ降ろしてやった。
内部は、夏だとは思えないほどじめじめしていて涼しかった。
コンクリート特有のにおいと、錆びた鉄のにおいが鼻を刺す。
「なにここ……」
勇太は、転んで汚れた尻をはたきながら言った。
「くらいよ。ぼく、ちょっとこわい」
勇信は辺りを見回し、月のように丸い入口を見上げた。
「ちょっとそのままじっとしてて」
堀口はポケットから携帯用のLEDライトを取り出し、暗闇の中を歩いていった。
光が当たった先に、電気ヒューズボックスがある。
ボックスを開け、スイッチを上げる。
すると地下空間に、小さな明かりが灯った。
地下はかなり広かった。
まるで教会のようなおごそかな広さに、兄弟は一瞬言葉を失った。
しかしよく見ると、壁は濁った灰色をしていた。
いたるところから水が滴り落ち、床の一部は濡れている。
「もしかして、ここって防空壕?」
「なんでそんな難しい言葉を知ってんの?」
「甘く見ないでください。ぼく、頭いいんです」
「それはわかってるさ。でもここは防空壕じゃなくて、ぼくの秘密基地さ」
「そんなのいりませんから」
「……まあ、ついてきなよ。そうすればわかるはず」
堀口のあとについていくと、そこには一張りのテントが置かれていた。
「うわっ! テント!」
勇信の興奮した声が、地下空間に大きく響いた。
「勇信。あんまり大きい声を出しちゃダメだ」
「このテントは家から持ってきたんだ。たまにここに来て昼寝をしたり、本を読んだりしてるよ」
「ぼくも本がすきだよ」
勇信がテントを開けて、中を覗いた。
中には電池式のランタンと数冊の本があった。
寒さをしのぐための毛布や枕もある。
「たまにここで本を読んでるなんて、友だちがいないんですか?」
「読書するのに友だちっている?」
「いりませんね」
「はいるね」
勇信がテントの中に入り、ランタンのスイッチを入れて本を読みはじめた。
最初のページを開き、10秒ほど集中する。
そしてすぐに本を閉じた。
「ちょっとむずかしいから、来年になったらよむね」
「ああ、そうすればいいさ」
「勇信、ちょっとぼくにも見せて」
勇太もテントの中に入り、本を手に取った。
堀口と勇信はしばらく待っていた。
しかし勇太は、現実を忘れたように本を読んでいる。
「小学生なのに、そんなの読めるんだね。やっぱりあづまグループは他とは違うや」
「ぼくもおにいちゃんも本が好きだよ。さいしょはイヤだったけど、読まなかったら大人に怒られるから。でも今はたのしいよ」
「君たちなりの苦労があるんだな」
「ぼくたちは特別だから、他の人よりも何でも必死にやらないといけないんです。お父さんにいつもそう言われていますので」
勇太は本から目を離さずに言った。
「そんなことより、秘密基地ってもう終わりですか?」
「いや、このテントは基地の入口にすぎない。本当の秘密はもっと奥にある」
テントの中にいた勇太が、飛び上がるように出てきた。
「わらの家がテントに変わっただけだから、ちょっとがっかりしてたんです。でもまだ他にも何かあるなら、それなりに悪くありませんね」
「さあ、進もう。ここが防空壕じゃないことを証明してあげるよ」
堀口はそう言って、薄暗い奥へ歩いていく。
兄弟は黙ってあとについていった。
しばらく進むと、目の前に小さな扉が見えた。
固く閉ざされた、オレンジ色の重い鉄扉だった。
鉄扉の横には、テンキー式のドアロックがある。
「門……。この中に本当の秘密があるんですね!」
勇太は興奮を抑えられず、大声をあげた。