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「あ、お姉さんも綺麗っすね、良かったら連絡先――」
あろう事か尚まで口説こうとした男の子たちを尚は、
「ああ? 調子こいてナンパなんてしてんじゃねぇぞ、クソガキ共が。散れ!」
鋭い視線で睨みつけ、ドスの利いた声で彼らを一喝した。
「こ、怖ぇっ」
そんな尚を目の当たりにした男の子たちは半ば逃げるように私たちの元から走り去って行った。
「ったく」
「尚……」
「大丈夫か?」
溜め息ひとつ吐きながら尚は私に向き直って声を掛けてくれる。
「う、うん」
「ってか、何大人しくしてんだよ、あーいうのはとっとと追い返せよ」
「ご、ごめん」
「ま、いいけど。とにかく食べようぜ」
尚は何事もなかったように席に着くと、ファストフード店で買ってきたハンバーガーに手を伸ばして包みを開けた。
私はさっき不覚ながら、女装している尚にときめいてしまった。
外見は置いておくとして、ナンパから助けてくれたあの瞬間、すごく男らしくて格好良く見えたから。
「おい夏子」
「へ!?」
「……食わねぇの?」
「た、食べるよ!」
尚に見惚れていた私は指摘され、慌ててハンバーガーに手を伸ばす。
「しっかし、夏子をナンパとか、ガキ共も血迷ったな」
「なっ!」
「もっと他に良い女がいるだろーに」
「ちょっと、尚!」
「何だよ、ちょっとしたジョークだろ」
前言撤回! 誰が惚れるか、こんな奴!
苛立ちながらも口には出さず、手に取ったハンバーガーにかぶりついた。
良い奴かも、なんて思ったけど、やっぱり違ったみたいだ。
私のときめきを返して欲しいと思いながら、ハンバーガーを片手にポテトをつまんでいく。
「何よ?」
ふいに、尚の視線が私に向けられている事に気付いて尋ねてみる。
どうせ、『良く食うな』とかそういった事を言われるのだろうと思っていたのだけど、尚の口から出た言葉は私が思っていたものとは違っていた。
「俺、こういう風に誰かと買い物するの、すげー久しぶりだったんだ」
「へぇ、そうなんだ? メンバーの人と行ったりしなかったの?」
「そういうのは、ほとんどしたことねぇな。第一、俺たちは身バレしないようにしないといけないから、なかなか自由に出歩けなかったし」
「そっか。買い物行きたい時はどうしてたの?」
「休みもなかなか取れなかったから、マネージャーに頼む事が殆どだな。どうしても自分で行きたいって時はマネージャー同伴だし」
「芸能人って、大変なのね」
「まぁな。だからさ、今日はすげー新鮮だった」
私のような一般人にとってはこれが普通の事だから尚のような感覚は少し理解し難いけれど、言い換えれば楽しかったという事なのだろう。
まあ、色々あったけど、私も久々に買い物出来て楽しかったからそれを口にしようとすると、
「今日は楽しめた。ありがとな、夏子」
私より先に、しかも笑顔でそんな風に言うもんだから何だか驚いてしまった。
「……別に、私は何も……楽しめたのなら、良かったね」
驚き過ぎて、私の方が素直に言葉を口にする事が出来なかった。