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第三話:ふたりの距離、ほんの少しだけ
夜、陽翔が布団に入り、目を閉じたとき。
部屋の電気が消えて、真白もベッドに入ってきた。
「お前、布団の端寄りすぎだろ」
「え?でも、先輩、あっち側じゃん」
「なんでわざわざ端に寄ってんだよ」
「……なんとなく。先輩がそっちに寄ってくれたら、俺もちょうどいい感じだし」
陽翔は小さく笑って、布団を少しだけ引き寄せた。
すると、真白がそのまま寄りかかってきた。
「お前、ほんと面倒くせぇな」
「面倒くさいっていうか、幸せだよ」
「……寝ろ」
真白は少し頬を赤らめながらも、何も言わずに横を向いて目を閉じた。
陽翔もそれに合わせて、静かに目を閉じる。
でも、心臓がすごくうるさい。
「先輩、あのさ」
「……なに?」
「ほんとに、好きだよ」
真白はその言葉に、少しだけ黙った後、低い声で返す。
「俺も、お前が好きだよ」
その一言に、陽翔の心臓はもうバクバクしてた。
目を閉じたまま、ただ真白の体温を感じながら、少しだけ近づく。
そして、ふとした瞬間、真白の腕が、陽翔の腰に回った。
「先輩?」
「寝てろって言っただろ」
でも、その腕の力は、少しも離れようとしなかった。
逆に、陽翔はその腕に抱きしめられるように、自分の体を寄せた。
「なんで、こんなに近くにいるんだろ」
「お前が、こっち来いって言うからだろ」
「……うん、でも、先輩、あったかい」
「……そうか」
しばらくそのままでいた。
言葉もなく、ただ二人の呼吸だけが響く。
その間、陽翔は何度も自分の気持ちを伝えたくて、でも怖くて言えなかった。
その手のひら、背中に伝わるぬくもり、すべてが現実だと信じたくて。
そして、ついにその時が来た。
「……先輩」
「なに?」
「このまま、もっと近くにいてもいい?」
真白は少し驚いたように顔を向けて、その後、静かに陽翔を引き寄せた。
「……お前、ほんとにわがままだな」
「いいじゃん、わがまま。だって、先輩が大好きだから」
その言葉が、真白の心の中に何かを引き起こしたのを、陽翔は感じた。
もう、後戻りはできない。
ふたりは、ゆっくりと互いに顔を近づけ、唇が触れ合う瞬間――
「……んっ」
ほんの少しのキスだった。
でも、それが陽翔には大きすぎるほどの意味を持っていた。
その夜、真白は何度も陽翔を引き寄せ、さりげなく背中を撫でたり、頭をなでたりしてくれる。
その度に、陽翔は心が溶けていくのを感じた。