テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#このキャラでログインしたい
298
「早乙女さん、今日の昼ってどんな予定ですか?」
「白川く~ん? それは最近ろくにお昼行けてない私への嫌味かなぁ?」
昼飯の時間が近付いて来たので、近い席で書類に埋もれている彼女に声を掛けてみると。
予想はしていたけど、物凄く恨みがましい瞳を向けられてしまったではないか。
まぁうん、机の上にはエナジードリンクの空き缶が並んでいるし。
早乙女さんの足元にあるゴミ箱には、携帯食料の空き箱が多数。
追い込み時などには、結構皆こんな状態になるのだが。
イベント事に対し、上が提案して来た要求&会議で決まった内容の見直し。
問題点が無いかや、コレに対して賞金首達の負担分配。
更にはこの人の場合、その全員を気に掛ける立場にある上、もしも問題が起きたら責任を取らされる立場にあるのだ。
それはもう、必死だろう。
というか、見ているだけで辛くなる程に疲弊している。
デカいお祭りがあった後なんかは、アフターフォローに追われるだろうしねぇ……。
ホント、お疲れ様です。
とか何とか、同情と共にあまりにも酷い体調管理を目にしてしまい、思わず溜息を零してから。
「たまには、しっかりと休憩取らないとマジで体調崩しますよ? あと、飯食ってるんですか?」
「帰ってから誰か作ってくれる人が居れば食べますけどねぇー、生憎と独身なものでしてー。というかこの仕事してたら絶対結婚出来ない気がする、ヤバイ、心折れそう。ねぇ白川君、私の代わりにお弁当買って来てくれない? こう、栄養満点的なヤツを。味とか度外視で良いから……やばい、栄養が足りてないのが自分でも分かる……」
もはやゾンビみたいな状態になりつつ、ずっと仕事の手は止めないし。
これはアカン、完全にトリップしている状態だ。
もう一度ため息を零してから、彼女の机の上に……一つの包みをソッと置いてみると。
ピタッと、早乙女さんが動きを止めた。
「え、何?」
「買って来た訳ではないけど、お弁当ですね。栄養満点で、しかも味も最高なヤツです。食いません? 結構キテますよ、今の早乙女さん」
そう言ってみると、彼女はプルプルしながら弁当の包みを開け……蓋を開けた瞬間、「ふぉわぁっ!?」とよく分からない声を上げた。
しかし、気持ちは分かる。
だって普通、こんな弁当作ってくれる人居ないよね。
一般家庭の弁当ってヤツを、友達に見せてもらった記憶は沢山ある。
やはり時間の都合とか、その他諸々が重なって“手作り弁当”代表格って雰囲気が強い印象を受ける事が多かったのだが。
夢月の作るソレは、一味どころか七味くらい違う。
決して唐辛子という訳では無いが。
「ま、待って白川君……何、なにこれ!? 凄いよコレ、何か物凄くいっぱい入ってる上に、滅茶苦茶豪華だよ!? まさか白川君が作ったとか言わないよね!? アンンタ料理男子だっけ!?」
コレを見た早乙女さんは、声を荒げながらも完全に固まっていた。
でも分かる、妹の弁当は基本豪華なのだ。
ついでに言うと、余すことなく色々拘っている様で、これでもお財布に優しいという優れもの。
つまり、一般家庭の女神にも等しい。
「まさか、俺だけだったら健康診断優等生になりませんよ。なんとこちら……ウチの妹から、“早乙女さんにもお世話になっているので”との事で。今日は特別に作って頂きました」
「妹さん!? というか……あの、シックスから!? 待って待って、アバターばっかり見てるから全然想像出来ない!」
非常に混乱しながらも、彼女は弁当をバシャバシャ写真に収め、どこかへ送信。
いったい何をしているのかと首を傾げてしまったが、その後即効早乙女さんのパソコンの方に通話が掛かって来て。
『ねぇちょっと早乙女さん!? こっちは今起きたばっかりなのに何てモノ見せる訳!? ていうか、シックスが作ったお弁当ってマジ!?』
間違い無く、sevenの声。
担当している賞金首とは随分仲良くやってるなぁ、とは思っていたけど。
こんな事をする様な仲になっているとは。
「白石君から、“妹さんが作ったお弁当”って言って今貰いましてぇ~見た目だけでもお裾分けしようかと」
『ねぇ今からそっち行くから、半分残して!? 私も食べたい!』
「いやぁ、流石に部外者を易々と会社に入れる訳にはいきませんかねぇ~。という事で、いただきまーす」
『待って待って待って! 昨日配信でセブンを臭わせた事は謝りますので私にも! ね! ね!? ていうか部外者じゃないし! 一応私も関係者だし!』
なんか、凄い事言ってる。
ていうか、マジで仲良いなこの二人。
思わず呆れてしまう様な会話を繰り広げながらも、わざわざwebカメラを起動させた早乙女さんは、いただきますと手を合わせてから。
「んっ!? うっっっま!? え、なになになに!? 唐揚げ小粒なのに、めっちゃしっかり味付いてる! これマヨとか追加の味つけとか全然要らない!」
「あーそれは俺の好みに合わせてくれてる感じですね。下味勝負は妹の癖でもあるんですけど、デカいのガブッて行くよりずっとサクサクしてた方が好きって言った影響っていうか。衣もちゃんと味付いてるでしょう?」
「すっご! 白川君の妹さん本気でヤバイ! んんっ!? こっちのお浸しだって、じんわり来るし! え、何? オマケみたいに付いてる野菜にも、しっかり味付けてくれるの!? お弁当屋さんだったら、絶対あり得ない手間でしょ!」
「同時にこなせば放っておくだけだから、本人からしたら“手抜き”だそうですよ? あ、忘れてた。味噌汁も水筒に入れて来ましたけど、飲みます?」
「貰う!」
『ねぇぇぇ! ねぇちょっとぉぉぉ!? 早乙女さーん! シックスのお兄さーん! 私にも、私にもお弁当ぉぉぉ!』
「そんじゃ俺も、昼飯食わせてもらいますね」
「んっ! どうぞどうぞ、今場所空けるね。一緒に食べよう白川君」
『ねぇ! ねぇ!? 私の分は!? ねぇってば!』
という事で、本日は珍しくオフィスが非常に騒がしい事になったが。
しかしながら、早乙女さんは非常に満足してくれたらしく。
食べ終わった頃には、幾分か顔色が良くなって見える程だった。
ついでに言うと。
「白川君、ちょっと私達結婚しない? そしたら妹さんも、もれなく付いてくるのよね?」
「冗談でも、言って良い事と悪い事があるって教わりませんでした? というか狙いを定めてるのが完全に夢月じゃないですか、嫌ですよ」
『二人のラブロマンスは他所でやって貰って! ねぇねぇお兄さん、今度シックスとオフ会して良いですか? もちろんお家で! 作り立て食べてみたぁぁい、というかお弁当でも良いから今すぐ欲しいぃぃ! 許可して下さいよぉ~女の子同士だし、良いじゃないですかぁぁ!』
本当に、滅茶苦茶騒がしい昼飯になってしまったが。
とはいえ、どこまでも満足してもらった様で何より。
これで彼女は、どれ程ウチの妹が優秀か理解した事だろう。
などと思いつつ、二人分の弁当箱を片付けようとしたら。
相手にヒョイッと奪われ、「せめて洗ってから返します」との事。
こういう所、女の人はキッチリしてますねホント。
「ねぇねぇ白川君、冗談抜きで今度君の家行って良い? 妹さんにお礼もしたいし、sevenじゃないけど作り立て食べてみたいというか……」
『その時は私も行きますからね!? 良いですよね!? 食材やらデザートやらいっぱい買っていきますし、生シックスとまた会える機会なんて早々ないんですから! ね!?』
効果は、想像以上だった様だ。
いやまぁ、夢月が良いと言ってくれれば来るのは構わないけども……。
ウチのアパートで、俺以外皆女性ってのは、少々気まずいモノがある訳でして。
むしろあれか、飲み会ってか宅飲みにしてしまえば良いのか、休日前とかに。
などと、学生テンションで言えるはずもなく。
「家には俺も居るんですから、二人共もう少し警戒心というものを持ちましょうか」
こればかりは、大人としてキッチリお断りしておかなくては。
ウチにsevenを呼ぶなんぞ、それこそ問題だろうに。
早乙女さんでも充分問題あるんだけども。
という事で、しっかりとお断りしたつもりだったのだが。
「妹さんが居る環境で、アンタがおかしな事する筈ないでしょうが。シスコン」
ズビシッと言われた一言に、全く反論出来なかった。
ついでに言うと、sevenは大爆笑していたが。
チ、チクショウ……なんか、納得いかねぇ。
コメント
1件
わあ、第58話!めっちゃ楽しかったです! 早乙女さんが夢月ちゃんのお弁当で一気に元気になって、しかもセブンまで巻き込んで大騒ぎになる展開、最高でした。特に「結婚したら妹さんも付いてくる」発言には思わず笑いました。シスコン扱いされて反論できない白川くんにも親近感が湧きました。お昼ご飯シーンなのに、登場人物の関係性の温かさがじんわり伝わってきて、読んでて幸せな気持ちになりました🤍