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「大丈夫?」 麗華の声に、シャボン玉がパチンと弾けたように過去のくだらない記憶は消え、目の前にある現実が現れた。
「……あ、それよりさ、ノート持ってってあげるよ……」
「え?」
麗華の変わっていく表情に、やっぱり私みたいなバカが聡明な麗華を騙すなんて出来ないのだと、イヤってぐらいに突きつけられてくる。
後で散々酷いこと言われるんだろうなって思えば、泣きそうになっていた。
「……ありがとう。じゃあ、頼んでいい?」
「えっ!」
自分で言ってるくせに、この反応。
麗華に「重いよ」と言いながら渡されたノートの束は確かに重く、ズシリとのしかかる。
「じゃあ、お願いね……」
私を置いて階段を降りていく背中はどこか曲がっているような気がして、怯えている……と分かった。
「麗華!」
「え、ちょっと……!」
階段を駆け上がってきて、シーっと口元に指を当てる姿は迷いがなく、今でも私のこと守ろうとしてくれているのだと分かる。
こんな、私なんかのために。
「ごめん、やっぱムリだぁ……。これは麗華が運んでくれない?」
ノートの束を渡そうとするけど麗華は受け取ろうとしてくれず、だったらと私が階段を駆け下り職員室に向かっていく。
「ねえ、こんなことして大丈夫?」
大丈夫じゃない。だけど、何もしてない人に濡れ衣かける方が、もっと大丈夫じゃないよ!
「は? ちょっと何してんの!」
ようやく状況に気付いたのか、莉乃たちが追ってきて、足が速い麗華にノートの束を託す。
「文?」
「これは私のためにやってるの。だからお願い、ノートを先生に出して!」
「……分かった」
麗華は軽い足取りで階段を駆け降りていき、三人は追いかけていくけど、五分ほどで戻ってきた。
その表情から分かる。麗華は無事にノートを提出してくれた。
そしてたった今、イジメのターゲットは私へ変わったということも。
「アンタ、何やってんのが分かってる?」
「バカ過ぎて、段取りミスったの?」
「クラスみんな、課題やってないのに! どう責任取るつもりぃ!」
剥き出しの言葉に心が抉れていくも、どこか清々しさもあって、変な気持ちだった。
はぁ、初めからこんな子たちだと分かっていたら、友達にならなかったのにな。
……ウソだ、友達になってたよ。だって、他に声掛けてくれる子なんて、他に居なかったから。
「課題やらずに、何も悪くない人に罪被せる方が悪いに決まってるじゃん。今やってることってダサいよ。今の顔、鏡で見たら? すごい顔してるよ」
化粧や服装とかで着飾っても、本性を露わにした顔は醜い。だから心まで美しくあれ。
私の好きな小説の文章だ。
「はっ? 説教ってやつ? ウザっ!」
「せっかく底辺のアンタをグループに入れてやってたのに、あーあ、マジで萎えたわぁ」
「だからこんなの、入れるの辞めよって言ってたのに。どーすんの? 私ら、頂点に目ぇ付けられるかもしれないし。どう責任取ってくれんの?」
イラつきがピークに達したようで、肩をドンっと押された私は、壁にぶつかりよろける。
「ちょっと、これ以上はマズイって!」
手が出た莉乃を紗枝は抑えて、渋々階段を降りていく。
だけどこれは、イジメの終わりではない。むしろ始まり。
私の敵は三人だけじゃない。クラスのメンバー全員になった。
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