私の名前は胡蝶しのぶ。東京都立呪術高等専門学校3年所属の呪術師です。3年所属と言っても同級生が停学中なので、ただでさえ少ない三年生の中でもまともに通学できているのは私だけです。早く戻ってきてくれないでしょうか、秤くんと綺羅羅さん。
「しのぶー!!」
私がしばらく顔を見ていない同級生のことを考えていると、私の名前を呼んで歩いてくる男性が1人。
全身黒ずくめの服装に、それと対象的な白い髪。そして最も特徴的なのは、顔の上半分を覆い隠すこれまた黒い目隠しです。身長は190センチ超え。どこからどう見ても不審者のこの大男は、五条悟。私の以前の担任です。
「ねぇちょっとしのぶ。今なんか失礼なこと考えてなかった?」
「いえ、気のせいじゃないですか? それよりも五条先生、何か用ですか?」
「用がなきゃ話しかけちゃ駄目ってこと? ひっどー!」
「そんなことはありませんが、先生もそこまで暇じゃないでしょう?」
「まぁそりゃね。なんてったって、僕、最強だから」
「そうですね」
目隠しのせいではっきりとは分かりませんが、口調と雰囲気からしてキラーンという表情を浮かべているに違いありません。この人、こんな話をするためだけに私に絡んできたんでしょうか。
「……何か私に話があったんじゃないんですか?」
「あ、そうそう。しのぶに、長期の任務が来てまーす!」
「……長期、ですか?」
「そう!」
長期任務……。全くない訳ではありませんが、珍しいですね。厄介な呪霊でもいるんでしょうか。
「何をすれば良いんですか?」
「しのぶさ、ブルーロックって聞いたことある?」
「ブルーロック……ありませんね。青い石、ですか?」
「いや、そっちじゃなくて、青い監獄」
青い監獄……。RockじゃなくてLockの方でしたか。
「ずいぶん物騒な名前ですね、何をしている施設なんです?」
「高校生男子300名の、生き残りを賭けたサッカーバトル」
「……はい?」
「アハハ、そりゃそーいう反応にもなるよねー」
「生き残りを賭けるって……」
「あぁ、別にマジで命を賭けてる訳じゃないよ。ただ、そこで脱落するとソイツは今後日本代表になる権利を永遠に失うんだって」
「永遠に……」
それは確かに、真剣にプロを目指している高校生にとっては辛いでしょう。
「そのシステムによって負の感情が激増して呪霊による被害が出ている、ということですか?」
「そ。今んとこは別にそこまでやばい訳じゃないだろうけど、頻度とか増えてきてんだって」
「なるほど……。よくやる気になりましたね、そんな蠱毒まがいのプロジェクト」
「それだけ切羽づまってるってことじゃないの、分かんないけど」
「……まぁ、任務内容は分かりました」
「ほんと? じゃよろしくねー」
「いつからなんですか?」
「明後日」
「…………、?」
気のせいでしょうか。今とんでもない言葉が返ってきたような気がするのですが。
「えぇと……、もう一回言ってもらえます?」
「明後日」
聞き間違いでも勘違いでもなんでもなかったようです。私的には五条先生の悪戯という線が一番有り得ると思ったのですが。
「明日1日で何をしろって言うんですか? 普通の任務ならともかく、長期なんですから色々用意も必要ですよね」
「しょうがないじゃん僕だって知らされたの一昨日なんだから!」
「それなら一昨日教えてくれれば良かったじゃないですか。先生昨日は高専にいましたよね?」
「いや忘れてたんだもん」
「忘れてたんだもん、って……」
溜息。
相変わらずの良い加減さですが、これで世界に5人しかいない特級術師なんですから世の中の仕組みは意味が分かりません。強いですけれど、本当に戦力面では文句なしの最強ですけれど。
「……過ぎたことなのでとやかく言うのは止めましょう。明後日から、ブルーロックで長期任務ということで良いんですね?」
「そうそう合ってる! 頑張ってね!」
「……まぁ、はい」
「ちょっとその煮え切らない返事は何⁈」
「……いえ、なんでも」
皆にも一応伝えておいた方が良いでしょうね、しばらくの間は皆に会える頻度も減るでしょうから。
胡蝶しのぶ、1級呪術師。久しぶりの長期任務です。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!