それから、幾らか月日が経った。
完全に雪は溶け、春が訪れている。
俺の虚弱な体は、主炎の献身によって、俺でも驚く程に体調が安定している。
おかげで最近は、激しく咳き込む事も、高熱を出す事も減って来た。
あれから時が経ったおかげで、俺と主はある程度の自由を与えられた。
ただし、この家の敷地からは出ない。と言う約束だ。
主炎曰く、「心配だから」らしい。だが、今のところ不自由は何一つとしてない。
温かい日差しの中、俺は庭に咲く花々を目尻に古い書物を読み続ける。
「津炎」
玄関の方から主炎の声が聞こえた。
本に栞を挟み、膝の上に置く。
そっと頭を動かして、彼の方を見つめる。
いつもの黒のセーターに、紺のズボンを履いて、真っ黒の手袋をつけた姿の主炎。
優しく微笑んだ彼は、スタスタとこちらに歩みを進める。
「最近温かくなってきたとは言え、長時間外に居ると体冷やすぞ?」
そんな事を言いながら、彼は俺が外に出る事を禁止にはしない。
なんなら、今のように、俺の肩にブランケットをかけてくれる。
ついつい、俺の口元は緩んでしまう。
「ありがとうございます。主炎さん」
相変わらず、月光を閉じ込めた彼瞳は、柔らかさと静かな温かさを帯びている。
「気にするな」
そう温かに笑って、ベンチに座る俺の横に腰を下ろした。
少し手を伸ばせば、優しく微笑んでいるその顔に触れれるほど近い。
主炎が隣に居るだけで、何故か心臓がうるさくなってしまう。
その理由を知りたくて、本を読み漁った事がある。主にも聞いた所、これは、“恋心”と言うものらしい。
つまり、俺は主炎の事が好き。と言う事だ。
それを自覚してからは、長時間主炎と目を合わせられなくなってしまった。
隣で書類を読む主炎の横顔を時折本を読むふりをしながら見つめる。
少し静かな空気が流れた。だが、苦しい静けさでは無く、落ち着く物だ。
何度も何度も、主に教えてもらった“恋心”と言う言葉が脳裏に響いて離れない。
—-敵だったのに。看守役だったのに。
今は、奇妙な同居人で、俺の片想い相手。
そっと、書物のキリル文字を指でなぞる。
「よし」
そう声を漏らして、主炎は書類から視線をそらして、こちらを見据える。
何となく、俺は書物に栞を挟み膝の上に置いた。






