テラーノベル
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「指輪を外すなー!」 恐怖でざわつく声から、確かな意思を感じ取れる声が俺の耳に響いてくる。声がする方向に目を向けると、それは俺と同じクラスで友人の|斉藤《さいとう》 |翔《しょう》だった。
カッターシャツの第一歩ボタンを開け適度に着崩した制服が似合う翔は、身長が百七十センチ以上ある長身で俺の頭一つぶん高くスラリとしている。野球部所属で日焼けをしており、短髪が良く似合い、キリッとした目に、整った鼻筋を持ち合わせている。まさに俺の理想を絵に描いたような存在だ。
そんな翔の言葉に、俺は抜けかけていた指輪をグッと奥に押し込んだ。
指輪は外すな? どうゆうことだ?
そんな疑問を抱えつつ。
『そうですね。外さない方が賢明だと思います』
突然ポケットより響いた、無機質な声。
「誰!」
その声は、スマホの受話口より放たれているようだった。液晶画面に目をやるといつもの待機画面ではなく、見たこともない赤色の三日月が映し出されていた。数々に起こる非日常の数々にパニック状態になっていた生徒達による悲鳴に包まれ、暑い廊下がよりむさ苦しくなった。
『これは失礼しました。私のことは主催者とでも呼んでください。これより説明を行います。二年一組に来てください』
呼び出されたのは、俺達のクラスだった。
まだ教室は見回れていない。そんな不安と、何かが進展するかもしれないという僅かな期待から教室をそっと覗き込むと机と椅子が通常時の半数しかなく、前方の物はなくなっていた。
『皆さんは、カップルで並んで座ってください』
その声に体がビクッと硬直する。
そうだ、今は命令されてこの部屋に来ていたのだった。廊下で待たせていた小春を呼びに行かないと。
そう思い、教室を出て行こうとする。
「この丸いのは?」
震える誰かの声を、背中で聞きながら。
『ああ。カメラなのでご心配なく』
やっぱり、そうだった。
想定していた返事だったからさほど驚かず、足を止めることもなかった。
「は? なんで? そんな意味分からない奴の言うこと聞かないといけないの?」
すると、先程とは違う女子の強い口調が耳を突く。
俺はこの声に嫌悪感を抱くほどになっていた為、無視を決め込むことにした。
「言う通りにした方がいいから! 席順は?」
『特にありません』
今度は、翔が全体に呼びかけていた。翔とは小学校の頃から友達だがあまり主張するタイプではなく、その積極性に違和感を覚える。
しかし今はそれを気にかける時間も気持ち的余裕もなく、小春と共に一番後ろの窓側席に座る。
全員が着席した時、その声は聞こえた。
『これより皆さんには、カップルデスゲームをしてもらいます』
「は?」
どこかから漏れた声は、次第に大きな騒めきへと変わっていった。
『それでは基本ルールから説明します。皆さんの左手薬指に装着されてある、死の指輪。それは以下のルール違反を起こすと爆発します』
「爆発!」
その言葉が出た途端ざわつきは悲鳴へと変わり、教室中に殺伐とした空気が包み込む。
その中でしっかりと聞こえてきたのは「指輪は外すな」という、翔の声だった。その声に俺だけでなく、他の生徒もギリギリのところで自分を抑えているようだった。
額から汗が流れたのは、暑さのせいだけではない。
次に聞こえてきたのは、オルゴールの音色。しかし癒しとかはなく、耳がざわつく不協和音だった。
手に取った生徒達の、ざらついた声が飛び交う。次に映し出されたのは、横文字で並べられた文面だった。
【指輪が爆発するルール違反】
1.学校の校舎外に出ること
2.自分の指輪を外すこと
3.他人の指輪を外すこと
※その他二つのルール違反は、各々で考えてください。
「は? 待てよ? マジで爆発するの、この指輪!」
教室の前方に座っていた一人の女子。西条寺愛莉さんが勢いよく立ち上がったかと思えば、指輪を引き抜こうとしていた。
「外したらダメだって!」
隣に座っていた男子、神宮寺 翼くんが止めようとするが。
「うるせーな! テメェに指図される覚えはねーんだけど!」
突然の怒声に彼氏の神宮寺くんも、その後ろにいた生徒全ても、ギョッと身を引く。
それはいつも可愛い声を出している学校一人気の女子だったから、そのギャップに別の意味で震え上がってしまった。
その声に怯え切ってしまった小春の手を、俺は強く握り締めた。
そんな俺達に、相手は容赦なく画面を切り替えてきた。
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