テラーノベル
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つまりお互いのために期間限定の恋人のフリってこと?
「……もしかして、これ前払い……」
ドレスもネックレスも返品不可。
お前はこの話を受けるしかないんだぞってこと?
「それは普通に統括室の仕事で必要なものだ」
嫌なら断ってもらってもかまわないという彰に沙紀は悩んだ。
「……私では釣り合わないと思うんですけど」
「俺が沙紀に惚れている」
っていう演技だよね。
びっくりした。
「俺を拒否しないでいてくれれば、おまえはいつも通りでいい」
簡単だろ? と彰は再びワイングラスを手に取った。
少し揺らして楽しむ姿がドラマのワンシーンみたいだ。
「守ってやるから恋人になれ」
ジッと見つめてくる黒豹のような男の言葉に、沙紀は思わず「はい」と返事をしてしまった。
守ってやるという言葉は魔法だ。
こんな言葉はズルい。
「ありがとう、沙紀」
イケメン御曹司の笑顔に魂が抜けそう……。
期間限定だけど、偽装だけれど、こんなすごい人が彼氏……!
今更だがとんでもない契約をしてしまったかもしれない。
「失礼します。和牛フィレ肉のステーキでございます」
運ばれてきた肉料理はテレビで見た柔らかいステーキ。
まさか自分が食べられる日が来るなんて!
添えられたのはフォアグラだとテレビで言っていたけれど、フォアグラも食べるのは初めてだ。
「……美味しい!」
「そうか」
嬉しそうな沙紀の笑顔に思わず彰も口元が緩む。
「本日の赤ワインはタラパカ・グランレゼルヴァ・カベルネ・ソーヴィニヨンのブラックラベルでございます」
注がれた赤ワインの色を確かめるようにゆっくりとグラスを傾け、香りを確かめる彰の姿に沙紀は見惚れた。
「熟成されたいい香りだ」
「ありがとうございます」
「チーズにも合いそうだな。いつものように頼む」
「かしこまりました」
ブラックラベル以外、全く名前を覚えられなかった。
やっぱり住む世界が違う!
肉を食べる姿は優雅なのに少し野生っぽい。
やっぱり彰様を動物に例えるなら黒豹だなと沙紀はしみじみ思った。
デザートももちろん美味しすぎて、本当に夢のようなひと時だった。
スッと黒服さんが寄ってきて椅子を引いてくれるなんて、まるで映画の中のお姫様になったかのような不思議な気分。
庶民には程遠い夢の世界だ。
「沙紀」
差し伸べられた手を取ると、そのまま腕を組まされる。
もう恋人設定が始まるの?
支払いもなく店を出るのはどういうこと?
いつの間にお支払いが済んだの?
庶民にはわからないことだらけだ。
黒服さんがエレベーターを呼んでくれているし、不思議すぎる!
エレベーターが到着し、扉が開く。
「……いらっしゃいませ、綾小路様」
黒服店員はエレベータの中に乗っていた二人に頭を下げた。
エレベータの中にいたのは胸元が大きく開いたセクシードレスの女性とスーツにスカーフの年配の男性。
やっぱりこういう人が来る店なんだよね。
美人さんだなぁ。
「彰!」
沙紀は視界に入らなかたのか、飛びつこうとする女性を彰は右手で止めた。
「ご無沙汰しております、綾小路会長」
「あぁ、彰くん。ここで会うとは奇遇だな」
チラッと彰と腕を組んだ沙紀の値踏みをしたあと、綾小路会長は再び彰と目を合わせる。
釣り合わないのは承知の上だけれど、そんな露骨に「誰だこいつ」みたいな目で見なくてもいいのに。
沙紀がスッと腕から手を抜こうとすると、彰に捕まれ抜くことができなかった。
「……誰? 私という婚約者がいるのに」
キッと睨んでくる女性に沙紀は戸惑う。
「それはお断りしたはずです」
もしかして政略結婚の相手ってこの美人さん?
嘘でしょ、私なんかより絶対こっちでしょ。
「いいのかね? おたくの業績はあまり良くないはずだが。うちの娘と結婚すれば援助は惜しまないといったはずだが?」
再び舐めるような目で沙紀を見る綾小路会長に彰は眉間にシワを寄せた。
「弊社は業務改善を進めています。1年後には回復するでしょう」
心配無用だと言いながら、彰は二人が降りたばかりのエレベータに沙紀を連れて乗り込んだ。
「恋人と一緒ですので失礼します」
「西園寺様、ご来店ありがとうございました」
黒服店員がお辞儀をして見送ってくれる。
鬼のような形相で睨んでくる美人さんと、おもしろくなさそうな顔の中年男性が怖かった沙紀は、エレベータの階数ボタンに目を向けた。
下に動き出すエレベーターにこんなにホッとしたのは初めてだ。
「……悪かったな」
あいつらの視線が失礼だったと謝罪してくれる彰に沙紀は首を横に振った。
#独占欲
#ワンナイトラブ
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