テラーノベル
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#独占欲
#ワンナイトラブ
地下まで降りると冬木さんが車の扉を開けて待っている。
降りてくるってどうしてわかったの?
車の中で再び肩を抱かれているけれど、車の中も演技が必要なの?
「冬木、タイミングは完璧だった」
「タイミングは、ということは何か他に不手際でも?」
「あいつらの態度が最悪だった」
チッと舌打ちする彰の様子を車のルームミラーを見た冬木は「そんなの今更でしょう」と笑った。
「沙紀さん、事前に説明もなかったので驚いたでしょう?」
「あ、はい。今日一日大混乱です」
「ですよね」
すみませんと冬木は運転をしながら沙紀に謝罪する。
「あの、さっきの方が政略結婚のお相手ですか? でもお断りしたって……」
断ったのなら私は必要ないのでは? と沙紀は素朴な疑問を彰に投げかけた。
「さっきの男は綾小路商事の会長だ」
「綾小路商事って……」
貿易も開発生産も物流も、なんだかいろいろやっている大企業だ。
子会社もたくさんあって、最近はエネルギー関係に力を入れているとテレビで見た気がする。
「実はうちの会社の業績はあまりよくない」
知っていたか? と聞かれた沙紀は正直に首を横に振った。
「先代と付き合いがあった取引先がだんだんあの綾小路に奪われていてな」
代替わりすると付き合いもなくなることが多いが、綾小路のせいで露骨だと彰は苦笑する。
「CEOに就任されてから急に会議や異動が増えたのは……」
「まずみんながどんな仕事をしているのか知りたかった。そして適材適所へ振り分けしている最中だ」
早く立て直したくて多くの会議を入れたが、社員たちが恐れるようになってしまい、あまり良くなかったと彰は髪をかき上げながら溜息をついた。
あの会議は私たちのためだったの?
左遷させられるとみんなで怯えて、報告資料を作る時間が増えて残業がイヤだなとか、不満しかなかった。
そういえば同期の吉田くんが開発していた商品、お客さんが急にいらないと言い出したって慌ててたっけ。
数を減らされて採算が取れなくなったとか聞いた気がする。
「綾小路会長のお孫さん、麗香さんと結婚すれば、うちの会社を吸収合併してやると言われているんですよ」
運転しながら馬鹿にしていますよねと肩をすくめる冬木に、彰も頷いた。
「もし合併したら私たちはどうなりますか?」
「当然、今いる社員たちはリストラされるだろうな」
吸収合併だから対等ではなく、一方的に取り込まれるってこと?
管理部門は綾小路商事の人がいるから、わざわざこちらの人を残す必要もなくて、うちの人気商品だけ残してあとはやめてしまえばいいんだ。
優秀なエンジニアだけ残して、あとはリストラ。
支援なんて言っていたけれど、ただの脅し……!
思っていた以上にこの恋人演技が重大な役割だった!
「少し嫌な思いをさせるかもしれないが、恋人をやめるなんて言わないでくれよ」
沙紀の髪をひと掬いしながら懇願する彰に、沙紀は固まった。
車はマンションの駐車場につき、エレベーターで部屋へ。
そうだ! いろいろあって忘れていたけれど、今日はここに泊まるんだった!
「着替えて早く寝ろ」
「明日は8時に来ます」
カバンと服を渡された沙紀は、ようやく駐車場からずっと冬木に持たせていたことに気がついた。
「荷物! ごめんなさい!」
「沙紀さん、気にしないでください。アキ、ワインはいつものように?」
「あぁ」
お店の袋からワインを1箱取り出した冬木は、キッチンの方へ。
「彰様、今日はいろいろとありがとうございました」
「連れまわして悪かったな。ゆっくり休め」
「夢のような体験でした」
「……『ごほうび時間』になったか?」
「はい! ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をした沙紀はホテルのような豪華な部屋へ。
夜景もスゴイし、部屋の中も充実している。
こんなすごい部屋、緊張して眠れないと思ったはずなのに、ふかふかベッドに横になった瞬間、沙紀の記憶はなくなった。
翌朝、スマホのアラームで目が覚めた沙紀は着信履歴に目を見開いた。
着信15回、メッセージ38件。
全部、大輝からだ。
『どこにいるの?』
『なんで帰ってこないの?』
『外泊?』
『誰と一緒?』
もう別れたのに、一体なんなの?
付き合っているときだって、こんなにメッセージをくれたことはなかったのに。
沙紀は朝からドッと疲れてしまった。
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