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カテリナです。面倒事に巻き込まれてしまいましたが、シャーリィの尻拭い程度なら安いものです。首を突っ込んだ以上は火の粉が降り掛かる前に備えなければなりません。備えあれば憂いなし、それを考えた東方の蛮族は賢いですね。
ダグラス院長から事情を聴いた翌日、私はシャーリィに留守を任せシェルドハーフェンの大衆酒場ラッキーロウへと来ました。
「いらっしゃい」
無愛想なマスターが経営するこの場所は、シェルドハーフェンに巣食うゴミ共の溜まり場でもあります。もちろん、それ故に情報も多く手に入る。隅のテーブル席に座った私は、出された水を飲みつつ相手を待ちます。
しばらくすると、私の隣に痩せこけた、見るからに荒事が不得意そうな茶髪の男性が座りました。
「姐さん直々のお呼び出したぁ驚きましたぜ。何を知りたいんで?」
こいつは所謂情報屋のラメル。見た目は貧相ですが、暗黒街でそれなりに名の知れた男です。
「国立孤児院にちょっかいを出している相手を知りたいのです」
「彼処にちょっかいを?そいつぁ、まだ街に馴染んでないルーキーの仕業だな。簡単な仕事だ。銀貨二枚頂ければ、すぐに調べられますぜ」
「では銀貨三枚出します。その代わり出来るだけ早く正確に情報を知りたい。頼めますか」
「分かりやした、情報屋として必ず」
私から銀貨を受け取った彼は、離れていきました。余計な詮索はしない、長生きの秘訣です。
酒場を後にした私は、次にとある工房を訪ねます。そこは店内は薄暗く、数多の機械類がごちゃごちゃとして足の踏み場もありません。
「久しぶりだな、シスター。最近見かけないから、くたばったのかと思ってたよ」
私に声をかけてきたのは、私の半分程度の身長に髭面の男性。所謂ドワーフと呼ばれる種族の男、ドルマンです。本来剣等の武器を崇拝するドワーフ族の中で銃火器に魅せられた異端者。里を追われてここシェルドハーフェンに流れ着き工房を開いたとか。
まあ、過去なんて些細なことです。重要なのは、この男はマーサのターラン商会より良質な武器を取り扱うこと。大抵の武器はターラン商会で手に入りますが、私個人は武器に関してはドルマンから仕入れています。つまり常連客ですね。
「ちょっと子育てに必死でして、荒事から遠ざかっていました」
「柄にもねぇこと言うじゃねぇか」
「ええ、全くです。腕は鈍っていませんね?」
「当たり前だ。で、何が入り用なんだ?」
「リボルバー用の弾丸六十発、手榴弾を十発。あと、近接の地雷があればそれも」
「何だ、戦争でもしようってか?軍にでも手を出したか」
「相手の規模が分かりませんからね、予備は幾らでも欲しいところです。他に、お勧めはありませんか?」
「相手は大勢なのか?」
「多分」
「なら、ライデン社の試作品があるぜ。どうやって手に入れたか何て聴くなよ」
「当たり前です」
そう言うと、ドルマンは店の奥に引っ込みます。
ライデン社は二十年前に突如として現れた企業です。それまでマスケット銃が良いところだった軍の装備を一気に近代化させる要因を作ったことで有名となり、今では帝国最大の軍需産業となりました。
噂では、全ての設計図を一人が書いているとかいないとか。まあ、高い品質が売りですね。
「待たせたな、こいつなんだが」
戻ってきたドルマンがテーブルに銃を置きました。ふむ、ライフルより小さいですが。
「こいつは、次世代の銃、軽機関銃だったか、サブマシンガンとか呼んでたかな。持ち運べる機関銃だとよ。名前は、MP40とか言ってたかな」
「ほう、持ち運べる機関銃ですか。それは魅力的ですね」
私はMP40と呼ばれたサブマシンガンを持ち上げてみると、確かに軽い。こんなものを作るなんて、ライデン社はまた技術革新でも起こすつもりなのか。
「マガジンは32発入り、毎分五百発。射程は…まあ、確実にやるなら100でやると良い。どうだ?」
「ふむ、取り回しも良さそうですね。で、値段は?高いと買えませんよ」
「先方からは試作品のテストとして回されたんだ。タダで良い。使い心地を教えてくれればな」
「気前の良いこと。実戦データが欲しいのでしょう。ここは毎日ドンパチしていますからね」
「その辺りは知らんよ、迂闊に聴くつもりもねぇしな」
「そして私は使える装備をタダで貰える。皆が幸せになれますね」
「誰だか知らないが、アンタに銃口を向けられる奴以外はな。ほら、予備のマガジンと注文の品だ。銀貨四枚でどうだ?」
帝国では銅貨一枚が平均的な一日の生活費、銀貨一枚が高給取りの一月の給料、金貨一枚は庶民にとって一年の稼ぎに相当します。
「良いでしょう。では、また来ます」
「感想忘れんなよ。後壊すなよ、頼むから」
「善処します」
品を受け取り、私は工房を後にしました。後は、情報が手に入るのを待つだけ。マーサにも話を……いや、やめておきますか。余計な借りは身を滅ぼします。新参者程度、私だけでやらねば笑われてしまいますからね。この街で長生きしたいなら舐められちゃいけませんから。
どうも、シャーリィです。ここ数日シスターが教会を空けることが多くなりました。もちろん私は良い娘なのでお留守番に徹します。それに、最近は退屈ではないので。
「聴いてる?シャーリィ」
「もちろん聞いていますよ、ルミ。ですが、議論の余地はありませんね。孤児院の皆さんが大変可愛らしい点には同意しますが、レイミの可愛らしさと比べれば人と家。いや、蚤と山並みの差があるのは明白です。議論は無意味でしょう」
「そこまで言うか。なんか逆に感心しちゃうよ」
おっと、意図せず私はルミを感心させてしまったようです。さすが私。
「どや顔決めない」
そう、再会以来暇を見てはルミが遊びに来てくれます。レイミの可愛らしさを理解しない点は些か不満ですが、本人がいない以上理解に限界があるのも事実。それ以外は文句ありません。
明るくて面倒見が良いルミは、まさしく私の正反対と言えます。仲良くなれたのが奇跡です。
「時にルミ。そのケープコートは?いつも身に付けていますが」
初対面の時はありませんでしたが、再会してからと言うものルミはいつも真っ白なケープコートを身に付けています。身体をすっぽり覆うタイプの。暑くないのかな。
「ああ、これ?良いでしょう~?私の手作りなんだ」
「ほう、手作りですか。私も裁縫を嗜みますが、修繕や小物程度です。羨ましい」
「むしろシャーリィが裁縫するのが意外なんだけど。今度作ってあげるね」
「それは嬉しいですね」
プレゼントされるみたいです。お返しを考えなければ。何が良いかな、昆虫とか?百足さんをプレゼントしましょう。あの黒い悪魔を駆除してくれる益虫なので、喜んでくれるはずです。
暗黒街に来て半年、静かに近付く不穏を感じながらも、私はルミとの交流を深めるのでした。何があっても動じないように備えながら。