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カテリナです。あれから二日後、ラメルから連絡があり私は再び酒場ラッキーロウを訪れています。
「それで、首尾は?」
「簡単でしたぜ。連中は一年前にシェルドハーフェン入り。半年前から活動を開始、よりによって孤児院に手を出した。で、姐さんの可愛い娘に手を出しちまった。」
「そこまで調べましたか。連中の名前は?」
「黄昏の蜥蜴と名乗ってます。帝都で人身売買を専門にやっていたチンピラですなぁ。正直、姐さんが直接殺る価値もありませんぜ?」
「無視は出来ません。人身売買をやっていたなら狙いは孤児院の子供達。放置すれば孤児院は襲われ、シャーリィの身にも危険が迫ります。早目に駆除したい」
黄昏の蜥蜴、聞いたこともない。ルーキーなのは間違いありませんが、人身売買を生業にしているなら遠慮する必要はありませんね。ハナから遠慮するつもりもありませんが。
「連中の数は?」
「二十程度ですかな。どれもチンピラの素人集団、武装は銃と刀剣が半分ずつ。抗争なんか経験したことがないらしい。弱い奴にイキるだけの奴らさ」
「弱いもの苛めが悪いこととは言いませんが、この街で同じように出来ると考える時点で終わりです。動きは?」
「数日のうちに、孤児院へ乗り込みそうだ。誘拐に失敗しやしたからね。手下を集めて、相談してるのを見掛けましたぜ」
「誘拐に失敗したらすぐに強行手段ですか。そもそもやり口が杜撰で強引過ぎます。私は事が終わるまで孤児院に滞在します。奴等に動きがあれば教えてください。」
「へい、姐さん。あんまりやり過ぎないでくださいよ。他の連中に目をつけられますぜ」
「新参者を殺るだけです。他の勢力を刺激することはありませんよ。一応、マーサにも話をしてありますから」
「ターラン商会の後ろ楯があるなら安心だ。彼処と揉めたら買い物が出来ねぇ。ご武運を、姐さん」
私はラメルに追加で銀貨一枚を渡し、酒場を後にして教会へと戻るため歩き始めます。これから数日忙しくなりますね。
「今夜から孤児院でお泊まりですよ。準備しなさい」
シャーリィです、皆さんお元気ですか?今朝教会を出たシスターは、お昼に戻ってくるとお泊まりの準備をするように言いました。唐突ではありますが、私が招いた厄介事絡みであるのは間違いありません。
「シスター、ご迷惑をお掛けします」
「貴女を拾ったあの日から厄介事は覚悟の上ですよ」
だそうです。なら思う存分迷惑を掛けられますね。
「何やら不穏なことを考えていませんか?」
「まさか、敬愛するシスターに感謝しているだけです」
読心術でもお持ちなのでしょうか。魔法使いみたいな事が出来るとは。
気を付けないといけませんね。
「戸締まりは確実に。それと貴女は持てるだけの保存食を。状況次第では長丁場になります」
「何が起きようとしているのか聞いても?」
「貴女に恥をかかされた連中が、強行手段に出る兆候があります。孤児院そのものにお金はありませんが、孤児は人身売買で使えます。特に幼い女の子何かは糞な連中に需要がありますから、高値で売買されます。しかも孤児なら面倒もない」
「つまり、ルミ達が売られる危険があると。私のせいですね」
「いいえ、調べた限りでは遅かれ早かれです。貴女が予定を狂わせただけですよ。奴らの目的は最初から子供です。黄昏の蜥蜴と名乗る連中は、人身売買にも手を出しているのだとか」
「卑劣極まりありませんね。シスター、何かお手伝いをさせてください」
「今は自分の身を護るように。以前渡したナイフはありますね?」
「もちろんです」
手入れは欠かしていません。ナイフは初めてですが、短剣みたいな感覚で扱えると思います。意外と手に馴染むんですよね。
「いざとなったら、それで自分と友達を護りなさい。躊躇はしないように」
「はい、シスター」
躊躇などしませんよ。私の目的は復讐。この手を汚さない事には成し遂げられませんから。
それから一時間、私はシスターの指示に従い荷物を用意しました。明らかに二人分を越える大量の食料を詰め込んだたくさんの荷物は、とても二人で運べるような量ではありません。
まさか何往復もするのかと戦慄していたら、シスターがキューベルワーゲンと呼ばれる自動車を用意してくれました。
「軍の横流し品です。マーサから借りてきました」
自動車は帝都にもあったので見慣れたものでしたから、あまり驚きません。横流し品を手に入れたマーサさんには驚きましたけど。
私達は荷物を自動車に積み込み、孤児院へと向かいました。
「シャーリィ、来てくれたんだ!」
「ええ、遊びに来ましたよ、ルミ」
孤児院ではルミが出迎えてくれ、子供達と一緒に荷物を下ろして孤児院へ運び込みます。その間シスターはダグラス院長とお話をしています。
「シスター、まさかこの食べ物は」
「しばらく外出は禁止です、院長。厄介事が納まるまで、私に従って貰いますよ」
「もちろんです。私には荒事に対する心得はありませんから。貴女には心からの感謝を。何もお返しできないのが悔やまれます」
「いつか、貴方経由で便宜を図る必要が来た時に手を貸してくれればそれで十分です」
「もちろんです。役人には知り合いも大勢居ますから、その時はお手伝いできると思います」
「結構。さて、貴方を含め子供達が身を隠せるような場所はありますか?有事の際はそこに居て貰いたいのですが」
「地下倉庫があります。ドアを補強して水や食料があれば数日は立て籠れるかもしれません」
「では、その時はそちらに。私が諸々を片付けますから」
「失礼ですが、シスター。まさかお一人で?」
「新参者風情に遅れは取りません。まあ、万が一の保険はありますからご安心を」
「分かりました。何から何まで、本当にありがとうございます」
大人達が難しい話をしている間、私達はワイワイと賑やかに荷物運びに勤しみます。まあ、不謹慎ではありますが友人の家にお泊まりです。気分が高揚しますよ。
シャーリィ=アーキハクト九歳夏の日、私はシェルドハーフェンに来て最初の抗争を迎えようとしていました。