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第1話「おかえり、って言いたかっただけ。」
夕方6時すぎ。リビングの明かりだけがぽつんとついてる。
玄関のドアがガチャって開く音と一緒に、蓮の声が届いた。
「ただいまー……って、え?」
リビングのドアの前。
制服のままで立ってたのは、14歳の弟・仁(じん)。
手にはまだ読みかけの文庫本を持ったまま、こっちを見上げてきた。
「……おかえり、蓮。」
「塾、今日は?」
「なかった。早く帰れたから……
蓮に“おかえり”言いたかっただけ。」
そう言って、仁はゆっくり笑った。
その笑顔がずるいくらいかわいくて、蓮は思わず口元をゆるめる。
「……そっか。ありがと。」
蓮は靴を脱いで、ふわっと仁の髪を撫でた。
まだちょっとだけ濡れてて、シャンプーの甘い匂いがする。
「シャワー、もう入った?」
「うん。蓮、今日は疲れてる?」
「ちょっとだけ。」
「……じゃあ、ぎゅーしてあげよっか。」
そう言って腕を広げてくるから、
蓮はこらえきれずに、ぐっと抱きしめた。
仁の小さな体が、自分の胸にぴたりとくっついてくる。
制服越しでも分かる体温。細い肩。柔らかい声。
「おかえりって……言いたかっただけなのに、ぎゅーしてもらえちゃった。」
「もー、ずるいよ仁。かわいすぎん?」
「じゃあ、責任とって。もっとぎゅーして?」
蓮は笑って、仁の髪にそっとキスを落とした。
「……ほんま、お前に甘やかされるの、クセになるわ。」