2階の観客席へと向かいながら、試合に出られないのは悔しいけど大好きなスターを久しぶりにこっちから見られるしコート外からしか分からないこともあるだろうとポジティブに考えようとしていた。
観客席に着くとそこに居たのは偵察に来ていた音駒の2人。黒尾さんと孤爪だった。
「赤葦?お前ってスタメンじゃ…」
「その怪我どうしたの?」
2人はすぐに俺の怪我に気づいてとても心配してくれていた。
「えっと…」
話していたら悔しくてまた涙が出てきた。
泣きながらで上手く話せない俺を2人はゆっくりでいいよと言って最後まで聞いてくれた。
「…まじかよ 一歩間違えたら大怪我だぞ! ?」
「とにかく無事で良かった。 手首今はどんな感じ?」
「冷やしてはいるけどまだ痛いかな…試合終わったらすぐに病院行けって監督に言われてて」
おれも行くと孤爪が言うと黒尾さんも「木兎は試合の後反省会で着いてけないだろうし俺らが着いてくよ」
と言ってくれた。
試合が始まった。
ここから見て少しでもこれからに活かせるようにしないとと思いノートを広げて試合を観戦した。
違和感を感じたのは試合が始まって数分が経った頃。
チャンスボールがセッターの元へ綺麗に届いた。相手の位置やスパイカーの状態からして俺なら確実に木兎さんにトスを上げるであろう場面。
しかしトスが上がったのは3年のスパイカーだった。自分に来ると思っていなかったのかいまいち跳べておらずそのスパイクは相手に拾われてしまった。
「なぁ さっきから木兎に全然トス上がってなくね?」
黒尾さんも違和感に気づいたようだ。
「さっきの場面周りの状況から俺なら絶対木兎さんに上げました。準備万端だった木兎さんのスパイクだったら相手も拾いきれてなかったと思います…」
「おれもそうすると思うよ」
俺以外のセッターから見てもやはりさっきの場面は少しおかしかったようだ。
木兎さんは体力もあるし後半に温存しとく必要もないし大事なところでミスる様な人ではない。
じゃあなぜ木兎さんにトスが上がらないのか…もしかして…
“俺のせい”?
俺が先輩に目をつけられてるから?木兎さんが俺と付き合ってるから?
今はそんなこと考える必要ないな…試合に集中しないと。
その後も木兎さんに上がるトスの回数は極端に少なかった。
1セット目は勝ったが2セット目は1点差で相手に取られてしまった。
「梟谷って強豪校だろ?なんか大したことなくね?」
近くにいた他校の選手がそういったのが聞こえてきた。
「去年は凄かったよな!木兎だっけ?」
「木兎ってあれだろ?今日だって出てるのにな。噂の不調モードなんじゃねーの?」
他校の選手らは木兎さんを不調だと思っているようだが俺が見る限り今の木兎さんならどんなボールでも打ち切る。
むしろボールにもっと触りたくてソワソワしてる。
相手のレシーブ力はそこそこでブロックの高さもそんなに高くない。
2セット目木兎さんにもっとトスが上がっていたらストレート勝ちも不可能ではなかった。
それに木兎さんに上がる回数が少ないから活躍してないように見えるだけで木兎さんに上がったボールはきちんと相手コートに入って得点へと繋がっている。
3セット目。
木兎さんにトスが上がらない分ボールが多く回ってくる3年生達は既に足が重そうだ。
ミスも増えさすがにやばいと思ったのか先輩は木兎さんにトスを出すようになった。
その後からは木兎さんの得点によりかなりの点差をつけての勝利となった。
「試合も終わった事だし病院行くぞ赤葦。」
「木兎さんたちに挨拶だけしてから行きます。」
黒尾さんと孤爪は外で待ってるとのことで俺は荷物をまとめて下に降りた。
「木兎さん。お疲れ様でした。」
まだ試合の興奮冷めやらぬ木兎さんにタオルを差し出した。
「おぉ!赤葦!サンキュー!!」
「俺今から病院行ってくるので…」
心配だから俺も着いてくとごねる木兎さんを説得して会場を後にした。
名前を呼ばれて診察室に入る。
付き添いも入って大丈夫言われたので2人にも着いてきてもらった。
そこで言い渡されたのは
「早くて全治2ヶ月ってとこかな…」
「え?」
俺より先に声を出したのは黒尾さんだった。
「そんなに酷いんですか?」
黒尾さんの質問に先生はレントゲン写真をパソコンに出して説明してくれた。
「骨にヒビが入ってるのである程度落ち着くのに1ヶ月以上かかるね。完全に治るのに2ヶ月はかかると思うよ。」
そんな…全治2ヶ月?その間試合はおろか練習も出来ないなんて…
「あの、バレーできるようになるにも2ヶ月くらいかかりますか?」
ここの病院の先生はバレー経験者で昔から怪我をするたびにバレーしても大丈夫か聞くとこの練習まではいいけどこれはやめといてなど細かく教えてくれた。
今までは大した怪我をしてなかったから先生は笑って「無理のない程度にね」と言ってくれていたのだが今回はそんな様子ではなかった。
「今はなんとも言えないけど…京治くんはセッターだったよね。治りが早ければ1か月後にトスあげるくらいなら大丈夫かもしれないけど試合形式でできるのはやっぱり2ヶ月くらいかかるんじゃないかな」
「そうですか…..」
「赤葦、大丈夫?」
孤爪が心配そうに覗き込んできた。
2人には沢山迷惑を掛けてきたからこれ以上心配をかけたくないな…
「大丈夫だよ。思ったより酷くてびっくりはしたけど春高までにはきっと間に合うし」
春高までには…自分で言って悲しくなってきた。
今年のインターハイには出られないんだ。
気を抜くとまた泣いてしまいそうなのでとりあえず1人になりたい。
「2人ともありがとうございました。音駒もインターハイ頑張ってくださいね。」
そう言って家まで小走りで帰った。
次の日の朝、木兎さんは家まで迎えに来てくれた。
って言うか俺怪我してるから朝の自主練出来ないんだけど…
「赤葦、昨日病院行ったんだよね?どうだった?」
「…….」
「赤葦?」
嘘をついて練習に参加できる程怪我の状態は良くなかった。そもそも黒尾さん経由で伝わる可能性も高いし、嘘なんてつくつもりはない。
「骨にヒビ入ってて全治2ヶ月だそうです。」
「2ヶ月…」
「はい。」
木兎さんは険しい顔をしていたが俺の方を見て
「ちゃんとアンセーにしてさっさと治せよ!」
と言って笑いかけてきた。
はぁ…学校ついたら怪我を早く治す方法調べてみようかな…
……To be continued
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