コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ぐい、と髪を引っ掴まれ、耳元で囁かれた。「こうなったら保険をかけているから、うまく死んで詫びろ」
かつて愛して結婚までした夫からゴミのように床に放り投げられ、去って行く彼の音の足音を泣きながら聞くしかできなかった。和子も虐げられていた側の人間だったはずなのに、夫と同じように弱い人間をいたぶる側の人間に成り下がっていたのだ。そのことに気がついても、もう遅い。
そのままの恰好で泣いていると、誰かが入ってきた。和子が顔を上げると、愛しい息子の姿が目に入った。
「み、幹雄ちゃん…」
夫と入れ替わりにやって来た幹雄に手を差し伸べた。「お母さんを助けてちょうだい…」
「は? こんなことしでかしておいて、今さら僕にどうしろっていうんだ? 松本家が潰れたらお前のせいだぞ!」
ゴツッ
倒れたまま身体を起こそうとしていた和子の頭部が思い切り踏みつけられ、そのまま床に額を強打した。
「う…ううっ……」
「キモいんだよババア。親父の言う通り、財産残すために死んで詫びろよ」
産まれた時から大事に大事に育ててきた愛する息子から投げかけられた最後の言葉は、夫と全く同じ言葉だった。和子は狂ったように泣き叫んだ。松本家の終焉の幕開けだった。
その日の夜のこと。松本家の社会的影響は予想以上に大きいものとなった。
和子の行動は、SNSのニュースで大きく取り上げられ、松本和子の名は一気に全国に広まった。特に若者を中心に彼女の行動が非難され、ハッシュタグ「#ババショタ」がトレンド入りしたのだ。
「#ババショタ」というワードに興味を持ったものが、どんどんこの事件を拡散していく。多くの人々が関心を寄せ、思い思いにこの事件についてコメントを寄せた。SNSには数えきれないほどの投稿が溢れ、和子の行動に対する怒りと失望の声が広がった。
「こんな人がまだいるなんて信じられない」
「野島さん、あなたの勇気に感謝します」
「負けないでください」
「松本和子の行為は絶対に許せない」
「もう松本会計は使いませーん」
「松本会計の不買運動やろう」
「セクハラババアは断罪」
特にセクシャルハラスメントに対する意識が高まっている現代社会において、和子の行動は到底容認できるものではなかった。
それからは世間のニュースが和子の話題で彩った。番組でも連日この事件が取り上げられ、ワイドショーのコメンテーターたちはこぞって和子の行為を非難した。
「これは権力の乱用であり、絶対に許されるべきではない」
「被害者が声を上げたことに大きな意味がある」
「よくやってくれました」
と、隆也の勇気ある行動を称賛する声が多く聞かれた。
松本家は和子が勝手にやったことで世間に詫びて回っていたが、その努力も空しく、松本家の信頼は一気に地に落ちた。和子の行動は一家全体の信用を失墜させたのだ。
これで野島隆也の尊厳を脅かす人間は排除された。
今回の件は、隆也の完全勝利で終わった。