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【1年後】
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ジュンは夜中の3時に総合病院の分娩室の前で、行ったり来たりしていた
ここまで連絡を受けて10分で到着した、病院までは気が焦ってパトカーを歩道に乗り上げんばかりの勢いで、車を走らせてきた
予定より一週間も早い、育休のために取っていた有給はまだ4日先だ、こんなことになると分かっていたなら今夜彼女を一人にはしなかった、彼女はジュンが夜勤に向かった後に陣痛が来て、一人でタクシーでここまで来たのだ、荷物を持って!なんてことだ!!
廊下の向こうからユリアの担当の中堅の医師が眠そうな目をこすりながらやってきた、ジュンは産婦人科医につめよった
「先生!!本当のことを言って下さい!もう心の準備は出来ている!!」
産婦人科医の胸ぐらをつかみ、真剣な顏で顔と顏を突き合わせる
「彼女はどこか悪いんですね?」
「いたって順調ですが?」
ユリアの出産に立ち会ってるというのに、この医者がまったく平然としてる顔が気に食わない、ジュンは彼の両肩を掴んで揺さぶった
「うそだっっ!!あんなに痛がってるじゃないかっ!!そうだ!!血だ!!どうか僕の血をいくらでも取ってくれ!!そして彼女に輸血を!!」
「必要な時はそうしますからっっ!」
分娩室の入り口でジュンと医者がもみ合っている、ジュンの叫ぶ声が聞こえる、分娩台に乗っているユリアの隣で恰幅の良い看護婦長が顏をしかめて言った
「今度騒いだら、ご主人分娩室から追い出しますからね!」
顔を真っ赤にしてフーフー言いながら、額から脂汗を流すユリアが眉間に皺を寄せ、一点を見つめて言った
「ぜひそうしてちょうだい!」
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ユリアが病院に到着した時には子宮口はまだ5㎝だった、しかしその後は驚くべき速さで全開大になろうとしている、痛みは初めはさほどひどくはなかったが、決して楽しい経験というわけにはいかなかった
痛みが走る感覚がだんだんと狭まっている・・・今はもうひっきりなしと言ってもよかった
「旦那さん騒いでいないで、奥さんを励ましてあげて!」
看護師に言われて半泣きのジュンがユリアの傍らにきた
「君は素晴らしくて美しくて聡明で・・・ああっっ!何より料理が天才的に上手くて、僕は5キロも太ってしまった、これからも僕の傍にいてくれユリアッ!頑張ってくれ!君なしでは生きていけない!!どうか死なないで、君は空に輝く星のように―」
「うるさいっ!!ジュン!!」
ユリアの一喝でジュンはシクシク泣きだした、ユリアが臨月に近づくにつれ、ジュンは日増しにひどく脅え出し、ここ2~3日は手がつけられない錯乱状態で、とにかく何もするな、寝ていろと、うるさくユリアにつきまとった
まったく心配性も度を過ぎるとウザくて仕方がない
ハァ・・・ハァ・・・
「私は死んだりしないわ・・・子供は毎日産まれているのよああっっ!!来たわ!!」
婦長が言った
「子宮口全開っっ!!いよいよご対面よ!」
産婦人科医もマスクと手袋を付け、分娩台と向き合う位置に移った
「さぁ!次の痛みで思いっきり意気んでっっ!!」
ユリアの苦しみのうめき声が響く、ジュンは全身毛穴が開き、髪の毛がすべて逆立つのではないかと思った、緊張は極限状態だ突然ジュンの顔面が蒼白になった、ひざから力が抜けていく
ふらぁ~~・・・「あ・・・ダメだ」
ガシャーンッッ!!「キャー―――ッッ!!ご主人が倒れたわっっ!」
「どうするのっ?こんな大きい人っっ!」
看護師達が叫んでいるのをよそに、次の瞬間分娩室に赤ん坊の大きな泣き声が響いた
産婦人科医がマスクを外し満面の笑顔をたたえて言った
「おめでとう!女の子ですよ!!」
ユリアは感激の涙を流した、卒倒しているジュンをよそに
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こんなに美しい子は見たことがない・・・
ジュンは気絶から目覚めた後、今は可愛らしい自分の子供を胸に抱いていた、落とさないように不思議と腕にヘンな力が入る、ピンク色のおくるみに包まれ、スヤスヤと眠っている我が子は輝いて見える
自然に涙が溢れる・・・今この瞬間からジュンはこの子の保護者に後継人に・この子を守る騎士になった・命がけでこの子を守る!何が何でも
「もうっ・・・泣かないでうざいわねぇ」
小さくユリアが笑う
「だって」
一仕事を終えた彼女は汗に髪の毛を濡らし、ピンク色の頬がとても美しかった、柔らかな笑顔を称えてジュンと我が子を見つめている
「ねぇ」
「うん?」
ユリアがにっこり微笑んでジュンに言った
「この子が生まれる前に私に叫んでたこと・・・もう一回言って?」
ジュンはしばらく考えた、腕の中で赤ん坊が小さくあくびをした、二人の顔が輝いた
「ええ~と?君は美しくて聡明で君なしでは生きていけないだったかな?」
照れもせずに言う、だって本当にそう思ってるのだからしかたがない、そして今この瞬間からこの子も加わった、ユリアがニッコリしてジュンにキスをした、我が子を落とさないようにジュンもユリアのキスに応える
「愛しているよ」
「ふふっ・・・私もよ」
二人のキスはだんだん熱をおびてきた、どこで何をしていてもユリアとキスをすると体が燃えあがる
きっと一生そうなのだろう、このぐらいにしておかなければ、ここは病院だ、額を付き合せてこの幸せをかみしめる、ユリアがニッコリ笑ってジュンに言った
「さっきの言葉、一生忘れないように書面にしておいてちょうだいね」
・:.。.・:.。.
・:.。.・:.。.
【完】