それからというもの、私はただただマフラーを編むことだけに勤しんだ。
なんてったって、彼の誕生日まであと二週間しかなかったのだから。
買うことも迷ったが、やっぱり自分で編みたくて、新しいふわふわとした青い毛糸を買って編んだ。
そして二週間後。
マフラーは無事完成した。
やっと一安心である。
寝る時間を少し削ったかいがあった。
その編んだマフラーは綺麗に包装し、今ではいかにもプレゼントという感じである。
あとは渡すだけ…、なのだが。
未だに緊張してしまっている自分がいるのだ。
まずいな、今年で四回目なのに。
私は火照る顔を手で扇ぐ。
大丈夫大丈夫。過去に三回も渡せているのだから、今年も渡せる。
そう自分に言い聞かせるが、やっぱり落ち着かない。
「お嬢様。ルウィルク様です」
「あっ。ええ、わかったわ。お通しして」
リエルの声に、つい飛び上がってしまった。
すると彼女は、少し困ったように眉尻を下げて笑いながら、顔を引っ込める。
代わりに彼が入って来た。相変わらずの無表情である。
私はうるさくなっていく心臓の音を必死に静めながら、彼に一礼をとった。
「ルウィルク様におかれましては、ご機嫌麗しく」
「ああ」
彼は無愛想に答える。
そのいつも通りの声に安堵した。
私は包装したマフラーを手に取り、彼に差し出す。
「あの……、お誕生日おめでとうございます」
すると彼は目を見開いた。
私は言葉を続ける。
「大したものではありませんが、受け取ってくださると嬉しいです」
彼は私が差し出したマフラーを受け取った。
「……ありがとう」
蚊の鳴くようなそれに、私は笑みを深めた。
「いいえ。こちらこそ、いつもありがとうございます」
私の言葉に、彼はまた少し目を見開き、ほんの少し笑う。
「開けていいか?」
「はい、どうぞ」
私は頷いた。
すると彼は包装を解き、中から出てきたマフラーを手に取る。
どうしよう。何だか恥ずかしくなってきた。
私は顔を少し赤くさせ俯く。
目を見開き固まっている彼は、私の方を見て、察したらしい。
「お前が編んだのか?」
彼の静かな声に、私は頷いた。
ああどうしよう。恥ずかしい。
すると彼は、ふっと口元を緩ませる。
「前から思ってたが、お前は器用だな」
その言葉に、私の顔はますます赤くなった。
「いえそんな。恐れ多いです」
私は首を振る。
それからしばしの沈黙が流れた。
え、どうしたのですか、ルウィルク様。いきなり黙らないでください。
すると彼は、マフラーを机に置く。
「リリアーナ」
彼の優しげな声に、思わず顔を上げた。
そして驚いた。
彼の美しいかんばせがすぐ近くにあったのである。
私は目を見開いて固まった。
そうしていると、彼の唇が私の唇に押し当てられる。
「…っ」
ふと我に返り、私は彼の胸を必死に押した。
が、やはりびくともしない。
「……んっ……ふ…」
何度も何度も角度を変えられ、私は声を漏らす。
息の限界に近づいてきて、私は彼の胸を叩いた。
しかし、彼の後頭部と腰を押さえる手の力が強まる。
「…んんっ……」
本当にもうだめだから、離してください!と彼に訴えたい。
が、口を塞がれていては、そんなこともできない。
……だめだ。息が苦しい。
と、やっと唇を離された。
「ぷはっ……はぁっ…はぁっ……」
彼は酸欠で膝から崩れ落ちそうになる私の身体を受け止め、ぎゅうっと痛いくらい抱きしめる。
息が苦しくなるほどに口づけられて彼を睨みたいのに、この温もりに安心してしまうのだから、彼は本当に……。
私は息を整え、赤くなった顔を彼から背けた。
「……あなたはずるいです」
すると彼は目を見開き、私を抱きしめる力を強める。
「……ずるいのはお前だろ」
「え?」
今度は私が目を見開き、唖然とした。
彼は言葉を続ける。
「そんなかわいいからいけないんだろうが」
本当に全く……、と彼は続けた。
その言葉に、私の顔は真っ赤になる。
そして、またしばらくの沈黙が流れた。
彼が口火を切る。
「リリアーナ」
「……はい」
私は未だに顔を赤くさせたまま返事した。
「愛してる」
それは、温かみを孕んだ、やわらかい声だった。
何よりも愛しげに、何よりも大切そうに。
私はゆっくりと目を見開き、彼の胸にさらに赤くなった顔をうずめる。
「私も、です」
ああ恥ずかしい。照れくさい。もうどうにでもなれ。
すると彼の手が私の頬に添えられ、強制的に顔を上げさせられた。
私は慌てて俯こうとしたが、彼の手がそれを許してくれなかった。
代わりに私は視線を逸らす。
彼にじっと見つめられ、私の顔は今にも湯気が出そうなほど熱くなった。
すると彼の顔が緩む。
そして、また口づけられた。
「……んんっ……」
その口づけもまたとても長く、私の息が苦しくなったのだった。
コメント
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いつもより長めな分、いつもより文章が下手ですが、そこは気にしないでください。