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それから少し経ち、私の誕生日が来た。
去年デビュタントを迎えた私は、今年から誕生日パーティーが開かれる。
私は鏡台の椅子に座り、リエルに髪の毛を結ってもらっていた。
今日のドレスは彼の瞳の色である。つまりは深海色。全体的に深い紺色で、肩を出し、胸元には青いリボン、そのリボンの中心部には宝石が埋め込まれていた。今年もかわいらしいドレスである。
「お嬢様。できましたよ」
「ありがとう」
私は後ろにいるリエルに微笑んだ。
今日は普段まとめている髪の毛は背に流し、横髪だけを後ろで一つに束ねている。いわゆるハーフアップという髪型だ。その横髪を束ねているのは、彼からもらった撫子色のリボン。髪型に関してはリエルに全てお任せしており、リボンをつけてほしいなどとは特に頼んでいなかったのだが、彼女が気を利かせてつけてくれたみたいだ。本当に頭が上がらない。
「さぁ、そろそろお時間ですよ。行きましょう」
リエルは私に手を差し伸べた。
「ええ。そうね」
私は頷き、彼女の手を取る。
そして歩き出した。
今日のエスコートは兄に頼んだ。なぜ彼に頼まなかったのかというと、私たちが恋人同士ということは世間に公表しておらず、彼がエスコートをすると、「誰だあの男は!?」と世間に騒がれるかもしれないからである。そうなると非常に面倒だ。それでも、リエルが少し気の毒である。
と、礼服に身を包んだ兄が待ってくれていた。
兄が私に気づく。そして、嬉しそうに微笑んだ。
「リリー」
「お待たせしました、お兄様」
私はリエルから手を離し、兄に歩み寄る。
「今日は一段ときれいだね」
「お兄様も素敵です」
そう、元々顔が整っている兄は、こんな服装を身にまとうと、一層その美貌が輝き、もっとかっこよくなるのだ。ため息をつきたいほどである。
兄は私に手を差し伸べる。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
私は微笑み、兄の手の上に自分の手を重ねた。
少し歩くと、会場の入場口につく。
ここを入った先には、招待客が大勢待っているのだ。
「緊張しているかい?」
兄は私のぎこちない動きに気づいたのか、そう問いかけてくる。
私は兄に微笑んで首を振った。
「いえ、大丈夫です」
「……本当に?」
兄は訝しげな目で私を見る。
私はその視線から逃れた。
「……本当は、少し」
すると兄は、くすりと笑う。
「肩の力を抜いて、深呼吸してごらん」
私は兄の言うとおりにした。
すると、緊張の糸が解け、少し楽になる。
私は兄に微笑んだ。
「ありがとうございます」
「それほどでもないよ。ほら、そろそろだ」
と、入場口の扉が開かれる。
「クライヴ・テイル・フィアディル公爵閣下とリリアーナ・テイル・フィアディル公爵令嬢がお見えです!」
使用人がそう言い、私たちは少し前に進んだ。
さっきまで緩んでいたはずの緊張は、再び私の背中を走る。
「皆様、今宵はお越しくださり、誠にありがとうございます」
兄がそう言い、私の方に視線を落とした。
その意味を私はわかってしまった。私も何か言えということなのだ。
今緊張でガチガチなのに、どうしてそんなことができようか。そもそも何を言えばいいんだ。
と、兄が私の手を優しく握る。まるで、大丈夫だと励ますように。
……もう。仕方ないな。
私は大衆に微笑んだ。
「今夜はどうぞ、存分にお楽しみくださいませ」
すると拍手が起こる。
それでいいらしかった。
私はほっと胸をなで下ろす。
ふと兄の方を見ると、兄は優しく微笑んでいた。
その笑顔に私は安堵する。
そして、私と兄は大衆に向けて深く一礼した。