考えても答えは出ず、言葉に詰まっていると・・・。
「この人・・・。多分あなたたち二人が自分たちのようになるのを心配しているのよ」
するとREIKA社長が話を聞いてそう答える。
「え・・・? 母さんたちとオレたちが同じってこと?」
「ええ・・・。あの時の私のようにきっとこの人は恐れているのよ。私が結局夢を諦められずに仕事を選んでしまったから・・・」
REIKA社長が少し切なそうに静かに呟いた。
「いや・・。それは私が君たち家族を守り切れなかったからだ・・」
だけどREIKA社長の言葉をすぐにフォローするように言葉をかける社長。
「いいえ。あなたは十分私たちを守ってくださいました。あなたが会社に全力を注いでいたのを見て、私も同じように自分の想いを、夢を、また叶えたくなった。全部私の我儘です。ただあなたは私のそんな想いを信じて力を貸してくださった。感謝してます」
やっぱり社長はREIKA社長の想いを叶えてあげたんだ。
そしてREIKA社長とも、ちゃんとその気持ちを分かり合ってる。
そして社長が心配しているのは・・・。
「樹。お前たちは私たちのようにはなってほしくない。一度幸せにすると誓ったのなら最後までお前は守りきってほしい」
「わかってる。オレは絶対一生彼女を守りきる。ずっとオレが幸せにする」
社長の言葉に、躊躇なく即答する樹。
「そう思いながらも私と母さんは一緒にいる幸せを選ぶことが出来なかった」
「それは・・あなたが夢を諦められなかった私を自由にする道を作ってくれたから・・・」
きっと社長は、家族として一緒にいる幸せではなく、大切な人だからこそ、その人が夢を叶える幸せを選んだのかもしれない。
「本当は母さんが夢を追いかけて輝いている姿が好きだったはずなのに、いつの間にか私自身がその輝きも笑顔も奪ってしまってた。だから私はそれを守る為に母さんと離れる決意をした。一番大切な人が一番美しく輝いて幸せでいてほしかったからだ」
社長のその言葉でどれだけREIKA社長が、今も昔も大切な存在なのかが伝わって来る。
「どれだけ好きでも一緒にいない幸せや離れていても守れる幸せもある。私は母さんとはその幸せを選んだ。しかし、樹・・お前にそれをずっと伝えられなかったことで、お前自身を苦しめてしまった」
社長のその言葉を伝えている表情は、REIKA社長への想いと樹への想いと、どちらに対してもの切なさが溢れていて。
そして、今その話を聞いた樹もその切なさを受け取っているかのように、悲しそうな表情をする。
私も樹から聞いていない話。
ここまで聞くだけで二人の想い合う気持ちが伝わって来る。
きっと樹はそんな二人を、そんな真実を予想していなかったはず。
「でも親父は結局母さんを最後まで守らずに見捨てたんだよね?今更なんでそんなことを・・・?別に何の障害もないのに、そこまで想ってたなら親父がずっと側で支えること出来たんじゃないの?」
この話を今聞いてる私にとっては、お互い想い合って支え合っているからこその決断なんだと、そう感じるのだけれど。
きっと樹は、幼い時に理由もわからないまま二人が離婚して、そしてそんな状況の中で樹は樹なりに、きっとお母さんという存在を支えてきた。
母親を側で支えてきたという意識がある樹にとっては、きっとどんな理由でさえ、その時に父親が自分たちの元から去ったことが今でも受け入れられてないのかもしれない。
だけど、父親として、完全に離れることもなく、変わらず自分には厳しく接していることに、樹は今その二人の話を聞いても、ちゃんと理解して消化もきっと出来なくて。
樹が私に語ってくれた父親という存在は、まだなんとなく樹自身も目に見えている姿だけを捉えて、本当の部分ではちゃんと正面で向き合っていないような、そんな気がした。
「樹。そうじゃないのよ。お父さんは私のことを想って守ろうとしてくれたからこそ、その選択をしようと思ったのよ」
どんどん感情的になってくる樹を見て、REIKA社長がなだめるように優しく声をかける。
「えっ・・?」
「私の夢を叶える為に、この人は離婚するという形で家庭という負担を失くしてくれて、私を精神的に救おうとしてくれたの」
「どういうこと・・?」
「私がきっとその時はまだ未熟でそんな覚悟も勇気もなかったのね。お父さんが好きで結婚したはずなのに、お父さんが会社ばかりの生活になって、その寂しさと共にまだデザイナーとしての夢を捨てきれなかった私は、きっとそんなお父さんが羨ましかった。なのに私は樹が大切で、樹との時間はどうしても守りたかった。だけど、子育てと妻としての寂しさとデザイナーとしての夢を諦めきれない気持ちが全部同時に自分の中で溢れてしまって・・・」
それはきっとその時は、言葉にすることさえも苦しくて。
女性としての幸せと母親としての幸せと、そして自分自身としての夢と。
同時にすべての夢を叶えることは、きっとあまりにも大変で。
だけど、きっと本当はどの夢もREIKA社長は叶えたかったはず。
だから、きっと誰にも相談できず、一人で抱えて壊れてしまったんだ・・・。
きっと、REIKA社長にとって、どれも大切だったから。
どれもきっと守りたかったはずだから・・・。
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