テラーノベル
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莉犬「はぁあ、疲れたぁ」
最近、妙に疲れやすい。
もともと体力がある方ではないが、それにしても違和感があった。
さとみ「莉犬ー、まだ帰らんの?」
莉犬「んー、そろそろ帰ろうかな」
さとみ「おー、そうしな」
さとみ「一緒に帰ろうぜ」
というのも少し前にコロナから復帰したばかりで、まだ本調子とは言えないというのもあるのだろう。
とはいえ、休んでた分の動画の編集が、無くなるわけではないので仕事はしなくてはならない。
さとみ「なーに、まだ治らないの?」
莉犬「んー、そうなんだよね」
さとみ「そろそろ、病院にでも行けば?」
莉犬「いやぁ、いいよ別に」
莉犬「まだ2日だし」
さとみ「まぁ無理すんなよ?」
莉犬「はーい」
今の時刻は11時ぐらいで、終電まではもう少し時間があった。
パラパラと降り注ぐ雨が髪を濡らし、体を冷やした。
さとみ「こんな遅くまで何してたんだ?」
莉犬「うーん、休んでた分かな」
莉犬「そういう、さとみくんは?」
さとみ「俺はダンスレッスン」
さとみ「なんか納得しなくて」
莉犬「相変わらずストイックだなぁ笑」
さとみ「だろ笑」
さとみ「あ、今日飲み行く?」
莉犬「いや、今日はいいや」
莉犬「俺、家帰ってやんなきゃいけないし」
さとみ「編集?」
莉犬「そうそう」
さとみ「俺ん家じゃダメなわけ?」
莉犬「えぇ、泊まるの」
さとみ「嫌なら帰れば?」
莉犬「じゃあ帰りまーす笑」
さとみ「なんだそれ笑」
莉犬「じゃあ、また明日!」
さとみ「ほーい、またな」
さとみくんとは別れて、電車に乗った。
なんだか肩の上に別の何かが乗ったかのように、体がずっとしりと重たく感じる。
雨が降っているからなのか感じる頭痛があるからなのか、 少しずつ自分の不調を自覚していく。
莉犬「もう、なんなの本当に…」
夕飯も、誰かと食べたいという気持ちはあるけれど、 大好きだった食べ物さえもなんだか味がおかしく感じる。
電車の中は湿っていて、雨特有の匂いがした。
その匂いさえも今は頭を混乱させる。
莉犬「ただいまぁ」
そういって開ける家には返事を返してくれる人はいない。
可愛いペットのお出迎えはあるけれど、体調が悪くなると人肌恋しくなるというのは本当のようだ。
スマホの通知には可愛い相方からの心配そうなメッセージが届いていて、大丈夫だよとただ人を安心させるためだけの適当な文言を送った。
今の自分の体では上手くご飯を受けてくられなさそうだったため、適当にアイスを取り出して口に入れる。
ほんのり甘いアイスの味が口に広がり、夜に食べた時特有の罪悪感も感じた。
莉犬「けほっ、」
長く続く咳には慣れ、今では人前で抑えられるようにもなった。
重い体を動かしてお風呂に浸かる。
めんどくさいと言う思いもありシャワーだけにしようかと思ったけれど、早く体を休みたくて湯船に浸かることにした。
雨に降られたひたひたの髪を丁寧にシャンプーとリンスで洗って、何回かブラッシングすると、元のさらさらな髪が元に戻っていく。
ドライヤーをかけていたら時間があまりにも遅くなってしまいそうで適当に乾かした髪をそのままにして、作業をしに部屋に移動する。
廊下に出た途端、ふっと力が抜けた。
さっきまで普通に動けていた体が、
急にストッパーをかけるように動かなくなる。
――やばい。
咄嗟に息を止める。
咳が出そうになるのを、無理やり押し込めた。
ここで咳き込んだら、もう動けない。
そんな気がしたから。
大丈夫、まだいける。
そう自分に言い聞かせて、一歩踏み出した瞬間
莉犬「っ、げほ……っ、げほっ……!」
結局、堪えきれなかった。
壁に手をついて、俯く。
一度出始めた咳は、簡単には止まってくれない。
喉が焼けるみたいに痛い。
息も上手く吸えなくて、視界が少し揺れる。
莉犬「……は、ぁ……っ」
壁に寄りかかって、座り込む。
スマホはあいにく充電中のためここにはない。
せめて後少しでもいいから移動する必要がある。
この状態で外に出るのはきっと無理があるから、病院にはいけそうにはないな。
体は深刻なはずなのに、なぜだか頭だけは冷静に動かせた。
莉犬「うっ、…」
涙が出た。
寂しいと思った。
苦しいと思った。
辛いと思った。
もし、ここにみんなが居たらと少しそう思ってしまう自分がいた。
連絡しよう。
そう思う前から体はもう動き始めていた。
壁に体を預けながら、少しずつ歩く。
今まで歩いていた道が、まるで一つの
散歩コースのようにまで思えた。
ソファに腰をかけて、スマホを触る。
そこにはころちゃんからの電話と、なーくん
からの仕事の連絡。
きっとさとみ君がいる飲み会に、ころちゃんがいるのだろう。
なーくんも夜遅くまで仕事をしているのだろう。
そう思うとどちらに電話をかけるのもなんだか可笑しく感じられた。
るぅちゃんには心配させていたから、連絡するのは少し気が引けてしまう。
そうなった時電話をかけられるのは1人しかいない。
ジェル君だった。
ジェルと書いてあるページをタップして、通話ボタンを押した。
電話は意外にもすぐにつながった。
ジェル「莉犬?こんな時間にどうしたん?」
莉犬「今時間大丈夫だった?」
ジェル「おん、大丈夫」
ジェル「ちょっと動画の編集してただけ」
莉犬「そっか」
ジェル「なに?なんかあったん?」
莉犬「あぁ、いや」
いざ話そうとするとなんとなく気恥ずかしくて、口をつぐんでしまう。
ジェル「しゃーないなぁ笑」
ジェル「家。行くな。」
ジェル「待ってて。」
ジェル「じゃあ、電話切るよ」
ジェル「あ、切らへん方がええか?」
莉犬「うん、このまんまがいい。」
何も言わなくても伝わる。
気づけばそのくらい近い距離感になっていた。
思い返せば、もう10年だ。
あっという間の10年だった。
すとぷりというこのグループがここまで大きくなって有名になるまで10年。
俺という存在が多くの人に知ってもらえるようになったのが10年。
夢を叶えるだけではなくて、誰かの夢になるまで大きくなったのが10年。
大事なメンバーがたくさん悩んだのが10年。
この十年間本当にいろんなことがあったと思う。
辛いことも。楽しいことも。たくさん。
本当にこの6人で良かったと思った。
ここまで続けられて良かったと思う。
始まりがあるということは終わりがある。
そんなことが分かっているけれど、それさえも愛おしく思ってしまうほどに幸せな人生だ。
ジェル「なんか食べた?」
突然スマホから声が聞こえる。
莉犬「ううん、まだ」
ジェル「ほな、少し持ってくな」
ジェル「体あったかくして待ってて」
声からは心配している色があからさまで、それなのに冷静に俺のことを考えて話してくれていた。
初めに会った時、ジェルくんとは何となく気が合うような気がした。
過去の話。
思う話。
考える話。
たくさんのことを相談しあった。
その中で、気が合うなと気づいた時には自分の中でピースがしっかり はまっていった。
〈ピーンポーン
インターホンが鳴る。
あいにく、ドアを開けられるほどの元気はないため、合鍵で開けるまで少し待つ。
ジェル「莉犬、きたで」
ジェル「どうかしたん?」
ジェル「何でも話し?」
そう聞きながら俺の体を抱きしめる。
莉犬「ごめん」
ジェル「なんでや?」
莉犬「言えそうにないや…あはは、」
ジェル「元気なフリなんかしなくてええよ」
ジェル「強くいる必要なんてないんよ。」
莉犬「そっか」
莉犬「ジェル君もなんかあったら言ってね」
ジェル「うん、言う。」
莉犬「うん、待ってる。」
ジェル「ご飯、食べようか。」
ジェル「そのあとは寝よう」
ジェル「それで、明日は休もう。」
ジェル「寝れなかったら俺と話そう。」
莉犬「うん、そうする」
ジェル「うん、そうしよう」
ジェル「何も心配しなくてええよ」
ジェル「今はゆっくりしようや」
ジェル「たまには足踏みだって大事やで。」
莉犬「そうだね」
俺の目を見て笑うジェル君は、何となく天使のように見えた。
友達以上恋人未満。
その言葉がぴったりな俺たちだった。
コメント
3件

最高です🥹🩷
最近ずっと見てて全部好きです!ストーリー待ってます!!