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Natuki視点_
kagerouとm@rioが「8つ目の隠しジョブ」なる戯言(たわごと)に現を抜かす傍らで、拙者は静かにカタナの柄に手を添え、控えておった。
隠しジョブ? 7つの神具? レベル9999?
愚かしい。誠に愚かしい限りである。
ゲームのシステムや運営が提示した枠組みなどに翻弄されるなど、真の侍の成すべきことではない。
我が主、kana様がその愛くるしい瞳を輝かせ、膝の上のマーブル殿を優雅になでなでとなさっておられる……ただその一瞬の平穏、その可憐なるお姿こそが、この『セブンスマスター』という世界が存在する唯一無二の価値なのだ。
それを理解せぬとは、あのガチ勢どもめ、まだまだ修行が足りぬな。
「……Natuki、お前さっきから何ブツブツ不気味な顔で頷いとんねん」
kagerouが怪訝そうな顔でこちらを睨んできたが、拙者は一切の動揺も見せず、凛とした佇まいのまま一歩前へ踏み出した。
「黙れ、kagerou。8つ目のジョブなどという得体の知れぬ幻を追い求め、kana様のお側を空けることなど、万死に値する愚行。……拙者が守るべきは、この世界でただお一人」
拙者は朱色の袴を風になびかせ、kana様の前に深々と跪いた。
「kana様。あのような男どもの戯言に耳を傾ける必要などございません。どのような隠しジョブ、どのような強敵が立ちはだかろうとも、このNatukiの刃がすべてを切り伏せ、姫の歩まれる道を切り開いてみせましょうぞ」
「まあ! Natuki様、いつも頼もしいお言葉をありがとうございます」
kana様が可憐に首をちょこんとお傾げになり、ふわりと咲くような笑顔を拙者に向けてくださる。
(――ッッ!!? 尊い……ッ! あまりの神々しさに拙者の魂が浄化されてゆく……!!)
「ワンッ!(プルプル)」
さらに膝の上のマーブル殿が、拙者に向かって「くぅん」とあざとい上目遣いを放たれた。
**【固有スキル:あざtoi威嚇(キュン♡)直撃】**
ぐはっ……!
胸を穿つ圧倒的な尊さの衝撃波。
拙者は寸前のところで精神を極限まで統一し、表面上は微動だにせず冷汗をぬぐった。
危ないところであった。一瞬でも気を緩めれば、拙者とてm@rioのドラゴンよろしくデロデロの腑抜けに成り果てるところであったぞ。
「おい見ろ、Natukiの奴、顔はキリッとしとるけど耳まで真っ赤やぞwww」
「ほんとだww 耐えてるつもりだけど完全に効いてるwww」
kagerouとRicoの野次が聞こえてくるが、全開の集中力で無視(スルー)いたす。
その時である。
コメント欄を監視していた裏モデレーターのmiraが、メガネの奥の光を走らせ、ボソリと呟いた。
「……報告。先ほどの出会い厨『Ore_Sama』のサブアカウントと思われるIDが、再びこのエリアに接近中……。どうやら懲りずにkana様へ接触を試みようとしている模様」
「――何だと?」
拙者の頭の中で、ぶちりと何かが切れる音がした。
一度ならず二度までも、我が姫に不浄な害意を向けようとは……!
「Natuki、待て! 今度は俺が普通に追い払うから刀を抜けッ――」
kagerouの制止の声など、もはや拙者の耳には届かぬ。
「――死して教えを乞う余裕すら、貴様には与えぬ」
ザッ……!!
気配を消し、光の如き神速で路地裏へと跳躍する。
曲がり角からkana様へ不躾な視線を投げかけようとしていた浅ましい影を目視した瞬間、拙者の右腕はすでに『悪即斬』の構えを完了していた。
「な、なんだおま――」
ズシャアァァァァァンッ!!!!!
閃光一閃。
理由も、問答も、釈明すらも不要。
害虫は害虫らしく、一瞬の露となって消え去るがいい。
二度目の爆散を遂げ、光の粒子となって消えていく哀れな男を見下ろしながら、拙者は静かに刀を納め、朱色の袴を整えた。
そして、何事もなかったかのようにkana様のお側へと戻り、至高の誠意を込めてひざまずく。
「……お騒がせいたしました、kana様。不浄なる羽虫が一匹、風に散っただけにございます」
「まあ? そうでしたの? Natuki様は本当に素早くていらっしゃいますのね」
kana様が可憐なお手をお口元にあて、おっとりと微笑んでくださる。
「はい。姫の御心に従い、あらゆる不浄を祓うことこそが、このNatukiの唯一絶対の使命。……さあkana様、マーブル殿。本日のお散歩を続けましょうぞ」
「ええ、Natuki様。本日もよろしくお願いいたし
ますね」
「――姫の御心に従う!」
(よし……botの切り替え、完璧である)
我が心に誓う。
世界の危機も、8つ目の隠しジョブも、拙者にとってはすべて「不要」。
我が主・kana様が可憐に微笑み、優雅にお庭を歩まれるその瞬間を護ることこそが、この侍(Natuki)の生涯のすべてなのだから――!
kana視点_
「……あ、あのなぁ、Natuki。俺、さっきからずーっと言おう言おうと思ってたんやけどな……」
出会い厨のサブアカウントを一瞬で二度目の爆散(PK)へと追い込み、満足げに刀を納めたNatuki様に対し、kagerou様が胃を強く押さえながら、ついに限界を迎えたような声で切り出されました。
「お前、セーフティエリア(安全地帯)の境界線ギリギリで毎回プレイヤー殺しまくっとるけどな……これ、マジでヤバいデメリット(罰則)が付与されるシステムなんやぞ!?」
「まあ? デメリット……? 罰則、ですの?」
わたくしが首をちょこんとお傾げいたしますと、kagerou様は手元のウィンドウを慌ただしく操作しながら、真剣なお顔でわたくしに向き直られました。
「せや!! このゲームな、不審者やろうが何やろうが、プレイヤーを殺す(PK:プレイヤーキラー)と、ネームプレートが真っ赤になる【赤ネーム(犯罪者状態)】になるんや! 赤ネームになると、街のガードNPCから一斉に襲われるし、死亡した時のアイテムドロップ率が跳ね上がる! 最悪の場合、指名手配されて賞金首(バウンティ)として全プレイヤーから狙われるハメになるんやぞ!?」
「まあ……! お友達を叩いてしまうと、お巡りさんに怒られてお仕置き(ペナルティ)を受けてしまうようなものですのね。……ではkagerou様、先ほどNatuki様がなさった『あくそくざん』は、とても危険なお行為だったということですかしら?」
わたくしが驚いてお手を口元にあてますと、kagerou様は深く頷かれました。
「その通りや!! 俺がさっきからNatukiを必死に止めようとしてたんも、全部そのデメリットを防ぐためなんや! 相手がどれだけ害悪な出会い厨やろうが、ルール上はこちらが『PK(犯罪者)』扱いになってまうねん! 運営の通報や警告が重なれば、最悪アカウント停止(BAN)まであるんやで!?」
わたくしは非常に感心いたしまして、指を顎にあてながら根掘り葉掘り質問を重ねましたの。
「まあ……! ではkagerou様、もしNatuki様のお名前が真っ赤になってしまいましたら、お召し物も赤く染まってしまうのですの? 朱色の袴と重なって、かえってコーディネートとしてはお洒落になるのではなくて?」
「見た目のオシャレ度の話ちゃうわ!! 街に入れへんくなるんや!!」
「では、ガードのNPC様というお巡りさんたちが襲ってまいりましたら、マーブルちゃんが『あざtoi威嚇』でお友達になって差し上げれば、許していただけないかしら?」
「ガードNPCにチワワの可愛さは通用……いや、通用しそうやけど、根本的な解決になってへんねん!!」
わたくしが「では、もし賞金首になってしまいましたら、わたくしたちでNatuki様をお守りすればよろしいのかしら?」と重ねてお尋ねいたしますと、kagerou様は「そういう問題ちゃうねん……俺の胃が保たへん……」と頭を抱えて崩れ落ちそうになられました。
『お嬢様、質問がどこまでもポジティブで草』
『「朱色の袴と重なってお洒落」は発想が天才すぎるww』
『kagerouが止めようとしてた本当の理由が判明して涙目』
『お嬢様、ペナルティの仕組みを根掘り葉掘り聞きまくってて草』
コメント欄がkagerou様への同情と大爆笑で埋め尽くされる中――
静かに目を閉じ、腕を組んで佇んでいたNatuki様が、重厚な低音ボイスとともにゆっくりと開眼なさいました。
朱色の袴を風になびかせ、カタナの柄に手を添えたまま、kagerou様を冷ややかな眼光で射抜きます。
「――kagerouよ。ペナルティ? アカウント停止? くだらん」
「くだらんって何だお前ぇぇぇ!!? ゲームのルールそのものやぞ!!」
Natuki様はkagerou様の叫びなど一切意に介さず、朗々と、そして至高の絶対感をもって断言なさったのですわ!
「運営の提示したルール? 世界の法? システムのペナルティ? そんなものはすべて、我が主の前には塵芥(ちりあくた)に過ぎん! kana様を脅かす害敵を斬るにあたり、ペナルティなどを恐れて何とする!」
Natuki様はそのまま、わたくしの前に一切の迷いなくひざまずき、胸を張って言い放ちましたの。
「この世のあらゆる法やシステムを超越した絶対の真理……**姫こそが理(ことわり)なり!!!**」
「『姫こそが理なり』キタァァァァァッ!!??」
kagerou様が本日一番の悲鳴をあげて頭を抱えました!
「ゲームの利用規約すら超越した宣言が出たーーーっ!! 『御意』『悪即斬』『不要』に続いて『姫こそが理なり!』って、もう全自動肯定の領域超えて宗教やないか!!」
『姫こそが理なり! 爆誕wwwwww』
『運営の利用規約(規約)< お嬢様(理)』
『Natukiの忠誠心がついに世界のシステムを凌駕して草』
『kagerou「ルールを守れ!」 Natuki「姫こそが理!」』
『このサムライ、マジでブレなさすぎて最高ww』
コメント欄が大爆笑と「姫こそが理なり!」「姫こそが理なり!」の宗教的弾幕で埋め尽くされる中、わたくしはふふっと上品に微笑みました。
「まあ……『姫こそが理』……。Natuki様、とっても誇らしいお言葉ですけれど、kagerou様が心配してくださるお気持ちも大切にいたしましょうね」
わたくしが優雅に膝の上のマーブルちゃんをなでなでいたしますと、Natuki様は深々と頭を下げられました。
「――姫の御心に従う!」
「botの切り替え速度だけは世界一やなほんま……」と涙目で天を仰ぐkagerou様。
ルールやペナルティすら「姫こそが理!」の一言で薙ぎ払う最強の親衛隊とともに、わたくしとマーブルちゃんの「お庭(セブンスマスター)」での優雅でおかしなお散歩は、本日も大盛り上がりで続いていくのでした!
コメント
1件
うわっ、今回もめちゃくちゃ面白かったです!「姫こそが理なり!」は名言すぎますね(笑)。Natukiの忠誠心がゲームのルールすら超越してるの、もう笑うしかないです。kagerouの胃が痛くなる気持ち、めっちゃわかります。kana様がペナルティの話を「お洒落」とか「マーブルちゃんの威嚇で解決」とかポジティブに解釈してるのも、天然すぎて最高でした。あと、コメント欄の反応が完全に読者の代弁者になってて、そこも含めて楽しい回でした!