テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
設楽理沙
1,530
「かわいいお人形、私の部屋に連れて行きましょう〜」幼児はギルフォードを抱いてどこかへ歩いて行く。
(見た感じ女児のようだが……?)
男爵家は一人娘との表記だったが、どういうことだろうか。
女児は大体5歳程度に見える。
「ねえ?」
「え?」
ギルフォードは一か八か裏声を出した。
(頼む……メルヘンなタイプであれ!女児!)
「お願い、僕はぬいぐるみの国を救うためにやってきた王子だ……君の助けが必要なんだ」
この作戦の場合、2パターンの可能性がある。
1つは素直に協力してくれる。
2つは親に報告する。
(頼む頼む……!協力してくれ!)
「…………ママに聞いてみないと……」
女児は驚いたような顔をして……それでもギルフォードと会話をしてくれた。
「それはダメなんだ。秘密にしないと……大人にバレたら僕は消えちゃうから。お願い」ギルフォードは両手を合わせてペコペコと頭を下げる。
「…………わかったわ。どうすればいい?」
女児は真剣な顔をしてギルフォードを見つめた。
「ありがとう、えっと……」
「私はマイアミよあなたは?」
「マイアミ、僕は……ベアフォード」
————————
「持ってきたよ?料理をするの?」
マイアミはんしょ、んしょと油と小麦粉を運んできた。
「そうだよ〜」
ギルフォードは小麦粉を床に撒くと、油を注ぎそれを捏ねる。
「面白そう、私にもやらせて?」
「いいよ」
ジャッキーが小麦粉を嗅いで、吐息をはいた瞬間粉が舞い上がる。
「ゴホゴホ!」
「ゴホゴホ!」
「ケンケン!」
ジャッキー自爆すんな。
「マイアミ、君のパパは大切な物をどこに隠してるか知ってる?」
「うん、いつも腰に下げてる。世界で一番大事なもの。大事な物は人任せにしないで自分で守るんだって」
マイアミはせっせと小麦粉を練り上げながら質問に答える。
「……へー」
「鍵たくさん、お金のお部屋の」
「へぇ……」
ギルフォードはニヤリと笑う。ぬいぐるみでよかった。
ギルフォードたちは少しボソついた生地を作り上げるとマイアミは額の汗を拭うふりをしている。
ジャッキーはすかさず生地を食べようとするのでギルフォードはそれを阻止しながら「マイアミ、パパの宝物借りてこられる?」と尋ねた。
「え?なんで?」
(なんでだ……?)
「ここにぬいぐるみ王国のために必要なものが入っているんだ」
「ぬいぐるみ王国のため?わかった!」
「大丈夫?怒られないかい?」
「うん!あのね……ベアフォードだけに教えるね。絶対内緒ね」
マイアミはコソコソとギルフォードに教えてくれたのは……とんでもない事実だった。
「なんだと!?(地声)」
「しー、内緒にしてね?怒られちゃうから。絶対内緒なの。でもね、だからパパは私に優しいの」
マイアミはニコニコして立ち上がると、パタパタと部屋を出て行った。
「………………」
ギルフォードは頭がグラグラしていた。先ほどの件は到底内緒にできるものではない。
マイアミは来年男色家で有名な東の国の王に献上されることが決まっているそうだ。
(だから……貴族名簿の登録は男児だったのか)
マイアミは女児として育てられている男児だったのだ。
しかも東の国といえば我が国と水面下で対立している国だ。そんなところと濃密なやりとりをしている男爵家————
(いやいや、子どもを献上するなど許されん)
「どうした、マイアミ。金庫の中が見たいのか?」
「う……うん」
遠くからそんな声がしてギルフォードは慌ててぬいぐるみに——戻る前に小麦粉の玉を背後に一つ隠す。
マイアミはまさかの……男爵とともに登場した。
表に見えていた鍵穴はダミーだったようで、装飾に見えていた下部に貼られた木の板を回すと今まで見えていなかった鍵穴が現れた。男爵はしゃがみ込むと腰にぶら下げた鍵の束から一つとり鍵穴差し込むとそれをゆっくりと回す。
ギルフォードはそれをじっと眺める。
ギイ……と重たそうな音がして扉が開いていく。
中には金や札束の他に——東国の金貨が大量に入っているのが見えた。
そして金庫の扉の裏側には紙の束、ギルフォードはそれに釘付けになる。(クソ、見えん。見えるわけがない)
「ほら、こんな感じだ。お前の欲しいものなんかなかっただろ?」
「う、うん。ありがとうパパ」
男爵は豪快に笑いながら扉を閉めるとしゃがんだまま鍵を腰に戻す。ギルフォードはそこにそっと近寄り鍵を小麦粉の玉にギュッと押し付ける。
「ん……?」
なんらかの圧を感じたのか男爵が後ろを振り返ろうとした。
その時、ジャッキーが吠える。
「こら、ジャッキーうるさい!」
男爵は金庫の横に立てられていた棒でジャッキーを殴ると、ジャッキーはキュン……と鳴いて腹を出す。
(ジャッキー!)
「パパ、やめてやめて!」
男爵が再び棒を振り上げた時、マイアミがジャッキーの上に覆いかぶさった。男爵はマイアミに傷をつけたくないのだろう。棒を金庫横に再び戻し「マイアミは優しいなぁ」と頭を撫でて出て行った。
「ジャッキー」
ギルフォードはトコトコとジャッキーに駆け寄ると腹を撫でる。自分のせいで叩かれてしまった……
「ジャッキーは強いから平気だよ。ベアフォード、ごめん……パパが来ちゃった」
マイアミは申し訳なさそうにしょんぼりしている。
「いや、むしろよかったかもしれん」
「え?」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとうマイアミ、また来てもいい?」ギルフォードはすくりと立ち上がると手を大きく広げた。
マイアミはギルフォードを抱き上げると「うん!」と言って笑う。
——————————————————
「ギルフォード様……!」
男爵家の前でそわそわと待っていたジョセフィーヌがマイアミが持っているギルフォードに手を伸ばした。
「ベアフォード……この人大丈夫な人?」
マイアミはコソコソとギルフォードに相談する。
「この人も僕の協力者だよ」
「じゃあ安心だね。お願いします」マイアミはペコリと頭を下げてジョセフィーヌにギルフォードを託した。
「あの〜一体全体」
「彼は男爵家の末っ子だ。今回のミッションに協力してもらった」
「彼……?」
「そうだ、あの子は男の娘だ」
ギルフォードはジョセフィーヌにあの屋敷であったことを説明すると、小麦粉の玉を見せる。
「金庫の鍵を写してきた、公爵家で生成してもらいたい、それと……手紙を送りたいのだが協力してもらえないだろうか」
——————————————————
「今日は大変な1日でしたね」
ジョセフィーヌはギルフォードをそっとベッドに置くと、隣にコロリと横になる。
「と、と、と、共寝は結婚してからが……」
「え?ギルフォード様は今ぬいぐるみでございますから」
ジョセフィーヌはそう言って笑うとギルフォードをギュッと抱き締めた。
(見た目はぬいぐるみであるが……)
ギルフォードの心はバッキンバッキンだった——
ギルフォードはジョセフィーヌにキスをすると意識が遠のいていく。疲れた————
「ギル?ギルフォード、我が弟よ」
「——————は!」
ギルフォードは目を覚ました。
そこは暗く……月明かりのみが差し込む、石造りの床には血が飛び散っている。
ポタポタと水滴が天井から垂れた。
ぐいっと顔が持ち上げられるとディードリッヒがにこやかに顔を近づける。
「…………早く自白しろギルフォード、我が民を傷つけて許せないなぁ?王族の分際で……お前は一体何を企んでいるんだ?」
「あ……兄上、公爵家のメイドは虚偽の自白をしています」
「ならお前が無実の証明しろ」
ディードリッヒは目を弓なりにしたまま、爪にペンチを引っ掛ける。ブチブチブチ
「ぐ……がががが」
出したくもないのに痛みで勝手に尿が吹き出す。
それを見てディードリッヒはほの暗く笑った。
「貴様……婚約者には優しくしろと言ったはずだ。彼女は俺の民になるのだぞ?」
「ががが……あに゙ゔえぇ……っ」ギルフォードは痛みに歯を噛み締めながらディードリッヒを呼ぶ。
ブチンと爪が引き剥がされる。
ディードリッヒは爪を床に放ると、ペンチをカチカチさせた。
「兄上!明日友好国の王子から兄上宛に封書が届きます」
ギルフォードはディードリッヒが次の行動を起こす前に畳み掛けるように言う。
「なに?」
「兄上にレヴァンテリア帝国から封書が届きます。それを受け取ってください」
ギルフォードははじめ、ディードリッヒが自分に罪を擦り付けようとしていると思った。しかし————
(そんな男ではない、この王になる男は)
ギルフォードが俯くと、ポタリと雫が落ちる。
「なにをするつもりだ」
ディードリッヒがギルフォードの髪を掴んで顔を上げさせる。ギルフォードは腫れ上がり殆ど見えない片目を庇いながらディードリッヒを見つめた。
「信じてください。俺は……ジョセフィーヌを愛しています。アイリス嬢には興味もない」
ギルフォードは今までディードリッヒに隠していたことを伝えた。ジョセフィーヌを愛していることを————
「…………じゃあなぜ、あんなに冷たくしていた」
「兄上に奪われ捨てられると思ったからです」ギルフォードは淡々とそう伝える。
「………………」
ディードリッヒは思い当たるところがあったのか舌打ちをすると、トレイにペンチを置いて出て行った。
ギルフォードはほっとため息をつく。
しかし——(ああは言ったものの、昨夜までの出来事が……夢だったなら終わる)
夢ならばレヴァンテリア帝国からの封書は届かないし、男爵家の金庫の鍵もない。
今のギルフォードが無実を証明するのは無実の証拠を出すか、真犯人を探し出すしかないのだ。
無実の証拠を出すことなどほぼ無理、ならば真犯人を見つけるしかない。
それに————「ジョセフィーヌ…………」
ギルフォードはジョセフィーヌに会いたかった。
コメント
1件
第11話、読み終えました!ギルフォードがぬいぐるみのままマイアミちゃん(実は男の子!)とやりとりするシーンがもう本当に可愛くて…「ベアフォード」名乗っちゃうところとか、小麦粉で鍵の型を取るアイデアもおしゃれでしたね。でも後半の拷問シーンとの落差がすごくて、ディードリッヒ兄さんの狂気が一気に現実を引き締める感じがゾクゾクしました。ジョセフィーヌに会いたいっていう最後の一言が切ない…次が気になります!