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一階のロビーに着いた途端、桶川さんに腕を掴まれた。
「……車」
「え?」
「乗っていけ」
「でもこの時間だったら電車のほうが……」
「早くても車に乗れ。……またあの変態野郎が出たら困るからな。つか、お前のアパート大丈夫なの? あいつに知られてるんだろ、どうせ」
たしかに、そこは不安ではある。
でもすぐに引っ越しできるわけでもないしな。
「とにかく戸締りはしっかり気を付けます」
「俺んちくる?」
甘いマスクでそう言われて、私は反射的に「いいえ」と返した。
一気にムッとする桶川さん。
だってさぁ。今日は色々ありすぎて疲れたんだよ。
桶川さんと一緒に居たら、ドキドキし過ぎて休憩できないじゃん。
「なんでだよ、普通そこ、喜ぶところだろ?」
「嫌ですよ。部屋なんか行ったら何されるか分からないじゃないですか」
「お前俺のこと好きって言ったじゃないかよ。別に手ぇ出したっていいだろ」
「やですー。そんなムードもなくいきなりとか最悪です。こっちは桶川さんみたいに経験豊富じゃないんですからね。グイグイ来られると困るんです。じわりじわりと進展したいんですよ」
こんな会話をすることにもびっくりだよ。
私、まともに男の人と付き合うのって五年ぶりなんだから、ほとんどセカンドバージンだっていうのに。
いきなり相手がこんなハイスペック野郎とか、どうしたらいいのか分からなくて本当に困ります。
「あっそ」
「はい」
「まあだからって俺が言うこと聞く筋合いはねぇよ」
「ぎゃあっ」
ひょい、とまた持ち上げられ、地下の駐車場まで連行される。
「桶川さん、これ、拉致って言いますよ」
「うるせぇな。お前がガタガタ注文が多いのが悪いんだろうが」
「だってー」
「つまりまだ手を出さなきゃいいんだろ。とにかく、あんな男に付きまとわれていると分かったら放っておけねぇの。俺んち、部屋余ってるからそこで寝ろ。ベッドはないけどソファならあるし」
「なんでひとり暮らしで部屋が余るんですか」
「ひとりだからだろ? 2LDKでちょうど余るじゃん」
「ひとりで2LDKになんて住みませんよ、何その成金!」
「あーもう、うるせぇ!」
結局、私は高級そうな会社の助手席に押し込まれ、彼の部屋に連行されることとなった。
コメント
1件
もうね、桶川さんの強引さが最高でした(笑)「俺んちくる?」のすっとぼけた誘い方と、そのあとの「うるせぇな」の流れ、めちゃくちゃ桶川さんらしいなって思いました。でも本当は主人公を心配してて、ちゃんと守ろうとしてくれてるのが伝わってきますね。 主人公の「じわりじわりと進展したい」っていうセリフ、めっちゃ共感しました。五年ぶりの恋愛でハイスペック相手って、そりゃ戸惑いますよね(笑)。連行されちゃったけど、このあとの桶川さんの部屋での展開、気になりすぎます!