テラーノベル
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「……え?」
鏡に映る自分を見て、私は手に持っていた高級な扇子を床に落とした。
乾いた音が、静まり返った豪華な部屋に虚しく響く。
艶やかなピーチピンクの髪は、まるで春の陽光を閉じ込めたように輝いている。
勝ち気そうに吊り上がったアメジストの瞳は
意志の強さと共に、どこか人を寄せ付けない冷たさを湛えていた。
そして、見るからに「性格がキツそう」な絶世の美貌。
(間違いない。……これ、見覚えがありすぎる。ていうか、昨日までスマホの画面越しに見ていたそのままじゃん)
混乱で指先が震える。
ここは大人気乙女ゲーム『聖なる乙女の祈り』の世界。
そして私は、ヒロインを虐めた末に、私の最推しである近衛騎士にその首を撥ねられて斬り殺される最凶の悪役令嬢
───メリッサ・ド・ラ・ヴァリエールだ。
(待って。冗談じゃない。え、今ストーリーのどのへん!?)
冷や汗が背中を伝う。
必死に混乱する頭で、この「メリッサ」としての記憶を整理しようとしたそのとき。
背後から、低く、冷ややかな、けれど細胞の隅々まで染み渡るほどいい声が響いた。
「お嬢様。そろそろ登城の時間です。……どうされました? そんなに呆然として」
ドクン、と心臓が喉から飛び出しそうになる。
この声の温度、この有無を言わせぬ威圧感。
私は錆びついた機械のように、ギギギ……と恐る恐る振り返った。
そこには、私の『最推し』が立っていた。
燃えるような赤髪。すべてを見透かし、光を反射しない鋭い青い瞳。
汚れ一つない真っ白な近衛騎士の制服を纏い、腰には研ぎ澄まされた剣を下げている。
レオン・フォレスト。
(は? やば……本物? 待って待って、2次元の次元じゃない。生レオン様、えっっぐ!! 顔面偏差値が完ストしてるし、存在が尊すぎて網膜が焼ける……!)
前世?でいくら課金したかわからない、私の人生を捧げた最推し。
そして、ゲームの終盤で私……メリッサをゴミを見るような目で無感情に処刑する『断罪人』その人である。
「レ、レオン様……?」
「様、なんて付けてどうされたのですか…?私は貴女の護衛騎士に過ぎませんよ」
彼はわずかに眉をひそめ、不快そうに、けれど事務的に私の側へと歩み寄る。
近い。近すぎる。
彼が動くたびに、わずかに漂う鉄の匂いと清潔な石鹸の香りが鼻腔をくすぐり、尊死しかける。
だが、それ以上に脳内の生存本能が最大音量で警報を鳴らした。
(落ち着け、私! 今この瞬間、私の好感度は彼の中で『ただキツそうなお嬢様』まだ殺意は持たれていないはず。……だけど!)
ゲームの次のシナリオでは、ヒロインのマリンを大勢の前で虐めるシーンに入る。
もしそうなれば、数ヶ月後にはこの美しすぎる手で、私の首は物理的にサヨナラすることになる。
(回避しなきゃ。物理的にも、運命的にも!)
推しに殺されるなんて、ある意味ご褒美かもしれないけど、痛いのは絶対嫌!!
よし、そうと決まれば
ヒロインのマリンを全力でプロデュースして、レオン様とくっつける。
私はそのキューピッドとして二人に感謝され、処刑フラグをバッキバキにへし折る!
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