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 やっと仕事が終わり時計を見るともう八時を回っていた。 鞄に荷物を詰め込み会社を出る。



 外に出るとクリスマスムードで、あちこちからクリスマスソングが聞こえ、お店の外観もイルミネーションなどで着飾っている所が多い。

 去年までは明るすぎて鬱陶しいとしか思えなかったこのキラキラ感も今年は更に輝いてるように見える。クリスマスが楽しみなんて思えたのはいつぶりだろう。

 今年のクリスマスは彼女と過ごせると決まりそれはもう嬉しくてすぐにレストランを予約した。

 プレゼントもすでに一つは買ってあり、もう一つプレゼントを渡したくて、五つまでに絞ったがどれも彼女に似合うので全部買ってプレゼントしたい。でも流石に多すぎると気を遣わせてしまいそうなのでひとつにする予定だ。



 今日はやけに冷える日で電車を降りてからの道のりが少し足早になる。

 アパートの階段を登ると自分の部屋の前に人影が見えた。



――真紀だ。



 走って駆け寄り抱き寄せるとまるで氷のようにキンキンに身体が冷えていた。



「どうしたんですか! こんな寒い日に……何かあった?」



 彼女は何も言わずにただただ俺に抱きついていた。



「とにかく中に入りましょう、風邪ひいちゃいます、すぐにお風呂入れるから入って下さい」



 彼女の肩を抱き部屋にあげると明らかに様子がおかしい。いつもは元気にツンツンしている彼女が辛そうな顔で今にも泣きそうだ。

 お風呂が出来ました、と音がなり彼女をお風呂まで連れて行き、ゆっくり浸かっておいでと洗面所を出ようとした所で腕を引き寄せられた。



「真紀?」



「……一緒に入る」



「え……」



 耳まで真っ赤に染め上げた彼女の顔を覗き込むと鼻の頭を赤くし、ジワリと目に涙を浮かべている。これは只事じゃない。



「じゃあ真紀が先に入って、俺は後から入っていくから」



「うん……ちょっとあっち向いてて」



 脱いでるところを見られるのが恥ずかしいのだろう、俺は目を隠しながら反対方向をみて真紀を見ないようにした。

 視界が暗いからか、耳が研ぎ澄まされてしまい、服を脱ぐ音がいやらしく聞こえてしまう。

 ドキンと心臓が波打ち、自身の下半身も反応してしまいそうになる。



(あー、真紀が悩んでる時に! 煩悩退散、煩悩退散)


 

 彼女が浴室に入ったことを確認し、自分も服を脱ぎ、なんとなく今は見せちゃいけないと、大事な部分をタオルで隠しながら浴室に入ると、彼女はチョコンと浴槽から顔を出していた。



(可愛すぎるだろ……)



 シャワーで一度身体を流した後に彼女が既に入っている浴槽に片足ずつ入る。

 脚の間に彼女を引き寄せ後ろから優しく抱きしめた。



「真紀、何があったか聞いてもいい?」



「……なんとなく松田くんに会いたくなっただけ」



 嘘なのはすぐに分かった。朝出社してきた彼女の様子が少し変だな、と思ったが必死で隠そうとしているので、何も気づいていないフリをした。それがまずかったのか。やっぱり彼女はなかなか素直に言い出せないのが分かっていたのに、ちゃんと聞かなかった自分がいけない。会社を出る時は今ほどおかしい様子は無かったのに……、その後になにかあったのかもしれない。



 今日以外で唯一最近彼女の様子がおかしいように感じたのは誠と買い物に行ったあの日、下着屋から戻ってきた彼女の笑顔が物凄く作り笑いなのには気づいていたが、それは誠がいて気を遣っているからかと思ったが、もしかして……誠になにか変な事でもいわれたのだろうか。わ

 もっと追求して聞くべきか、話してくれるのを待つべきか……



「松田くん……」



 彼女はくるりと身体を回転させ向かい合わせになる。

 彼女の身体がよく見えてしまい、つい身体が反応してしまった。彼女が落ち込んでいる時に本当に情けない……

 彼女の温まった手が俺の両頬を包み込み、そのまま唇を重ねた。

 初めて彼女から俺にキスをしてくれた。



「え……真紀さん?」



 驚きを隠し切れない俺に覆い被さるようにもう一度彼女からキスをしてきた。さっきの軽いキスではなく深いキス。必死で俺の舌を捕まえようと動かしているのが可愛くて俺の理性は一瞬で壊された。

 彼女の舌を捕まえ吸い尽くす。



「んんっ……フゥ……」



 彼女の甘い声が浴室に響く。

 身体が温まっているからか彼女の目はトロンと熱帯びていて涙を浮かべている。



「真紀……」



 その涙を見てハッと俺は何してるんだ……と我に帰る。



「身体洗って出ようか、夜ご飯作りますよ」



「えっ……しないの?」



「いや、本当はめっちゃしたいですよ、もう恥ずかしいくらいに元気になっちゃってるし」



「私は……いいよ」



「真紀がその気なのは凄く嬉しいし、今すぐ抱きたいけど、泣きそうな真紀を抱くほど俺は酷い男じゃないですよ? 反対向いてるから身体洗っちゃってください、それとも俺が隅々まで洗いましょうか?」



「いい! 自分で洗えるからっ!」



「それでこそ真紀さんだな」



 俺はちゃんと反対方向を向き彼女が洗い終わるのを待った。それはとんでもなく拷問を受けているような地獄な時間だった。



「洗い終わりました」



「ん、じゃあ俺も洗うんで交換しましょっか」



 彼女が湯船に入ったことを確認し、俺も自分の身体を洗い先に風呂を出た。

 彼女には「ゆっくり浸かってて下さい、夜ご飯の準備しておきますから」と言って出てきた。

 お風呂を出てまたスーツを着るのは嫌だろうと思い、本当は彼女にあげるためのクリスマスプレゼントとして用意しておいたモコモコ素材の部屋着をバスタオルと一緒に置いておいた。

 ピンク色のモコモコパーカーとショートパンツ。

これは単なる俺の趣味だ。彼女の綺麗な脚がモコモコのショートパンツから見えるとか最高すぎる。

そしてなにより前チャックのパーカーになってるので脱がせやすい。



 グツグツと野菜と鶏肉を煮込み、うどんを茹でる。

最後に卵を入れれば完成だ。

 卵を入れるタイミングで彼女がお風呂から戻ってきた。

 俺の用意しておいたモコモコの部屋着に身を包み、頬を赤く染め「この部屋着、わざわざ準備してくれてたの?」と目を細め嬉しそうに微笑む。

「でもちょっと、若すぎない? 恥ずかしいんだけど……」なんて言いながら照れている。



 あぁ、笑顔が見れてよかった。



「そうです、俺の家に泊まった時に着れると思って買っておいたんですけど早速役立ちましたね、すっごく似合ってます、可愛い」



「っつ……本当にありがとう」



「もう少しでうどんができますから、座って待っててください」



 卵が半熟になったところで火を止める。

出来上がったうどんをダイニングテーブルに座って待つ彼女のもとに持って行く。

 一口たべて「美味しい」と呟いた。

 それがなにより嬉しい一言だ。



 無理矢理聞くよりも彼女から話をしてくれるのを少しだけ待つ事にした。

 きっと恥ずかしがり屋の彼女の事だから中々言い出さないかもしれない。だから少しだけ待つ。

 お互い無言でうどんをすする音だけが部屋に響く。

 食べ終わり食器を片している間は彼女に生姜入りの紅茶を出し、ソファーでくつろいでいてもらった。少しでも心が落ち着いてくれる事を祈って紅茶を入れたつもりだ。



「もう遅いし、今日は泊まって行きますか? その方が俺も嬉しいし」



「あ~……でも替えの下着とか無いし、今日はもう少ししたら帰るわ、急に押しかけてごめんね」



 本人は元気そうに話しているつもりなのかもしれないが明らかに何かを隠し抱えている。

 その抱えている何かが晴れてくれるまで彼女の側を一瞬たりとも離れたくない。



「下着は今から洗えば朝までに乾くし、スーツはシワにならないようにハンガーにかけてあるし、あー、ストッキングは今すぐにでもコンビニで買ってきますから、泊まってください!」



「あ……はい……」



 そうと決まれば即座に行動。流石に俺が下着を洗うのは嫌だと言われ彼女が自分で洗うと洗面所に籠った。

 その間に俺は走ってコンビニに駆け込んでストッキングとメイク落としをレジまで持って行った。



 ハァハァと息を切らしながら女物のストッキングを買おうとしておる男、店員さんから物凄い変態を見るような目で見られたがそんなの気にならない。ピッとバーコード決済で瞬殺で会計を済まし走ってアパートに戻った。

 俺はこの寒い季節に一人全力疾走で汗をかいていた。



「真紀! 買ってきたから明日の心配はないよ!」



「あ、ありがとう」



 冷蔵庫を開けミネラルウォータをゴクゴクと一気に飲み干した。

 ふとお酒が目に入り少しアルコールが入った方が彼女が素直になりやすいかな? と思いお酒を進めてみた。「飲む」と頷くので冷やしておいた缶チューハイを二本冷蔵庫から取り出し彼女に手渡した。




「これ飲んだらゆっくり寝ましょうね」



 プシュッと缶を開け軽くカチンと乾杯をする。

 全力で走ったからか、お酒が美味い。

 彼女は両手で缶を包み込むように持ち、何かを考えているのかボーッと一点を見つめている。



 特に声はかけずにただ彼女の肩に手を伸ばし自分の方に抱き寄せた。



「あのさ……聞きたい事があるんだけど、聞いてもいい?」



 改まって、いったいなんだろう……


ここは会社なので求愛禁止です〜素直になれないアラサーなのに、年下イケメンに溺愛されてます〜

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