その日は、鳥取支部の異能祓魔院には泊まらず、ホテルを取って三人は宿泊した。
翌日、相手に顔も異能も見せてしまっていては、隠密の意味もないと踏み、鳥取砂丘へと足を踏み入れた。
「あ! 待ってましたよ! 睦月さん!」
新道は相変わらずヘラヘラと手を振っている。
神官の姿は見当たらなかった。
「他の……鳥取支部の人たちは……?」
止水の予測が正しければ、睦月のモヤモヤとした嫌な予感は的中したことになる。
「みんな不合格。今日試験を受けるのは、浮田です。僕とあなた達で神官は倒しましょう」
新道の背後には、震えた浮田の姿が見られた。
止水の予測。
それは、『一人ずつ神官と対峙し、死亡させずに引退に追い込ませる重傷を負わされている』と言うもの。
浮田も、その試験の一人と言うことだ。
「まあ取り敢えず……」
しかし、新道は徐に手を掲げる。
「その “無能力者” は必要ないですよね」
そう言うと、砂上が人の形を帯び始める。
「新道!! それは異能教徒とやってることが変わらないぞ!!」
睦月は咄嗟に叫ぶが、時既に遅く、砂の人形は止水に襲い掛かる。
「あー、大丈夫っス」
しかし、止水は冷静に砂の人形を交わした。
「何……?」
「うーん、こんな単純な奴なら、ゲームしながらでも避けられますね。隊長たちはご心配なく」
「ふっ……、ま、まあ、異能祓魔院にいるだけのことはある……! それだけのことだ!! さあ、試験の時間だ……。浮田!! 穴の中に入れ!!」
浮田は足を震わせ、身動きが取れない様子だが、不思議と穴は浮田の足元まで迫る。
「えええぇ……なんでええぇ……」
今にも泣き崩れそうな浮田。
「隊長! 俺のことはいいんで、その人助けてやってください!!」
「わ、分かった……!!」
しかし、向かおうとする睦月の前に、新道が立ち塞がる。
「これは鳥取支部異能祓魔院の問題です。あとで神官は倒すんですから、今は立ち入らないで頂きたい」
「お前……!」
浮田が穴に沈み込まれる瞬間、
「なんだ!?」
瞬時に新道は振り返る。
「すげぇ……! 中、見てみてぇ……!!」
そこには、高速移動した楽がいた。
そして、浮田と共に穴の中に吸い込まれた。
二人が吸い込まれると、穴は閉じてしまった。
「睦月さん……あの少年……」
睦月の心配を他所に、新道は、
「どこで見つけたんですか……!」
怖いほど嬉々とした笑みを浮かべていた。
その頃、穴の中に吸い込まれた楽と浮田は、神官サンドリームと相対していた。
「おや、来るのは一人と聞いていたのですが……元気な君も試験の対象者ですか?」
「あ? 試験? 知らねぇけど、お前が神官なんだろ。悪ぃけどぶっ倒させてもらうぜ」
楽は、中がただの空洞でガッカリしていた。
そのイライラをぶつけようとさえしていた。
「ねぇ……君は……神官が怖くないの……?」
隣で膝を突く浮田が楽に問い掛ける。
「は? なんで?」
「だって……神官ってことは神の力を扱えるんだよ!? 私たち普通の異能力者が勝てるわけない……!!」
青褪める浮田に対し、楽は鼻くそをほじった。
「目の前に、手加減なく殺してもいい奴がいんだ。誰がおちおち見逃してやるかよ。自分の強さを確かめられるチャンスだしな」
その言葉に、浮田は楽に対しても顔を青褪めた。
ニヤリと笑みを浮かべる楽。
互いが戦闘態勢に入ったその時だった。
ドォン!!
睦月、止水、新道の三人は、新道の異能で無理矢理穴の中に飛び込んできた。
その光景に、サンドリームは憤慨を覚える。
「おい……約束と違うぞ……」
「アハハ……もういいんだ……どうせお前は殺すし……それよりも凄く面白いものを見つけた……!」
新道は宝を見つけたかのように嬉々として腕を上げる。
「僕の異能力は『振動』。この様に振動を加え様々な物を操ることができる。それに付随して、君たちの筋肉や心臓の鼓動も、振動として聞こえるんだ……」
ワナワナと楽を凝視しながら話は続く。
「楽くん……君の鼓動は素晴らしい……! こんな絶対的窮地を前に……君の鼓動は確かに高鳴っていた。ワクワクしていた。ウズウズしていた……。まるで子供のように、これから殺し合いが始まる時だと言うのに!!」
確かに、そう言われれば異常なことではあるが、睦月たたはいつもの事すぎて頭に入ってなかった。
しかし、その楽の異常なまでの戦闘意欲と好奇心が、新道の心を狙い撃ちにしていた。
「サンドリームさん、僕たちからは手出しはしないが、もう試験は中止でいい。楽くんと戦ってくれ……!」
「何を勝手に……!」
「僕も手を貸す。絶対に彼は殺させない。睦月さん、約束します。いいですか……? いいですよね……?」
その勢いに、睦月も圧倒される。
「わ、わかった……。この距離なら直ぐにでも助けには入れるし……補佐に回ってくれるなら、いいだろう……」
元々、楽は単騎で活躍する戦闘スタイルなことも見越した上での譲歩だった。
楽が戦っている隙を突けばいい。
そう、止水と企んでいた。
しかし、睦月の予想を遥かに超える戦いが始まる。
「さあ、見せてくれ……! 楽くん……!!」
そして、神官サンドリームと楽は動き出す。
楽の突撃に、新道もピタッと張り付く。
「いいね……! 殺すことになんの躊躇いもない……! 禍々しい強者のオーラ……! 凄いね……!」
「あーもう、うるせぇよ、お前!!」
砂を自在に操るサンドリームは、楽の攻撃を砂の防壁を作ってガードした。
「なら……憑依切り替え!!」
スン……と、悪魔の禍々しいオーラが消え、愛の歩みでサンドリームの背後を取る。
しかし、再びサンドリームは砂の防壁を瞬時に作る。
「ダメだ……どこ攻撃しても砂が邪魔だな……」
「凄いね……! オーラが切り替わった! そんな戦い方も出来るんだね……! 天性の才だよ……!」
「あとコイツも邪魔!!」
ムカムカと新道の興奮により、楽は戦闘において全く集中が出来ていなかった。
その瞬間、
「えい!!」
全員は砂の上へと急上昇を始める。
「な、なんだ……!?」
「今だ……!! 楽……!!」
「隊長……!!」
全員を砂ごと浮遊させたのは、浮田だった。
そして、それを指揮したのは、止水。
睦月は既に、サンドリームの背後に回っていた。
そして、楽と睦月の挟み撃ち。
「ナメるなよ……!」
サンドリームは全身から溢れるほどのオーラを放出し、周りの砂を一面自身に纏わせ、巨大なゴーレムとなった。
「これは……」
睦月も、貫通が及ばない膨大な力に、唖然とする。
「これが……神の力か……!!」
しかし、動きを止めた睦月とは違い、楽は膨大なオーラを前に、前身を止めなかった。
そして、そのパンチは、膨大なゴーレムの脚を破壊していた。
「なん……だと……!?」
サンドリームも驚愕に声を漏らす。
一時は苛立ちを露わにしていた新道だったが、この光景を見て、また嬉々とした笑みを浮かべた。
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