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「何故ここにいるか、だと? 国を捨てた人間が吠えるな! 我らエルフはキサマたちが放棄したここを守り、棲んできただけのこと。我らだけでは無く、兎人《とじん》族もここを守り抜いた。それだけのことだ!」
サンフィアと名乗るエルフが姿を現わしてから、ちらほらと他の獣人も姿を見せ出す。エルフの他にも兎人族がいて、シーニャと同族の虎人《こじん》族、そして少数ながら猫人族の姿も確認出来る。
耳の長いエルフが数人と獣耳の獣人が数十ほど見える。信じたくは無いが、貴族の遊びにでもされただろうか。
「守り抜いた? それはここのエリアをか?」
「我らが人間に与えられた場所はこの森ぞ! 獣人はもちろん、エルフはこの先に立ち入ることさえ許されなかった。故に、魔物が侵入しようとも森だけは必死に守り抜いたのだ!!」
公国に暮らしていた頃からそうだったのだろうか。子供の頃は居住区から外側へは滅多に出ることが無かった。まして国が危ない時も、森に何がいるのかさえも分からずに逃げた。
それだけに、まさか森に棲んでいたとは。
「お前たちは、いつからここにいる?」
「魔導兵反乱の時より前だ。近くの森を追われ、ここに棲みついた。国を捨て逃げたキサマごときが、我らに戯言《たわごと》をほざくな!」
「……なるほどな。おれがガキの頃からいるのか」
イデアベルク公国は貴族が多くいたが、君主はどうしようもない奴だった。裕福でなまじ魔力も有していただけに、滅亡の原因を作ってしまったわけだ。
しかし、周辺を含めた規模でいうなら王国よりも面積はでかい。ここのエルフは周辺の森を追われてここに棲みついたということか。
「我らはキサマら人間と講和するつもりは無い! 去らなければ、我の刃がキサマの喉元に突き刺さると思え!!」
なかなか好戦的なエルフだ。他の獣人は子供も混じっているせいか、石や木の矢を向けているのが精一杯の抵抗のようだが。
「フゥゥ!! お前、何なのだ! アックに刃を向ける、シーニャ許さないのだ!!」
「……フン、人間の周りをウロチョロしているかと思っていれば、虎人族のメスか。人間に従うメスに用は無い! もちろん、そこのドワーフも同様だ!!」
「えぇっ!? わ、わたしも敵とみなされているんですか!?」
「この人間に従っている時点で、全て敵とみなす」
人間がいなくなってからも森を守り抜いて来た……となると、抵抗するだろう。出来れば戦わずに済ませたいが、国を立て直すには後々エルフたちも必要になる。
「ウウゥッ……!!」
そう思っていたら、シーニャの方から攻撃を仕掛けていた。森よりも際立つ真紅のローブに身を包むエルフは、姿だけで判断すれば魔導士そのもの。シーニャの攻撃に対し、特に武器で応戦するつもりが無いように見えた。
それどころか口元で何かを呟き、詠唱のようなものを発しようとしている。どうやら幻影の火矢を作りだしたのもこのエルフらの仕業らしい。槍の矛先はおれの喉元にあるままで、シーニャには幻影魔法。
このエルフの実力は相当なものなのでは?
シーニャが先に動いてしまったので、相手の出方を待つしか無い。
「イスティさま、わらわが人化して獣人を制するなの」
「人化して? どうやるんだ?」
「その為にもわらわに炎属性を付与して欲しいなの」
「……よく分からないが、任せていいんだな?」
「はいなの!」
フィーサの属性剣なら突破口は開けそうだが。
「フフッ、小娘だけでは心もとないですし、あたしも動きますわ。アックさまは虎娘とルティの動きを見定めてからお動きくださいませ」
「ミルシェも獣人の方に行ってくれるのか。それなら、頼む」
「むぅ~!」
言われたとおり、おれはふてくされるフィーサに炎属性を付与する。ミルシェは不満そうなフィーサを手にして、エルフの死角から行動を起こした。
槍だろうが魔法だろうが制するのは容易《たやす》いが、おれ自身が力を示すのはここじゃないということだろう。エルフとシーニャ、ルティの様子を窺《うかが》いつつ、おれは彼女たちの動きに注意を払うことにした。
「――フン、小賢しい人間め」