現状ではエルフの敵対心はおれとシーニャの両方にあり、気を抜くことが出来ない。向けられている槍が当たったところでダメージを負うわけではないが、ここはシーニャの攻撃を見守ることに。
「ウガウウッ!!」
シーニャの爪による連続攻撃がエルフに繰り出された。攻撃の全てが命中し、エルフは防戦一方のようだ。
しかし、
「おかしいのだ、おかしすぎるのだ! 全く手応えが感じられないのだ、ウウニャ」
「……強力な爪の攻撃とはな。ただの虎人族ではなかったわけか。しかし手数が多くても、我に当たることは無い」
「何なのだお前! 一体どうなっているのだ!?」
確かにシーニャの攻撃は全て命中している。しかし、どうやら既にエルフの術中にかかっていたようだ。敵の術はおれが使える幻影魔法に似ているが、エルフの幻影はまやかしのようにも見える。
エルフといえば、狩猟採集をしながらひっそりと暮らす者が多いと聞く。だがサンフィアなるエルフは、魔法や幻術に長けていて好戦的。希少《レア》なエルフ、あるいは。
「……フ、既に決した」
エルフの女がそう言ったところでシーニャを見ると、幻影のエルフに何度も連続攻撃を当て続けていた。この女の実力は確かなもののようだ。
「わ、私は騙されませんからね~!! てええい! えいやぁ~えいやぁ、えいやぁ~!」
――などと、ルティも複数の幻影エルフに殴りかかっていた。二人をいとも簡単に騙せる強さであれば魔物にやられずに長く守り抜けそうだ。
そうなるとおれが出来ることは――。
「人間、キサマ! 獣人の子らを人質とするのか!?」
「――う?」
「おのれ、我を謀《たばか》ったな!」
余裕を見せていたエルフの女が急に怒りを露わにしだした。何事かとエルフが目をやる所を見てみると、そこには人化したフィーサとミルシェの姿があった。
人化フィーサの両手には炎の塊があって、間近で見る獣人の子たちからは身震いが起きている。ミルシェは防御魔法で見えない壁を作り、森から出られないような恐怖心を与えていた。
直接手出しをするわけじゃないとはいえ、おれの動きを止めているエルフにとっては屈辱的な光景に映っているとみた。
「キサマ!! 小賢しくも卑劣な行為を取るというのか!」
おれの作戦でも無いがエルフ一人が突出すれば他の獣人は守れない。そのことに気付いた彼女たちの作戦勝ちという結果で違いないだろう。
「……おれはお前と戦うつもりなど最初から無い。無論、他の獣人たちにもだ」
「無いだと? 人間ごときキサマが、森に侵入しといて何をほざく!」
「森だけじゃなく、ここイデアベルク公国そのものを取り戻す為に来た。お前たちと戦いに来たわけじゃない!」
「国を取り戻すだと……? 人間に何が出来る! 戦いに来たわけじゃなければ、子らへの炎を消せ!! そうでなければ、すぐに突き刺す!」
「それはいいが、こちらのことも聞いてもらう。お前が仲間にかけた幻影を今すぐ解くというのなら、手出しはしないことを約束する! 槍を捨て、おれに向けている刃を引け!!」
人間に手ひどいことをされての抵抗か、それともエルフとしての誇りによるものなのか。話が通じない相手とも思えないが。
「……フン、いいだろう。我はキサマへの刃を引く。だが幻影を解いて欲しくば、ゲートの奥から感じる仄暗い存在をキサマだけで消してみろ! キサマの力が信用に値するものならば、我はキサマにとって足り得る者となろう」
エルフたちと交戦しているうちに奥から魔物を呼んでしまったか?
しかしこれは思いがけない機会。ここでおれの力を見せつけて認めさせれば力強い味方を得られる。
「――いいだろう。お前の幻影を使って、巻き添えを食わないようにしてもらうぞ!」
「……フ、生意気な奴め」
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